第一話 ユージ、エルフの里で宿に案内される
だいぶソフトなつもりですが、一部下ネタがあります。
苦手な方はご注意ください
ユージたちは、エルフの里に到着した。
保護していたリーゼは無事に両親と再会できたようだ。
両親と抱き合ってぐすぐすと泣いている。
歓迎に来ていたエルフも年かさのエルフたちも、その姿を微笑んで見守っていた。
「よし! アリス、忘れ物はないかな?」
「うん! ユージ兄は大丈夫?」
アリスと手を繫いでいた手を離し、リーゼの分の荷物も抱えるユージ。
乗ってきた船をざっと見渡す。
はやる気持ちを抑えて忘れ物チェックのようだ。
だいじょうぶよ、とばかりにワン! と吠えるコタローの鳴き声を受けて、ユージは船を降りて桟橋へ。
続けてアリス、コタローも船を降りる。
「おお……ついに、私もエルフの里へ!」
隣の船に乗っていたケビンも船から降り、興奮した様子である。
そんな三人と一匹を、同行していたゲガスとハルはニヤニヤと見つめていた。
桟橋に降り立ったユージはキョロキョロしている。
稀人とリーゼの歓迎に来ていたエルフは50人程度だろうか。
ユージの目線はすぐにさまよう。
男も女も、美形ぞろいだったのだ。
ユージ、気後れしたのだろう。
ハルやリーゼには慣れたようだが、美男美女の集団を平静に観察できるほどのハートの強さはなかったらしい。
視線を泳がせたユージの目に、いくつもの建物が見える。
白い壁、円錐形に石が積まれた屋根。
エルフの里は、石造りのこじんまりとした建物が基本のようだ。
平たく加工した石を積み上げて白く塗られた建物は、ユージのいた世界にも存在した。円錐形の屋根も含めて。
南イタリアに見られるトゥルッロと呼ばれる形式であり、今も数多く残る街・アルベロベッロは世界遺産となっている。
もちろんユージは知らない。
一棟、あるいはいくつもの建物が繋がったひとかたまり。
ただその白い建物の美しさを見て、おおーと気の抜けた声を上げるばかりである。
ふとユージが遠くに視線を動かす。
建物の向こうには、うっすらと山が見えていた。
体ごと動かしてぐるりと周囲を見渡すユージ。
高低の差こそあれ、エルフの里は山に囲まれているようだ。
いわゆる盆地である。
「うわあ! ユージ兄、きれいだね! 街とも王都とも違うね!」
ユージと同じようにキョロキョロしていたアリスは満面の笑みで目を輝かせている。
9才の少女の目にも、エルフの里の様子は美しいものに映ったらしい。
「そうだねアリス! なんか外国みたいだ!」
異世界である。
10年間引きこもっていたユージは、元いた世界で外国に行った経験はない。ただのイメージである。
「ありがとうアリスちゃん、ユージさん! まずは宿に案内するよ! あとでゆっくり見てまわる時間をとるからね!」
『稀人とお連れの方よ。里にいる間、何かあればハルトムートに声をかけなさい』
『あ、ありがとうございます』
ユージたちを連れてきたハルは、そのまま案内役を務めるようだ。
エルフが使うのは独自の言葉。
ユージとお役目のゲガスはエルフの言葉がわかるが、アリスとケビンは勉強中。
ハルはそのまま通訳として同行するらしい。
歩き出したハルについていこうと足を踏み出すユージ。
だが、すぐに歩みを止める。
話しかける機会をうかがっていたのだろう。
動き出したユージたちを見て、もう良さそうだと思ったようだ。
リーゼとその両親がユージたちの前に回り込んでいた。
『ユージ殿、アリス殿、ケビン殿』
リーゼの父の言葉にコタローがワンッと吠える。わたしをわすれないで、と主張するかのように。自己アピールの激しい女である。就活生か。犬だけど。
『お父さま、コタローを忘れちゃダメよ!』
『すまない、コタロー殿も。リーゼを助け、保護していただきありがとうございました』
『あ、はい。でもそんな気にしないでください。リーゼが来てアリスは楽しそうでしたし、俺も楽しかったですから』
軽い。
軽いが、ユージは特に含むこともなく本心のようだ。
『そうですか……ですが里を抜け出したエルフの子供、私たちのリーゼを守っていただいたのは事実です。私たちはユージ殿に大きな借りができました』
『えっと、そんなに気にしなくても……』
暢気か。
10年間社会から離れていたユージ、このあたりはいまだ成長していないようだ。
いつもなら助け舟を出すケビンはエルフの言葉を勉強中。
必死でヒアリングに集中しているようだが、まだ会話に参加できるほどではないらしい。
「ちょっとユージさん、みんな! はやく行くよ! 話は宿ですればいいでしょ!」
スタスタと歩き出していたハル、ようやく一行がついてこないことに気づいたようだ。
『ほらほら、早く! 宿で荷物を下ろして、さっさと温泉に入ろう!』
『お、温泉? というか、エルフの里には温泉があるの!?』
『そうだよユージさん! 難しい話はさっぱりしてから!』
