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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十六章 エルフ護送隊長ユージは種族間交易の人間側責任者にランクアップした』

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第十話 ユージ、稀人の残した手紙を読む

いつもと視点が違います。

ご注意ください。

 お前がこの手紙を読む時、俺はもうこの世にいないだろう。


 ……当たり前だな!

 すまん、書いてみたかったんだ!


 さて。

 この手紙が読めるってことは日本人か?

 ああ、日本語を勉強した外国人ってこともあるのか。

 まず最初に、お前が一番知りたいことを教えよう。


 こっちでは重婚は犯罪じゃないからな!


 違うんだ、俺が口説いたんじゃなくてあっちからアプローチされたんだ!

 向こうの世界じゃモテなかったからついつい……!

 え? 知りたかったのはそれじゃない?

 まあコーヒーでも飲んで落ち着けよ。

 ……コーヒー、飲みてえなあ。

 あ、向こうでもほとんど飲んでなかったわ。


 落ち着いたか?

 じゃあ今度こそ。


 俺は向こうの世界に還る方法を見つけられなかった。


 俺の功績は聞いたか?

 馬車を工夫して遠出を楽にして、いろんな情報を集めた。

 俺たちと同じように向こうの世界から来た『稀人』ってヤツの情報も。

 エルフと知り合って、里に行ってからもな。

 ああ、ここじゃなくて前の場所にあった時なんだけど。

 今のこの里は、俺と嫁たちと子供たちで作ってみんなを移住させてきたんだぜ? すげえだろ?

 すまん、話がそれたな。

 稀人の情報を集めていくうちに、俺はあることに気づいた。

 お前は気づいたか?

 というかこっちで生活してるなら、キースさんの墓標を見れば気づくか。

 そう。


 ()()()()()()()んだ。


 キースさんが死んだのは西暦で1950年。

 俺は英語もたぶんドイツ語? もアレなんでキースさんの手紙は読めなかった。

 だからいつこっちに来たかわからないんだけど、まあそれは重要じゃない。

 俺がこっちに来たのは2010年。

 重要なのは、キースさんの死から60年しか経ってないはずなのに、こっちでは少なくとも500年以上経ってるってことだ。


 もう一つ。

 俺がこっちに来てすぐの時は、まだスマホも動いてた。

 電話もネットも通じなかったけど、いま言いたいのはそこじゃない。

 スマホの時計で確かめたんだ。

 こっちでも一日はだいたい24時間だ。

 落ち着いてからざっくり数えてみたんだが、一年、というか季節が一巡りするまで365日からそう外れてもない。

 頭を抱えたよ。意味わからねえってな。

 いや、いまも意味わからねえけど。


 で、いろいろ考えた。

 俺はたいして頭よくなかったから、こっちの頭いい人に相談したりしてな。

 アイツらすげえんだぜ?

 俺の言うことを目を輝かせて聞いて、質問に答えてったらどんどん理解してやんの。

 うろ覚えの俺の数学なんてあっという間に超えちまった。

 まあ当然っちゃ当然か、地球だって昔のギリシャとかローマとかすごかったんだろ?

 俺と嫁さんと子供たちが創った国で『一番の頭脳』って評判のヤツらだったからな。

 何人も一番を名乗ってたのは笑ったけど。

 どこで習ったって聞かれたから、学校を説明してたらすげえ興奮してたっけ。


 また話がそれたな。

 まあそれで、俺とアイツらが推測したのはだな。


 こっちの世界と向こうの世界は()()()()()ってことだ。


 いや、次元がズレてるだったかな?

 詳しいことは現地の言葉で書かれた羊皮紙の束を見てくれ。

 隣の木箱に入ってただろ? あっちだ。

 時間を含めた四次元として考えたら『ここも地球だけど、時間が違ってる』のかもしれない。

 あるいは時間も含め、さらに他の何かも含めた多次元で『ここも地球だけど、時間と何かが違ってる』のかもしれない。

 何言ってるかわからない? すまん、俺もわからん。

 詳しくは現地の言葉で書かれた羊皮紙の束を見てくれ。

 俺そっちのけで考えを進めた学者たちに聞いてもいいかもしれないが、アイツらまだ生きてるかな。


 ともかく。

 俺もアイツらも、魔法に詳しいヤツらも、出した結論は一つだ。


 還れない。

 というか、還る方法がわからない。


 まあ俺がこの手紙を書いているタイミングではまだ、な。

 アイツらの興味を惹いたらしく、研究はまだ続けてくれるらしい。

 金は入るようにしておいたから、運が良けりゃお前がいる頃にも続いていて、もう見つけてるかもしれない。

 見つかったかどうかは、エルフのハルに聞いてくれ。

 もしかしたらハルじゃなくなってるかもしれないが、王都、で通じるか?

 王都リヴィエールにエルフがいるはずだ。

 場所がわからなくなってたらそこらのエルフに聞いてくれ。


 アイツらには、わかったらハルに伝えるように言ってある。

 というか、研究を続けているようならハルから金を渡してるはずだから、見つかったかどうかはこっちに報告が入るようになってる。

 どうだ? 還る方法はわかったか?

 この手紙をお前が読むまで、ハルが何も言ってなかったら……まだ見つかってないんだろうな。

 アイツ、俺の話を聞いて向こうの世界にずいぶん興味を持ってたから。

 俺にとっちゃこっちが憧れのファンタジー世界だったんだが、ハルにとっちゃ向こうが憧れのファンタジー世界なんだろ。

 行きたい、行きたいって俺にまとわりついてきてたからな。



 さて。

 お前がこの手紙を読む時、俺はもうこの世にいないだろう。


 エルフはお前にもよくしてくれたか?

