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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 12

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閑話15-7 ブレーズ、開拓地に新しい開拓団員?を迎え入れる

副題の「15-7」は、この閑話が第十五章 七話終了ごろという意味です。

ご注意ください。

「ああエンゾ、見まわりご苦労……ん? なんだそれ? 手紙か?」


「ブレーズ、ちょっと来てくれ。まあユージさん絡みなんだが……」


 ユージたちがエルフの里に向けて出発し、数日が経った開拓地。

 プルミエの街に行っていたエンゾと二人の元冒険者も戻ってきた。

 ユージ不在ながら、開拓地はいつもと変わらない平和な日常である。

 この日までは。


 元3級冒険者、斥候のエンゾの朝と夕方の日課、開拓地周辺の見まわり。

 夕方の見まわりを終えてブレーズの元に現れたエンゾの手には、二通の手紙があった。


「すまんブレーズ、俺にはわかんねえ単語がいくつかあったんだ。ユージさん、ちゃんと勉強してたんだなあ」


 そう言ってブレーズに手紙を差し出すエンゾ。

 この世界の識字率は低い。

 開拓民たちはユージの手配でケビンから提供された教本で勉強しており、全員が簡単な文字は読み書きできる。

 開拓地にいるメンバーでは、元冒険者でパーティリーダーだったブレーズや針子のユルシェルとヴァレリー、木工職人のトマス、高級店で働いていたイヴォンヌなどがさらに難しい単語を理解できるレベルであった。

 ケビンという教師役と一緒に行動することが多く、アリスと一緒に勉強を重ねてきたユージもいまでは上位にいるようだ。


「お前が文字を読めるようになるなんて、進歩してるじゃねえか」


「まあな! イヴォンヌちゃんに手紙を送りたかったし……それにほら、開拓地は夜はヒマだろ? イヴォンヌちゃんが妹さんに教えるときによ、俺も手取り足取り……」


 足は取らない。

 それはイヴォンヌの妹が寝てからである。まあだいたい寝たフリなのだが。


「……おいおい、あいかわらずユージさんはよくわからねえな。エンゾ、それで柵の外に来てるのか?」


「ああ、大人しく待ってるぞ」


「そうか。俺はそっちに向かうから、ジゼルさんと……ああいや、開拓民全員に集合をかけてくれ。どっちに転んでも、知っておいたほうがいいだろ」


「了解」


 手紙をざっと一読したブレーズが、エンゾに指示を出す。

 そのまま開拓地の柵に向けて歩き出すブレーズ。

 手紙を片手に、もう一方の手は頭を掻きむしりながら。



「ブレーズさん? なんかみんな呼ばれ……な、なにコレ?」


「ああ、ジゼルさんか。こっちはケビンさんからジゼルさん宛ての手紙だそうだ。とりあえず読んでみてくれ」


「あ、うん」


 ホウジョウ村開拓地の西側、作成中の用水路近くの柵の中。

 先行していたブレーズの元に、ぞろぞろと開拓民たちが集まってくる。

 声をかけたのはジゼル。

 開拓民ではなくケビン商会の従業員だが、すっかり開拓民に馴染んでいた。


「あはは、なにコレ! ユージさんもコタローもよくわかんない! そう、それじゃこの子たちは新しい開拓団員なのね!」


「まあまだ決まってないらしいけどな」


 ケビンからの手紙を読んだジゼルは、お腹を抱えて笑っていた。

 ブレーズの視線の先。

 いや、集まった開拓民の視線の先。


 そこには、大人しくおすわりする15匹のオオカミたちの姿があった。

 先頭に座り込んだ薄茶色の毛並みのオオカミの背には、現地の文字で『ユージ』と書かれた白旗がなびいている。

 コタローが子分にした15匹のオオカミたち。

 遭遇戦にはならず、ひとまず無事に開拓地にたどり着いたようだ。



「で、どうすんだブレーズ?」


「エンゾか。まあユージさんの手紙にあった通り、こっちを襲ってくる気はないみたいだし……とりあえず柵の中には入ってきたら()るとして、ひとまず放置だな。ジゼルさん、ケビンさんはなんて?」