『もう、ハルったら! あいかわらずなんだから!』
どうやらハルが急いでいたのは、風呂、それも温泉に入りたかったかららしい。現金な男である。
ぷくっと頬を膨らませて不満げなリーゼ。その両親は、ユージとハルの軽さに顔が引きつっていた。当然である。
ブンブンと尻尾を振って、おんせんね、わたし、わたしもはいりたい、とご機嫌な様子のコタローとともに、一行は宿に向かうのだった。
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「これこれ! 帰ってきたって気がするねえ」
「そ、そうですか……」
「これが温泉。素晴らしいですね!」
「エルフの里の名物だそうだ。っても、俺にとっちゃぜんぶ名物みたいなもんなんだがな」
ユージたちが泊まる宿は、白い壁と三角錐の屋根が連なる建物だった。
柱もない構造のため、建物は一棟につき一部屋となっている。
ユージとアリス、コタローの二人と一匹に提供されたのは、三棟が繋がっている三部屋。文字通りのスイートルームである。
宿の中庭にはダイニングやリビングとして使えるようテーブルやイスが置かれていた。
それぞれの部屋には、中庭から入っていく形。
まるで元の世界のリゾート地にあるコテージタイプのホテルのようだ。
あるいはいまだに地方に残る、部屋が独立して一階が駐車場のいかがわしいホテルか。
もちろんどちらもユージは知らない。
荷物を置いたユージたちは、ケビンとハルと合流してさっそく宿の裏手へ。
そこにあったのは、乳白色のにごり湯が溜まる露天風呂であった。
「ハルさん、温泉は近くで湧くんですか?」
「うーん、実は山のほうで湧いてるんだよね」
「え? けっこう離れてるように見えますけど……」
「土魔法で水路を造ったのさ!」
胸を張って言い切るハル。
もちろん全裸である。
ちなみにおっぱいはない。男なので。
エルフの里名物の温泉は、山で湧いたものをひいてきているようだ。
そして。
この乳白色のお湯をたたえた露天風呂には、もう一つ特徴があった。
「ユージ兄、温泉って気持ちいいね! アリス、ユージ兄のおうちのお風呂よりこっちのほうがいい!」
混浴である。
かつて日本にあり、いまは失われつつある桃源郷である。湯源郷である。
まあここに入れるのは宿泊客だけらしく、いまはアリスしかいないのだが。
「そうだねアリス、なにしろ温泉だからね! 露天だし!」
ユージ、アリスと一緒に温泉でも動揺はない。
ユージはロリコンではないのだ。
『ユージ殿、私たちも失礼するよ』
『アリスちゃん!』
のんびりと温泉につかるユージたちに声がかかる。
どうやら稀人と一緒に泊まるよう言われたリーゼと、その父親も温泉に入りにきたようだ。
さらに。
『リーゼ、走っちゃダメよ。こんにちはアリスちゃん。あなたがリーゼのお友達ね』
リーゼの母親も。
もちろん全裸である。
ちなみに胸はほぼない。女なのに。
12才の少女の母親であり、リーゼいわく100才は超えているはずだが、そこは長命種のエルフ。見た目は若々しい。
ユージの顔が赤くなる。
もともと温泉で温まって赤くなっていたが。
『え、えっと、その、そうか、混浴って言ってましたっけ……』
『ユージさん、どうしたの? お風呂ってみんな一緒に入るもんなんでしょ?』
挙動不審になったユージに問いかけるハル。
どうやらエルフたちにとって、お風呂は混浴がデフォルトらしい。
道理でリーゼもリーゼの母親も恥ずかしがらないはずである。
ユージの家のお風呂は一般的な広さであり、アリスとリーゼと三人で入ることはなかった。そのせいでこのエルフの慣習に気づかなかったようだ。
ただ、確かにハルは開拓地に造られた風呂を気に入り、上がっても堂々と半裸で出歩いていた。
どうやら彼にとって、野外の風呂とはこういうものであるらしい。
『お、俺、そろそろ上がりますね! のぼせちゃうし!』
ざばりと立ち上がるユージ。
手は前を隠している。
『ユージさん、あとで呼びに行くから部屋で待っててね!』
ユージ、戦略的撤退である。
ラッキースケベ、というかこの世界では当たり前の『混浴』を楽しむほどの度胸はなかったらしい。チキンである。
「あ、危なかった。それにしても……エルフはみんなあんな感じなのかな……」
体を拭いて服を着ながら呟くユージ。頭は先ほどのリーゼの母親の裸体を思い浮かべている。むっつりか。
そしてその言葉。
どうやら見るところはしっかり見ていたらしい。
ささやかな胸の膨らみは、ユージをがっかりさせたようだ。
ユージは巨乳派なのである。
一足先に体を洗われ、外で待っていたコタローがユージに温かな目を向ける。そうね、おっぱいはだいじだもの、とばかりに。さすが雌犬である。子育てに大切なものとして、コタローは巨乳派のユージの理解者のようだ。獣の観点だが。





