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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十五章 エルフ護送隊長ユージ、エルフの里に向かう』

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第六話 ユージ、エルフとの感覚の違いを実感する

説明回っぽい要素も含まれるナニかです。

「え? 潜水艦? でもそんな、見た目はただの船だし……」


「う、うわあ! うわあ!」


「お義父さん! ハルさん! なんですかコレ! なんですかコレ!」


 開拓地から西へ行った川、その水中から浮き出てきた二艘の船。


 ユージとアリス、ケビンは目を丸くして驚いている。

 コタローもワンワン吠えながら駆けまわり、興奮しているようだ。

 日光狼は尻尾を足の間に巻き込んでプルプルしている。

 土狼たちは、バッと後ろに飛び退いて川から距離を取っていた。


 ここまで内緒にしてきたハルとリーゼは満足そうな笑顔。

 驚く三人とコタローたちを見て、なぜかゲガスもニヤついている。


「ふふふ、ユージさんはやっぱりわかるんだ! でも、これは潜水艇って言うんだよ! 艦だとイメージが違ったんだって!」


「え? イメージ? というかハルさん、どうやって潜ったんですかコレ! 屋根もない小舟じゃないですか!」


「リーゼちゃん! ハルさん! すごい、すごーい!」


「なるほど、ではひょっとして、私たちがハルさんとすれ違わなかったのも、ヤギリニヨンでハルさんが情報を得ていたのも……」


「ケビン、正解! 王都からエルフの里まで、ボクらエルフはコレで移動してるからね! それからユージさん! この世界には、魔法があるんだよ?」


 ニコニコと質問に答えていくハル。

 ほとんど言葉がわからないなりに、どんな会話かは察しているのだろう。リーゼも笑顔である。

 そんな二人の後ろでは、二艘の船が川岸に近づいてきていた。

 操縦しているのは、一艘に一人乗り込んでいたエルフのようだ。男の。

 これ以上は進めない浅瀬まで来て、ようやく二艘の船が止まる。


 一艘の全長は3mから4mほど。全幅は2mもないだろう。

 上から見ると木の葉のような形をした木造船。

 現代日本では、湖などでよく見られる二人乗りの手こぎボート。それをふた周りかそれ以上に大きくした形状である。

 目立つのは、フレームのようなものが船の(へり)にあり、さらに船の上部にも船首と船尾を繋ぐように二本あることぐらいだろう。

 船を横からスパッと切って断面を見ると、正六角形になっているようだ。

 上部の三辺はなんにも覆われていないが。


 どう考えても水中に潜れるはずがない。

 なにしろ明らかに密閉された空間がないのだ。

 ユージが疑問に思うのも当然である。


「そっか、魔法……それにしてもすごくないですか? こんなことができるなんて!」


「私なんて想像もしてませんでしたよ。そうか、じゃあ時々お義父さんがふらっといなくなって、遠くの品を持って帰ってきたのも?」


「ああ、コレだ。まあ俺は魔法が使えねえから、ハルや他のエルフと一緒に乗るんだがな」


「うわあ、うわあ! いいなあ、いいなあ! アリスも乗りたい!」


 アリス、興奮しっぱなしである。


「ふふ、ユージさん。だから、エルフの里から出られるのは風か水の魔法の使い手が必要なんだ! それもかなりのね! 『まあお嬢様の場合は……』」


『なによハル! リーゼだって立派なレディなんだから! そりゃ、ちょっとは水の魔眼に頼ったけど……』


『そうか! あれ? でもリーゼ、だったら川をたどれば帰れたんじゃない?』


『うーん……ユージさん、それにはこの船がないと無理なんだ! まあそれももうすぐわかるよ!』


『それにユージ兄、リーゼ、あのカギをなくしちゃったから……お父さまとお母さまからもらった大切な物なのに……』


『え? あ、ああ、そういえばハルさんが何かしてましたっけ』


 ユージ、ひどい言いようである。

 待機を告げる前、ハルが朝にあれだけもったいつけたのが可哀想なほど。


『ひどいなあユージさん! あのカギに魔力を流すと、水を伝ってエルフの里にある錠が反応するんだ! 稀人のユージさんなら、どんな物か見せてもらえるかもしれないね。でも誰にも言っちゃダメだよ?』