「帰ってくるまで柵の外に放置、襲ったり開拓地に入ってきたら殲滅していいって!」


 にこやかに宣言するジゼルの言葉に、ビクリと体を震わせる日光狼。

 いつの間にか、オオカミたちの尻尾は足の間に巻き込まれている。


「そっちも同じか。あとはなあ……」


 チラリと日光狼に目をやるブレーズ。

 フイッと視線をそらす日光狼。

 どうやらこの開拓地で誰が強者なのかわかっているようだ。獣の本能か。


「ユージさんが、問題なさそうならあの旗を外してやれってよ。ちょっと外に出るわ」


「あ、ブレーズさん! 私も行く!」


 開拓地の西側の柵に入り口はない。

 高さ2mはある木の柵をヒラリと飛び越えるブレーズ。

 元3級冒険者は伊達ではない。

 続けてジゼルが木の杭に足をかけ、こちらも柵を飛び越える。

 ひと息に越えられなかったのは『血塗れゲガス』の娘といえど、本職は商人だからか。


「おお、大人しくしてるな。ちょっと待ってろ、外してやるから」


「これだけ大人しいと、モンスターでもかわいいわね……」


「ブレーズ! 油断しないでね!」


「もちろんだセリーヌ! コイツらが妙な動きを見せたら射ち殺せよ!」


 日光狼につけられた旗と固定するための木の棒、革のベルトを取り外しにかかるブレーズ。

 柵の内側からブレーズの妻・弓士のセリーヌの警告の声が飛ぶ。

 ブレーズに言われる前から、セリーヌは弓に矢を番えていた。

 一緒に外に出たジゼルは、うっとりと土狼の毛皮を撫でている。

 ユージたちが総出で手入れした毛皮はずいぶん手触りがよいようだ。


「はあ、気持ちいい……ずっと撫でていられるわ。…………毛皮、売れそうね」


 ボソリと呟かれたジゼルの声に、土狼が体を震わせて上目遣いでジゼルを見やる。

 じょ、じょうだんですよね、と言わんばかりに。


「ジゼルさんズルい! エンゾ、ちょっと手伝って!」


 オオカミの毛並みを堪能するジゼルがうらやましくなったのだろう。

 針子見習いのイヴォンヌが続けて柵を越えようとする。

 エンゾにお尻や足を押してもらいながら。

 第二次開拓団・元5級冒険者の独身男たちは、女体と触れ合うエンゾをうらやましそうに眺めていた。露骨である。

 イヴォンヌが柵の頂点までたどり着いたところで、エンゾがヒラリと柵を越える。

 どうやら外側に先回りして、今度はイヴォンヌが下りるのを手助けするつもりらしい。できる男である。決してスキあらば触ろうと考えているわけではない。たぶん。


「ほ、ほんと、大人しいとかわいいわね……」


 日光狼のすぐ横、体格のいい土狼を撫でるイヴォンヌ。

 撫でられた土狼はピクリとも動かない。


 土狼の目の前に、夜叉がいたのだ。

 しゃがみこみ、てめえわかってんだろうな、とばかりにメンチを切るエンゾが。

 エンゾの右手は腰の短剣にかかっており、土狼が少しでも動こうものなら斬り捨てるつもりのようであった。

 理不尽である。

 ユージたちは人を襲うな、開拓地の中に入るなとしか伝えていないのだ。

 撫でられても動くな、などという命令はない。


 と、その時。

 旗と木の棒を外し終わったブレーズが、日光狼に剣を振るう。

 わずかに毛が飛び散り、そして。

 革のベルトが地に落ちた。

 どうやら手で外すのが面倒くさくなったらしい。


「よし、これで外れたな。ジゼルさん、中に戻るぞ。エンゾもな。というか何やってんだお前」


 作業を終えたブレーズが、外に出ていたジゼルたちに声をかける。

 土狼を睨みつけるエンゾを不思議がっていたが、オオカミたちはそれどころではなかったようだ。


 ベルトを斬った早業、皮一枚向こうに感じた切っ先。

 日光狼は震え上がって身を小さくしていた。

 コタローに折られた心は、癒える前に開拓地でも折られたらしい。

 ちなみにエンゾと見つめあっていた土狼は、解放された瞬間にお漏らしして項垂れていた。


