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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十五章 エルフ護送隊長ユージ、エルフの里に向かう』

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第三話 ユージ、コタローとオオカミのボスの決闘を見守る

 エルフの里にリーゼを送り届けるため、ひとまず川に向かったユージとアリス、リーゼ、コタロー、ケビン、ゲガス、ハル。

 6人と一匹は、たどり着いた川原で戦闘態勢に入っていた。

 オオカミの足跡を見つけ、開拓地へのリスクを排除するためここで殲滅することにしたのだ。

 コタローの遠吠えにつられたのか、ユージの光魔法で明るく照らされた川原に大小14匹の土狼とそのボス・日光狼(サンウルフ)が姿を現す。


 半円を描いてコタローを囲む土狼。

 中央に日光狼(サンウルフ)とコタローが進み、一騎打ちの様相を呈していた。

 気高いのか野生なのかよくわからないところである。


「がんばれコタロー!」


 彼我の戦力差をようやく理解したユージが、アリスとリーゼとともに声援を送る。


 そして。

 コタローと相対した日光狼(サンウルフ)が駆け出した。



「は、はや!……くない? あれ? なんか遅くありません?」


「ユージさんも成長しましたねえ。身近にコタローさんがいるから、よけいでしょう」


 思わず疑問の声をあげるユージ。

 左手は大盾を構えているが、右手はカメラを持っている。

 先端にカメラを取り付ける木製の棒、ブレを抑えるスタビライザー、重さを肩にかけるパーツ付き。

 掲示板住人とアメリカ組が本気を出し、木工職人のトマスが腕を振るった成果である。

 冒険者というよりも、盾持ちのカメラマンであった。余裕か。



 ユージに遅いと言われながら、日光狼(サンウルフ)はコタローに向かって駆ける。

 悠然とたたずむコタロー。

 いまだに最初の位置から動いていない。


 駆けた勢いのまま、日光狼(サンウルフ)が地を蹴ってコタローに飛びかかった。

 と、ようやくコタローが動きを見せる。


 横に跳んで日光狼(サンウルフ)のかみつきをかわし、ワンッ! と吠えて()()()()()

