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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十五章 エルフ護送隊長ユージ、エルフの里に向かう』

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第十五章 エピローグ

ちょっと短めです。

 水中洞窟を抜けて浮上したエルフの船。

 船は、泉から小川へと進んでいく。


「これはすごい……」


 まわりを見てぽつりと呟くユージ。


 静かに流れる小川、日光を受けて葉をきらめかせる木々。

 手入れがされているのか、木々の間隔は広い。

 下草は刈られている場所と、そのまま茂っている場所があった。

 どうやらこちらも手を入れられているらしい。


 それはまるで、人の手で自然を整えられた庭園のような美しさであった。


「ここがエルフの里ですか! 美しい……そうだユージさん、見ましたかあの紋章!」


 ユージと同じ船に乗っているのは、アリスとリーゼ、コタローとエルフの船頭。

 隣を進む船に乗ったケビンはずいぶん興奮しているようだ。

 好奇心が強い元行商人は、珍しく大きな身振り手振りであった。

 ケビンと同じ船に乗るハルとゲガスは、ユージやケビンのリアクションに満足げな様子である。


「うわあ、うわあ! ユージ兄、キレイだねえ」


 アリスはまわりの景色に目を奪われているようだ。

 ゆっくりと流れていく景色を、忙しそうに頭を振ってキョロキョロ観察している。

 ユージは右手にカメラを握りしめていたが、アリスの右手はリーゼの手をぎゅっと握りしめていた。


『帰ってきたのね! お父さま、お母さま……リーゼ、お話みたいな大冒険してきたのよ!』


 アリスと手を繋いだリーゼは、うるうると目に涙を溜めている。

 ユージたちがゴブリンとオークからリーゼを助け出したのは秋の終わりのこと。

 言葉が通じるユージに保護されて、アリスとコタローと共に暮らし、開拓地で冬を越し。

 春にはワイバーンを倒し、プルミエの街と開拓地を往復し。

 ハルと合流するために、王都へと向かった。

 いまは春も終わり、夏の訪れも間もなく。

 12才の少女は、およそ半年ほど家族と離れて暮らしていたのだ。


「リーゼちゃん、もうすぐ家族に会えるんだね! よかったね!」


 アリスがリーゼに笑顔を向ける。

 両親と兄の一人を失い、もう一人の兄は離れた場所に住むことになった。

 もう二度と両親に会えない少女は、両親と再会する少女に向けて笑顔を向ける。

 強い女の子である。


「アリスちゃん……ありがとう!」


 そんなアリスにがばっと抱きつくリーゼ。

 一緒に暮らし、一緒に旅をしてきたリーゼも事情は知っているのだ。

 抱き合った二人の少女は、静かに涙を流していた。

 足に体をこすりつけるコタローの体温を感じながら。

 遅れて二人を抱きしめる、ユージの腕を感じながら。



「ハルさん、そういえば人がいませんけど」


 寄り添う少女たちから離れたユージが、一行の案内役のハルに声をかける。

 たしかに、泉に浮上してから一人の姿も見ていない。

 木々の枝に鳥を、木々の間にシカを見ただけである。


「ふふ、みんな歓迎の準備をしてるのさ! それに、もうすぐ見えてくるよ!」


 そう言って小川の先を示すハル。

 その言葉を聞いたユージは、じっと目を凝らす。


 小川の先には、両岸にそれぞれ木の建造物があった。

 チラリと動く人影が見える。

 小さな建物は川に向かって大きく間口が開いており、中には二人のエルフの姿が見えた。

 建物の上にも一人。

 両岸合わせて6人のエルフである。


「あれは? 門みたいなものですかね?」


「そうだね、まあこんな道だから、これまでエルフが連れてきたことしかないんだけど! 話は済んでるから、ボクらはこのまま通り抜けるしね!」


 ハルが言う間にも、船は木の構造物へと静かに近づいていく。

 そして。

 ハルの言葉通り、門をあっさりスルーした。

 6人のエルフの笑顔と、小さく振られた手に見送られながら。

 門の意味がない。


 わずかに肩を落とすユージ。

 いい絵は撮れたが、全員男だったのだ。

 まあ里への侵入者を防ぐ兵士と考えれば、男性だけなのはしょうがないのかもしれないが。


 門を素通りしたユージたちの視界が開ける。


「うわあ……」


 そこには。

 わらわらとエルフが集まっていた。


『ただいま! ただいまみんな!』


 リーゼの大きな声が響く。

 満面の笑みを浮かべて、故郷のエルフたちにぶんぶんと手を振っていた。

 12才の少女が離れて暮らしていた故郷に帰り、見知った顔と再会する。

 喜んで当然である。


 そして。

 空いていたアリスの左手を、ユージがそっと握りしめる。

 故郷に帰る方法がわからない男と、故郷を失った少女が手を繋ぐ。

 リーゼが帰れてうれしい、リーゼが無事に家族に会えそうでうれしい。

 笑顔を見せながら、二人の顔にはどこか寂しげな色があった。


 船の進路の先、船着き場らしき場所に。

 見た目も年長なエルフの一団が並んでいた。

 一人が前に出て、ユージたちに向けて宣言する。


『ようこそエルフの里へ。古き約定により、我々は稀人を歓迎しよう。それから……お帰り、リーゼロッテ』


 リーゼの長い冒険は、終わりを迎えたようだ。


 ところで。

 お役目のゲガス、引き継ぐケビンに言葉はないようだ。

 きっと稀人とリーゼの帰還が重要すぎたためだろう。たぶん。



短めですが、エピローグですので…

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