 5級冒険者のユージでも傷付きながら殲滅できる15匹のオオカミたち。

 元3級冒険者たちとの実力差を肌で感じ取ったようだ。

 大人しくおすわりしているのは変わりないが、オオカミたちの眼からは光が無くなっている。



「まあ大丈夫そうだな。とりあえず、ユージさんたちが帰ってくるまで外への探索は中止だ。というかコイツらを統率するコタローが帰ってくるまでだな」


 ブレーズの宣言に、5人の独身男たちが、ええー! と抗議の声をあげる。あとなぜかジゼルとイヴォンヌ。毛並みが気に入ったらしい。


「あー、それと。針子たちとトマスさんたち、マルクは……もう大丈夫か。戦う力がない開拓民は、村の中を移動する時でも一人で行動しないように。まあ念のためにな。おまえら、護衛についてやれよ」


 抗議の声をあげていた独身男たちから一斉に歓声が上がる。現金な男たちである。仕方あるまい。独身女性陣が一人で行動できない以上、堂々とアプローチするチャンスなのだ。


 大きな歓声が上がったが、柵の外のオオカミたちはいまだ動かない。


「ブレーズさん! オオカミたちにエサをあげてもいいかしら? コタローさん用の塩抜き干し肉もあるし!」


「ん? コイツらは自分たちで狩りに出るみたいだし、いらねえんじゃないか?」


「餌付けよ餌付け! それに……ふさふさだったんだから!」


 ジゼル、どうやらオオカミの毛並みが気に入ったようだ。売れる発言をしていただけのことはある。


「あ、ああ、んじゃまあ、エサをやる時は戦闘員がついている時だけな。群れで襲われても殲滅できる人員が確保できた時だけにしてくれ」


「もちろんよ!」


 今度は女性陣が色めき立つ。どうやら、もふもふの毛並みを堪能したジゼルとイヴォンヌがうらやましかったらしい。

 いかにモンスターといえど、大人しくしているオオカミたちはかわいかったようだ。


 そのオオカミたちは微妙な表情を浮かべていた。

 川原で食べた調理済みのエサは美味しく、ここでも美味しい物が食べられる。

 うれしいが、食べる時は殲滅できる戦力に囲まれて、である。

 どうやら日光狼も土狼も自分たちの立場を知ってしまったようだ。獣のプライド、バッキバキである。


「よし、じゃあ解散! ほらお前ら、いまからもう非戦闘員を一人にするんじゃねえぞ」


「うっす! ありがとうございますブレーズさん!」


 ブレーズの解散宣言と指示に、揃って頭を下げる5人の独身男たち。さっそく目当ての女性陣に向けて散っていった。

 副村長公認のアプローチタイムである。そこにユージの姿はない。

 まあ喜んでいるのは妻帯者のブレーズと、盾役でこちらも妻帯者のドミニクも同様だったが。

 副村長公認のイチャつきタイムである。とうぜんユージの姿はない。


「はあ……それにしても、ユージさんはあいかわらずよくわからねえなあ」


「ふふ、ブレーズ、まあユージさんだからしょうがないわよ! さ、私たちも帰りましょ!」


 困ったように頭をかくブレーズの腕をとり、笑顔を見せるセリーヌ。

 ユージさんだからしょうがないよね、である。

 ユージの奇行は開拓民にはおなじみのものであるようだ。

 まあ今回はユージではなくコタローのせいなのだが。



 ユージ不在のホウジョウ村開拓地。

 わずかな懸念とともにユージとケビンに送り込まれたコタローの子分、15匹のオオカミたちは無事に受け入れられたようだ。

 開拓団員としてではなく、柵の外で距離を保ちながら。


 副村長のブレーズは、オオカミたちを受け入れながらもリスクを避ける采配を見せ、さらに独身男性とかわいいもの好きの女性陣に喜ばれていた。

 開拓地は、開拓団長にして村長のユージ不在でもうまくまわっているようだ。いつものごとく。



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