 かつてプルミエの街のギルドマスター・サロモン、王都の冒険者ギルドのグランドマスター、二人を驚かせたコタローの得意技。

 風魔法を使った空中三角跳びである。


 かみつきがかわされた日光狼(サンウルフ)が体勢を立て直す前に、コタローが横から跳びかかった。

 体重を乗せた前脚での攻撃。

 いや。

 肉球パンチである。


 横から押され、日光狼(サンウルフ)はゴロゴロと川原を転がっていった。

 外傷はなく、血は出ていない。


「え? は、速すぎません?」


「普段は速度を抑えてるんでしょうねえ」


 日光狼(サンウルフ)の遅さに驚き、今度はコタローの速さに驚くユージ。

 コタローは王都のグランドマスターとやり合った時よりもさらに速くなっていた。

 ユージを驚かせるほどに。



 日光狼(サンウルフ)を弾き跳ばしたコタローは、追撃せずにその場に悠然とたたずんでいる。王者の余裕か。メスだけど。


 起き上がった日光狼(サンウルフ)は、ふたたびコタローに向けて駆け出す。

 顔を歪め、鋭い目つきで睨みつけながら。怒り心頭のようだ。

 だが。

 日光狼(サンウルフ)の前脚による渾身の一撃は。

 身を低くして前に出たコタローにあっさりとかわされた。

 今度は下から突き上げるような体当たりで日光狼(サンウルフ)を吹き飛ばすコタロー。

 日光狼(サンウルフ)はゴロゴロと転がっていく。


 コタローはまたも追撃せず、ただ立ち上がるのを眺めるのみ。



『やるわねコタロー! 圧勝じゃない!』


「すごーい! コタローは強いねユージ兄!」


「そ、そうだねアリス」


 はしゃぐ二人の少女、引き気味のユージ。

 それでもユージは右手のカメラを動かさない。ユージ、すっかりカメラマンが板についている。


「……お義父さん、これはどういうことでしょうか?」


「実力差を教え込んでるんだろうな。獣が争いでよくやるらしい」


「風魔法を足場に! なるほど、今度ボクもやってみよう!」


 ケビン、ゲガス、ハルも余裕である。

 まあ三人は最初から余裕の態度であったが。


 6人をよそに、一匹はいまも戦いを続けていた。

 向かってくる日光狼(サンウルフ)を最小限の動きで何度も転がす。

 これを戦いと呼ぶのならば。



「あ、あの、コタロー? そ、そろそろいいんじゃないかな」


 コタローに声をかけるユージ。

 ほかの5人はユージの行動に疑問の表情を浮かべている。

 敵は殺すのが当たり前、がこの世界の価値観ゆえ。


 コタローを半包囲していた14匹の土狼はすっかりうなだれていた。

 頭を下げ、尻尾を足の間に巻き込んでいる。


 何度も何度もコタローにあしらわれている群れのボス・日光狼(サンウルフ)も最初の威勢はない。

 体力も尽きてきたようで、スピードなくコタローに向かっては転がされている。

 かわいがりか。

 それでも立ち上がって戦う意志を見せているのは、群れのボスとしてのプライドだろう。

 見上げた(おとこ)である。いや、まだ性別は不明だが。


 コタローはあえて日光狼(サンウルフ)に傷を付けていないのだろう。

 日光狼(サンウルフ)は土にまみれているが、いまだに血は流れていない。


 ユージ、いいようにあしらわれる日光狼(サンウルフ)がかわいそうになってきたらしい。

 モンスターとはいえ、被害があったわけではない。

 あげく、コタローのこの仕打ちである。

 しょぼくれたオオカミたちの姿も同情を誘ったのだろう。


 日光狼(サンウルフ)を転がしたコタローが、チラリとユージに目を向ける。そうね、そろそろおわりにしましょうか、と言わんばかりに。

 そして。

 また立ち上がった日光狼(サンウルフ)を転がして、うつぶせの背中を両前脚で押さえつけるコタロー。

 地に伏せる日光狼(サンウルフ)に向けて、ワンッ! と強く吠える。

 意味が通じているのだろうか。

 グォウッと鳴いた日光狼(サンウルフ)

 コタローが身を離すと、日光狼(サンウルフ)はゴロンと転がって仰向けになり。


 コタローに、腹を見せた。

 服従のポーズである。


 アオーンッ! と、周囲の土狼が遠吠えをあげる。

 それは、ひどく哀しげな声色であった。



「ほらユージさん、ボクらが出るまでもなかったでしょ?」


 ニコニコと笑顔を浮かべるハル。

 アリスとリーゼは、やったー! コタロー、つよーい! と手を取り合って大喜びである。


「え、ええ、そうですね……あれ? ひょっとして、このチームくっそ強いんじゃ……」


 ユージが日常的に訓練で相手をするのは元3級冒険者、元5級冒険者、コタロー、ケビン、ケビンの専属護衛。

 これまでの旅の途中や開拓地では、『血塗れ』ゲガスと現役の1級冒険者のハルにも訓練をつけてもらっていた。

 気がつけば、ユージのまわりは自分よりも強い者ばかり。

 モンスターとの戦闘も少なくなったいま、適切な比較対象はほとんどいなかったのだ。


 ユージ、ようやく過剰戦力な現状を把握したらしい。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「すごかったなコタロー」


 スタスタと足下にやってきたコタローをしゃがみこんで撫でまわすユージ。

 アリスとリーゼ、二人の少女も腰を落としてコタローの背中を撫でている。

 そのコタローは気持ち良さそうに目を細め、ブンブンと尻尾を振っていた。わたしにかかればこんなものよ、とでも言いたいようだ。


 ひとしきりコタローを撫でまわした後、ふっと視線をあげたユージ。


 6人と一匹は囲まれていた。

 座り込み、しょんぼりと視線を落とす14匹の土狼と一匹の日光狼(サンウルフ)に。


「あの、ケビンさん、これどうしましょうか? どういうことなんですかね?」


「さあ、私も経験がないので……お義父さん、知ってますか?」


「俺も経験はねえが……まあコタローさんがボスになったってことじゃねえか?」


「え?」


「まあそういうことでしょうね。ボスが惨敗したわけですから、勝った方がボスになったと」


「うわあ、うわあ! すごいねコタロー!」


『コタローには子分がいっぱいできたのね! 立派なレディだわ!』


 動揺するユージ、なぜか大喜びのアリスとリーゼ。

 それにしてもリーゼ、そんなレディで大丈夫か。


 胸を張ったコタローが、ウォンッ! と一鳴きする。

 すると、ユージたちを囲んでいたオオカミたちが揃って転がり、腹を見せた。

 満足げな目線で一瞥した後ユージに向き直るコタロー。

 ドヤ顔である。


「マ、マジかよ……どうしようコレ……」


 どうやらコタローは、己に付き従う信奉者を得たようだ。

 優秀な女である。獣だが。

 いや、肉体言語の獣ゆえに。



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― 新着の感想 ―
コタロー姐さん!
[一言] やっと、コタロー隊ができた〜(・∀・)
[気になる点] あんまり主人公を馬鹿にするのは やめてほしいです。 一つの事に鈍感なのは愛嬌ですが 全てに鈍感なのは唯のバカです。
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