表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十五章 エルフ護送隊長ユージ、エルフの里に向かう』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

276/537

第二話 ユージ、西の川原でオオカミの群れと遭遇する

「どうすっかなあ……ケビン、開拓地に流れる可能性もあるし、ここでやっとくか?」


「お義父さん、ですが陽が落ちましたからねえ。ああ、ユージさんは明かりの魔法を使えるんでしたっけ?」


「え? はい、光るだけの魔法も使えますけど」


「オオカミは夜行性ですからね。昼よりは夜のほうが誘いやすいでしょう。明るくできるなら……ユージさん、やっちゃっていいですかね?」


「え? やる? あ、()るですか。でも危なくありませんか? アリスもリーゼもいるし」


「ユージさん、ボクがいるから何がきても問題ないよ!」


「ユージさん、私たちでやっておかないと、開拓地を襲われたら……まあ撃退は余裕でしょうが、非戦闘員はアチラのほうが多いですしね。ここで仕留めませんか?」


「ユージ兄、アリス魔法でバーンってやる?」


『ユージ兄! リーゼ、水の魔眼持ちなのよ? 川のそばでリーゼの水魔法に勝てるヤツなんていないわ!』


 陽が落ちて、夜。

 川原で野営しているユージたちは、オオカミの群れの痕跡を見つめていた。

 闇夜ならともかく、ここには明かりの魔法を使えるユージがいる。

 それに気づいたケビン、殺る気満々である。

 いや、ユージ以外のメンツは全員殺る気満々であった。

 とりわけ、一行の中で一番森に近い場所に陣取るコタローが。


「そっか、開拓地が危ない可能性もあるのか……あっちには戦えない人もいる……よし。ケビンさん、やりましょう」


 5人と一匹の熱気にあてられたのか、あるいは開拓団長 兼 村長として開拓地の安全が気になったのか。

 ユージは交戦の決断を下すのだった。


 ユージの声が聞こえたのだろうか。

 コタローが、アオーンッ! と大きく一つ、森に向かって遠吠えする。わたしはここよ、なわばりにするつもりならさっさときなさい、とばかりに。

 呼び出しである。屋上でも体育館の裏でもないが。


「コ、コタロー?」


「おや、コタローさんが怒ってるようですね。これで現れるでしょう。ユージさん、明かりの魔法をお願いします。持続型のもので」


「あ、はい。光よ光、この地を明るく照らし給え。宙に浮かぶ光(ライト)


