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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十六章 エルフ護送隊長ユージは種族間交易の人間側責任者にランクアップした』

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第四話 ユージ、長老たちと話をする

『ああ、もういいわい。格好つけるのはやめていつも通りにするか』


『そうねえ、意味ないみたいだし』


『うむ。では第三回エルフの里長老会をはじめよう』


『え? あの、少なくないですか? いつもやってるんですよね』


『ユージ殿、突っ込みはもっとこうビシッと』


『そもそも何回目かなぞ覚えておらんわ!』


『あ、ハル、飲み物を用意してあげて頂戴。みなさんお茶でいいかしら』


 エルフの里、その裏手にある林の中。

 大きな楕円の木のテーブルのまわりには、老エルフたちとユージたち一行の姿があった。

 歳を重ねた10人のエルフによる長老会。

 それは、ユージの想像以上にくだけたものであったようだ。

 ユージが慣れないツッコミにまわるほど。


『えっと、その……』


『ユージ殿、まずはリーゼを助け、保護してくれたことに感謝を。ユージ殿がいなければどうなっていたかわからぬでな』


 集まっていた10人の老エルフとリーゼの両親が揃って頭を下げる。


『いえ、その、たまたまなんです。助けたのも言葉が通じたのも』


『たまたまであっても、保護していただいたことにかわりはあるまい。大まかに話は聞いておる。ケビン殿にも感謝を』


「ありがとうございます。みなの協力があってこそです」


 ハルを通して訳された言葉を受け、ケビンが述べる。

 まるでリーダーのような言葉であった。まあ実際ほとんどを仕切ったのはケビンなのだが。


『では先にそちらを片付けてしまおうかの。ゲガス、引退するのじゃな?』


『ああ、俺ももう歳だしな。ゲガス商会は別のヤツに継がせるが、お役目はコイツに継がせようと思ってる』


『ふむ。ハル、試したのじゃろう? どうじゃ?』


『いいと思うよ! 防御特化の近距離戦はボクも剣じゃなかなか抜けなかったしね! 遠距離戦なら弓と魔法で瞬殺できると思うけど!』


『遠距離でおぬしと戦えるニンゲンがいたら、そっちのほうが驚きじゃ』


『そうよハル。それにしても、いくら剣だからってハル相手に粘れるなんてねえ』


『あ! ケビンはゲガスに勝って、娘を嫁にしたんだって!』


『おいハル、それは言わなくてもいいだろ!』


『ほう、あれだけ娘にデレデレだったゲガスが嫁に出すとはのう』


『戦闘力は問題なし、人柄も問題なさそうか。ハル、ケビン殿の情報網はどうなのだ?』


『保存食、それから服。耳が早い王都の商人なんかはもうケビン商会に注目してるね! これからいろいろ繋がってくんじゃないかなあ』


『俺からも補足を。商会は別なヤツに跡を継がせたが、ケビンはもともとゲガス商会出身。こっちの情報網も使わせてやるつもりだ』


『ふむ、ではそれも問題なしか』


『それになあ……』


『どうしたゲガス?』


『今回、稀人を見つけたのもエルフを保護したのも、俺やハルよりコイツのほうが早かったのよ。知らなかったとはいえ、な』


『えっと、ケビンさんに会ったのは……こっちの人で5人目だったと思います。1年目の秋にアリスと会って、2年目の春に冒険者と会って、そのあとすぐですね』


『なんともまた……並外れた運の持ち主か』


「いえ、それは私ではなくユージさんのほうですよ!」


『それもまた運命よな。…………いまの儂、かっこよくなかった? それもまた運命よな』


『あははは!』


『台無しよ! せっかくそれっぽかったのに!』


『え、えっと、みなさん……』


『ああ、すまぬなユージ殿。ゲガス、問題あるまい。では今後、お役目はケビンとする。エルフの言葉を教えておくようにの』


『ああ、それはこれからみっちりな』


「え? お義父さん、どこで教える気ですか? ……まさか開拓地で?」


「そのつもりだ」


「その、ジゼルと離れたくないからじゃないですよね?」


「ケビン! そんなわけないだろ! いくら娘がかわいいからって、なあ」


「ゲガス、バレバレみたいだよ?」


「その、ゲガスさん、共同住宅かテントなら空いてますから……」


「ユージさん、そういうのいりませんから!」


「そうだぞユージ殿。俺なら野外でも問題ない」


「お義父さん、そういう問題でもないです!」


「えー? ゲガスおじさん、開拓地に住むの? じゃあアリスに剣を教えてくれる? しゅばしゅばっ! ってやつ!」


 カオスである。

 そしてアリス、なぜゲガスなのか。開拓地には元3級の冒険者もいるのだが。

 どうやらアリスは、カットラス二刀を振り回すゲガスの剣術がかっこよく見えたようだ。

 異世界の少女も、二刀流には憧れるようである。


『はいはい、話を戻すわよ! ……それで、なんだったかしら?』


『お祖母さま……』


『諦めなさい、リーゼ。母が簡単に変わるわけないだろう』


『ユージ殿とケビン殿に謝辞は伝えた。それとお役目の引き継ぎも承認。次は歓迎の宴の話かのう?』


『おおそうじゃ、ユージ殿、この後は宴となるでな、腹を空かせておくように』


『おぬしらついにボケおったか? 本題がまだだろうに』