『あ、はい。いやあ、これはすごいなあ!』


 9才の少女だけでなく、34才のユージも興奮しきりだった。

 川原には三脚で固定され、コタローたちが帰ってきてから動画撮影モードになっていたカメラも設置されている。

 いずれ、掲示板住人たちやアメリカ組も興奮させることだろう。



 同郷のエルフは、ハルやリーゼと顔見知りではあるがそれほど親しくはないようだ。

 というか、そういう人選をしたのだろう。

 ここまで魔法を使ってきただろうから、ちょっと休憩させたい。

 挨拶もほどほどに、そんなハルの言葉でユージたちはいまだに川原に留まっていた。


『でもハルさん、川の近くにいればすぐにリーゼを見つけられたんじゃないですか?』


『うーん、どうかなあ。ボクが王都にいることはみんな知ってたから、里から王都の間じゃないかってみんな推測してたし、たぶんいずれは見つけただろうけど……』


『え? だって、リーゼは船で来たんですよね? 船が残ってたはずじゃ……』


『ユージさん、それじゃあ船のことがニンゲンにバレちゃうじゃないか! この船のすごいところはね、しばらく魔力が流されないと錠のところに戻っていくんだ! 行きに溜めた魔力を使ってね!』


『な、なにその超ハイテク……魔法すごい……』


『ふふふ、ユージ兄、エルフはすごいんだから!』


『まあいまでは作れる人もいないから、船も貴重なんだけどね!』


『は、はあ……いやでも、船がなくてもリーゼは探せましたよね? やっぱり川原にいれば……』


『うーん、その辺はニンゲンとエルフの感覚の違いかなあ。危ないのはわかってるから、みんな焦ってはいたんだけど……ユージさん、里ではリーゼは早く見つかってよかったねって喜ばれてるよ?』


『え? もう半年ぐらい経ってるのに?』


『それに冬の間に、エルフの言葉で書かれた看板を見つけたみたいだし。無事だとはわかってたみたい。川の近くにも立てたんでしょ?』


『そうよ、リーゼがユージ兄たちにお願いしてソリで来たの! 寒かったけど、冬のキャンプも楽しかったんだから!』


 リーゼの言葉に反応したのか、オオカミたちとじゃれていたコタローが振り返る。そり? またそりをひけるのかしら? と言わんばかりに。


『雪中キャンプ、楽しかったけど俺は一回でいいかなあ……』


 どうやら冬の間に行われた雪が積もる森でのキャンプは、ユージにはいまいちだったようだ。当たり前である。


『そんなことがあったんだ! ボクも……いや、寒そうだしやっぱりいいや!』


『そうですよねえ。じゃあ看板を見つけて、春に開拓地に来たんですね』


『そうそう、まだ稀人だってわかってなかったから、ニンゲンと話せるようにボクが呼ばれてね! まあ行き違いになっちゃったけど!』


『ハルが王都にいなくても、王都で待ってればハルが来るってわかってたもの! それに絹の布を見つけたから、お役目の人に会えそうだったし』


『お嬢様? ホントは冒険がしたかっただけじゃないですよね?』


『……ち、違うの、違うのよ! だって看板を見つけてくれたかどうかわからなかったんだもの!』


 雪が溶けてから、ユージたちはすぐに旅立ったわけではない。

 飛来してきたワイバーンを倒し、一度プルミエの街を往復している。

 すぐに王都へと旅立ったわけではない。

 人間の時間感覚で言えば。


『行き違いになったってことは、俺たちが王都に行ってからですよね。けっこう経ってるような……』


『まあニンゲンの街で暮らすボクはどっちもわかるけどね。エルフの感覚では、雪が溶けてからすぐ動いたつもりなんだよ?』


『はあ……』


 ユージ、理解することを諦めたようだ。

 まあ感覚の違いは、前提となる常識や考え方の違いでもある。

 この場、この短い時間で理解しようとすることを諦めた、ということだろう。おそらく。


『それよりユージさん、これから船に乗ることになるけど、準備はいいのかな?』


『あ、はい、荷物はまとめ終わりました』


『そうじゃなくて、ほら』


 ハルが目線でユージに合図を送る。

 見つめる先には。

 コタローと、15匹のオオカミたちの姿があった。

 ここからは水路。

 コタローはともかくとして、二艘の船に全匹を乗せるほどのスペースはない。

 どうするつもりなのか、とハルはユージに問いかけているようだ。



「なあコタロー、どうする? せっかく仲間にしたけど、全員は船に乗れないんだって」


「え? ユージ兄、コタローとお別れなの? アリス、アリスいやだよ!」


「いやいや、そんなことはないから! ないよなコタロー?」


 ユージの言葉を聞いて焦るアリス。

 当たり前のようにコタローがいると思っていたユージも、アリスの言葉を聞いてようやくその考えに思い至ったようだ。

 すがるような表情でコタローに問いかける。


 そんな二人を見つめて、コタローは胸を張ってワンッ! と一つ吠える。おわかれなんてしないわよ、と言いたげに。


「よかった、よかったコタロー!」


 コタローにガバッと抱きつくユージ。

 アリスも一緒になってくっついている。

 二人と一匹がひとかたまりになる。

 ユージがこの世界に来て、アリスを保護してから何度も繰り返された光景である。


 ユージ、心身ともに成長しても、根本は変わっていないようだ。


 そんなボスと人間たちを、日光狼と土狼たちはじっと見つめていた。

 どこかうらやましそうに。



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