 昔の稀人に救われたとかで、俺にもすげえよくしてくれて。

 国を創ることになった時、こっちに移ってもらったんだ。

 辺境、大森林の奥の奥。

 ここなら、俺の息子が創った国が無くならない限り、手を出すのは難しいからな。

 ついでに俺と嫁さんと子供たちものんびり暮らしたかったし。

 長生きのエルフなら、俺のことも1000年ぐらいは覚えていてくれる。だからきっと、この手紙もお前に伝わったんだろう。


 俺の息子が創った国は今もあるか?

 「みんなちがって、みんないい」が続いてるか?

 エルフは、ドワーフは、獣人は、人間は、迫害されてないか?

 奴隷制は壊しきれなかったが、理不尽に苦しんでいる人はいないか?

 ……俺はたくさん殺した。

 モンスターも、人も。

 後悔はしていない。してないけどよ。

 俺と、俺の嫁と、俺の息子が創った国で、みんな幸せそうか? 自由に生きてるか?


 イザベルは元気か?

 俺とイザベルの子は元気か?

 嫁も息子も孫も、幸せだと、あとは任せてと言ってくれた。

 でもアイツとの子供には会えそうになくてな。

 頼む。

 もしアイツらが困ってたら、助けてやってくれ。

 エルフだからいまも生きてるはずだ。

 あとお前も気をつけろ。

 レベルアップして寿命が延びる、見た目の老化もゆっくりだってのはいい。

 でもな、死ぬ直前まで元気だったのは俺もビビった。

 そろそろやべえなと思ったら絶対するなよ。

 まあイザベルだけ子供がいなくてな、ギリギリ間に合ったとも言えるんだけどな。

 せめてあと5年生きられれば、子供も俺のことを覚えていてくれたかもしれねえんだけど。


 そうだ、お前、英語だかドイツ語だかは読めるか?

 もし読めるなら、キースさんの手紙を読んでみてくれ。

 それでジルさん、ああ、この場所の守り人へのメッセージがあったら伝えてやってくれ。

 伝える前に、中身は誰かに相談してからな。

 ジルさんは忘れ薬を使ったらしいから、ひょっとしたら知りたくないかもしれないし。



 俺はここで死ぬ。


 還りたいわけじゃないんだ。

 こっちには嫁も子供もいるからな。

 でも、立派になった俺を母ちゃんと姉ちゃんに見せたかった。

 俺の嫁を、子供を、孫を、見せたかった。

 母ちゃんと姉ちゃんのおかげだって。


 還りたいわけじゃないんだ。

 ああ、でも、日本の米が食べたいなあ。

 不思議なもんで、140年経ってても母ちゃんのメシを思い出す。

 こっちには微妙な米と魚醤しかなかったよ。

 白メシと、味噌汁と、焼き魚と、醤油と、納豆と、漬け物と。

 ああくそ、メシだけはどうにもならなかった。

 母ちゃんと姉ちゃんを手伝って料理を覚えておけば……無理か。

 そもそも材料がねえもんな。



 もし。

 もしお前が還れたら。

 それで、もし俺の母ちゃんと姉ちゃんが生きてたら。


 急にいなくなってごめんって伝えてくれ。


 大学までは出すんだって女手一つでがんばってくれた母ちゃんでよ。

 たぶん俺は、家出か行方不明扱いになってるだろう。

 そっけない会話しかできなかった。

 お前も経験あるだろ? 思春期ってヤツだったからな。

 親になってからのほうが、母ちゃんに愛されてたんだってわかるなんて皮肉だよな。


 俺はこっちで夢を見つけて、夢を叶えて幸せに生きたぞって伝えてくれ。

 俺たちを捨てていったクソ親父に付けられたクソみたいな名前だけど、俺は名前の通り夢を叶えたぞって。

 俺と、嫁と、息子たちが創った国は、けっこう誇れる国になったと思うんだ。

 お前が来た今も残ってるといいんだが。

 こっちで見つけた夢を叶えて、結婚して、子供ができて、孫もできて。

 幸せに生きたんだって伝えてくれ。


 嫁さんの数は、うん、まあ、その、な。

 ちゃんと愛し合ってたから!

 こっちじゃ重婚は犯罪じゃないから!

 クソ親父とは違うから!



 じゃあ。

 還れなかったとしても、お前がこっちで幸せな暮らしを送れることを祈る。

 まあこれまで苦しかったとしても、稀人のお前にはエルフが味方になってくれる。

 これからは大丈夫、せめて平穏な暮らしは送れるはずだ。



 幸せな人生だった。



 願わくば、お前も幸せな人生を送れることを。

 願わくば、時間軸とやらがどうにかなって母ちゃんと姉ちゃんにメッセージが届くことを。



        高橋 ()()()()



 追伸

 制服の胸ポケットの生徒手帳に俺の向こうでの住所がある。

 時間次第だけど、もし還れたらその住所に母ちゃんと姉ちゃんがいるはずだ。

 あとテッサはこっちで付けられた二つ名だ。日本じゃ通じない。

 なにしろ名前が名前だから、こっちではテッサと名乗ってた。

 二つ名の由来は、イザベルにでも聞いてくれ。

 ただ本名の解説は俺を知ってるエルフのみんなにしなくていいからな?

 絶対だぞ!

 フリじゃねえからな!


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― 新着の感想 ―
[良い点] グッとくるよねぇ… [一言] 仕事だ、リアル解析班!!
[良い点] 軽いけど、その分余計に泣けてくる テッサ様、頑張ったんだねぇ
[良い点] 色々元の世界への想いもあっただろうし、こっちの世界で多くの幸福や苦労もあっただろう・・・ だが軽っ! 逆に、そこがちょっと涙腺に来る。
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