『うむ。ユージ殿。我らエルフは、稀人に大きな恩がある。ゆえに、稀人が困っているようであれば保護しておるのじゃ』


『ユージ殿、いまの生活はどうか? 不満や危険を感じているのであれば、エルフの里で受け入れよう』


 ようやく真剣な顔つきになる老エルフたち。

 無駄口は終わり、木立には静寂が流れていた。唐突な切り替えである。


『特に危ないと思うこともないですし、不満はありません。俺、これでも開拓団の団長で、しかも貴族の後ろ盾もあるんです!』


『ほう。身ひとつでこの世界に来て、すでに安定を手にしておるか』


『はい!』


 いや、そもそも身ひとつで来ていない。家ごと来ている。ライフラインとネットとともに。

 ワンッ! と大きな声で異議を申し立てるコタロー。ゆーじにはわたしがついてたのよ、と言わんばかりに。コタローも身ひとつ発言が不満だったようだ。


『ふむ。では、今のところは移り住む希望はないのじゃな?』


『はい』


『せっかくひさしぶりの稀人なのに……』


『よいではないか、聞けばユージ殿の開拓地は近いそうじゃ』


『そうね……来ないならこっちから……』


 エルフの里に移り住む希望はない。

 そう聞いた老エルフたちは、がっかりした表情を見せていた。小声で不穏な会話をするほどに。


『でもその、どうしてそこまで気にかけてくれるんですか? 恩って何があったんでしょうか?』


『話せば長くなるのじゃが……』


『昔々、私たちが生まれてなかった頃だから、千年以上前のこと』


『おい、語り出しおったぞ』


『もう! それは私がやるって言ったじゃない!』


『お祖母さま、レディは怒ってるところを見せないでいつもお淑やかにって……』


『リーゼ、これが母さんの素だ。諦めなさい』


 リーゼ、レディの現実を知ってしまったようだ。


『千年? え、みなさんちょっと長生きすぎません?』


 ユージ、ナチュラルに失礼である。


『その頃のエルフは魔法もいまほどうまく使いこなせていなかったの。見目麗しく長寿。でも戦闘力はたいしたことがなくて、ニンゲンとは違う特徴を持ち、数も少ない。ユージ殿、どうなるかわかるかしら?』


『まさか……』


『そう、ニンゲンたちに虐げられていた。いまの奴隷よりもっとヒドく、そうね、虐げられていたというより飼われていた、に近かったみたい』


『そんな……』


『千年以上前、里の誰もがまだ生まれていなかった頃の話よ。そこに一人のニンゲンが現れた。こんなの間違ってるってね。そのニンゲンは、お金と力でエルフを解放してニンゲンがいない森に導いたそうよ』


『それがエルフの里のはじまり。そして、そのニンゲンが稀人だったのじゃ』


『すぐに平和になったわけじゃない。ニンゲンの襲撃もモンスターとの戦いもあったようね。でも……いつの時代も、私たちエルフは稀人に救われた。何度も、ね』


『いつの時代も……それは違う人ですか?』


『そう。エルフの寿命は長いけど、ニンゲンの寿命は短いから。稀人も、決して長生きはできないようね』


 何人かの老エルフがわずかに視線を落とす。

 そしてリーゼも。


『エルフの里がこの場所になったのは、いまから300年ぐらい前のことね。その時も稀人が手助けしてくれたのよ。だからせめて、エルフは稀人に恩を返せるように努力しているの』


『その、稀人たちはどうなったんでしょうか? 違う世界から来て、還れたんですか?』


『ユージ兄……』


『ユージ殿、エルフの里には稀人が来た際に連れていく場所がある。過去の稀人たちに、案内するよう頼まれているのじゃ』


『じゃ、じゃあそこへ!』


『うむ。明日、案内しよう』


『ユージ殿、明日、その前にリーゼと息子夫婦と私の家に寄ってもらっていいかしら? 話しておきたいこともあるの』


『お祖母さま?』


『あ、はい、わかりました! それとその、案内してもらう場所以外に稀人の情報はありませんか?』


『ユージ殿、ひとまず明日を待つが良い。というか、案内してから話をするよう稀人に言われているでな。儂らも理由はよくわからんのじゃが……』


 ハルとリーゼが、何度も『ナイショ』だと言っていた稀人の情報。

 すぐに話さなかったのは、それなりの理由があったようだ。もったいぶったわけでも、実は知らなかったわけでもないようだ。


『まあ難しい話は明日じゃ! 今日は歓迎の宴じゃからな!』


『うむ。ユージ殿はイケる口かの?』


『はあ……こんなんですまんのうユージ殿』


『あ、いえ、明日を待ちます。その場所に何があるか気になりますけど……』


『その場所を訪れた稀人は、長時間たたずむようじゃ。今からでは戻る頃に陽が暮れてしまうじゃろう。申し訳ないが、明日案内しよう』


『わかりました』


『では宴じゃな! ハル、合図を送れ!』


『はいはい!』


 老エルフから指示を受けたハルが、ピーッと指笛を鳴らす。

 木立の先、里の方向からわずかに歓声が聞こえてくる。

 里のエルフたちは合図を待ち構えていたようだ。



 エルフの里、二日目。

 ユージの予想外のノリだった長老会は終わった。この後は宴、そして明日は稀人の情報がわかるらしい。

 ユージの期待は高まる。

 期待が高まったユージも、テンション高く宴に突入するのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ここまでRim World的な
[一言] エルフの祖先は現代ネット民の可能性がある
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