 ユージ、ひさしぶりの明かりの魔法である。

 ふよふよと浮かぶ光の球が、川原を照らす。

 続けて何発も同じ魔法を発動するユージ。

 6つの光球が川原を照らし、開けた空間が明るくなる。


「ユージさん、ばっちりです! これだけ明るければ見落とすこともないでしょう」


「くくっ、オオカミ程度じゃ物足りねえけどな」


 背負子から二本の短剣を取り出すケビン。

 腰に佩いたカットラスに手をかけ、ゲガスは好戦的な笑みを浮かべる。

 ずいぶん血の気の多い商人コンビである。

 まあこの世界において、獣もモンスターも賊も行商を邪魔する怨敵なのだ。

 勝てる相手なら見つけ次第殺す。

 それが二人の行商人の考え方である。だてに『血塗れ』だの『万死』だの呼ばれているわけではないのだ。


「アリスちゃん、ちょっと下がっててね。『お嬢様も下がっていてください』」


 現役の1級冒険者、『不可視』のハルは、武器を構えることなく二人の少女の前に移動する。

 どうやらハルがアリスとリーゼの護衛を担当するつもりのようだ。

 護衛役が必要かどうかは置いておいて。


「ハルさん、俺が二人を守りますよ。これでも盾役なんです」


 大盾を手にしたユージがハルに声をかける。

 いまやユージも5級冒険者。元3級冒険者たちと行う訓練、位階が上がったことで高まった運動能力により、ユージもいっぱしの戦闘力を身につけているのだ。

 左手の盾はいいとして、右手はなぜかカメラ付きの自撮り棒を手にしていたが。

 余裕か。


 そして。

 戦いの準備をはじめた6人を一瞥もせず、先頭に立った一人の女。いや、一匹のメス。

 顔をしかめて牙を剥き出し、尻尾を逆立てている。

 グルグルと低いうなり声をあげるコタロー。

 マジ切れである。



 6人と一匹が見守るうち、森から音が聞こえてきた。


「ケビンさん」


「ユージさん、見えました。こげ茶色の毛並み、オオカミにしては小柄な体躯。土狼の群れですね」


「土狼? 土魔法を使うんですか? モンスター?」


「いえ、土魔法は使いません。毛並みの色が焦げ茶で、湿った土の色に似ているため土狼と名付けられたのです。いちおうモンスターですよ」


「は、はあ」


「おや? おかしいですね」


 ユージに解説していたケビンが頬に指先をあてて首を傾げる。かわいさアピールか。違う、ケビンは既婚のおっさんなのだ。


 土狼の群れ。

 そう断じられたオオカミたちは、森から出て姿を現し、6人と一匹を見つめながら足を止める。


 土狼の視線をたどるユージ。

 6人と一匹を見つめているのではない。

 土狼たちの視線の先にあるのはただ一匹。


 コタローである。


「えっと……これがコイツらの習性なんですか?」


「いえ、土狼は暗がりで姿を隠し、夜目と速度、連携を活かして集団で狩りを行うはずですが……」


 大小14匹の土狼の群れとコタロー。

 グルグルとたがいにうなり声をあげ、歯を剥き出してにらみ合う。

 やがて土狼の群れの後ろから、さらに一匹のオオカミが姿を現した。


「あれは……」


「こいつは珍しい。ボスは上位種か」


「そのようですね」


「知っているのかケビン?」


 ユージ、余裕か。

 まあ珍しいと言いつつ余裕の態度を崩さないハル、ゲガス、ケビンに釣られてのようだったが。


「ユージさん、ボスの毛並みを見てください。こげ茶色の土狼と色が違うでしょう? くすんだ橙色。あれは土狼の上位種、日光狼(サンウルフ)です」


日光狼(サンウルフ)? 上位種? ってことは、アイツは魔法を?」


「いえ、日光狼(サンウルフ)も魔法は使えません。土狼の位階が上がると日光狼になると考えられているんです。土狼から日光狼(サンウルフ)へ、大地から太陽が昇るように」


「あ、なるほど。……な、なんかムダにかっこいい」


 ユージに解説しながらも、いまだ鞘から短剣を抜かないケビン。

 ゲガスも同様である。

 そして。


「ねえねえユージ兄、アリス、おじいちゃんに教えてもらった魔法使う? 炎の輪っかが、ばーって広がるんだよ!」


「ア、アリス? それは止めておこうな。ほら、火事になっちゃうしね?」


 ノリノリなアリスを止めるユージ。

 その横にいたハルは、ユージたちの会話をエルフの言葉に訳していた。余裕か。


『ユージ兄、大丈夫よ! これだけ川が近いんだもの、リーゼの魔眼を使った水魔法ですぐ消してあげるわ!』


『だってさ、ユージさん。どうする? それともボクがちゃっちゃと片付けちゃう?』


「あ、あれ? これ、ひょっとして余裕なんですか? 土狼も日光狼(サンウルフ)も?」


「ええまあ。開拓をはじめた頃のユージさんならいざ知らず……いまのユージさんなら、誰かを守りながらでなければ一人でも勝てると思いますよ。目つぶしの魔法を使って、あとは盾と短槍でチクチクと」


「え、俺だけでも? じゃ、じゃあケビンさんとかゲガスさんとかハルさんは?」


「余裕ですね。相手は集団ですし、ユージさんや私だと軽く傷つけられるかもしれませんが……お義父さんとハルさんは無傷で()り切るでしょう」


「ふふ、ケビンさん、1級冒険者を舐めないでほしいな。ボクならこの場からぜんぶ仕留めてみせるよ! お嬢様もアリスちゃんも魔法でやれるんじゃないかな?」


「え、そんなに? ハルさんちょっと強すぎませんか? ふ、二人も? あれ?」


「そりゃあね! でもユージさん、ほら」


 そう言ってすっと腕を伸ばし、前方を指さすハル。

 暢気に雑談を交わしていたユージの目に入ったものは。


 森から出てきて、半包囲するように広がる大小14匹の土狼。

 隊列の中央を割って、ゆっくりと近づいてくるボス・日光狼(サンウルフ)


 そして、こちらもゆっくりと。

 半包囲の中央に足を進めるコタローの姿であった。


「コタロー? どうしたの?」


 そんなユージの言葉に反応し、コタローがチラリと振り返ってワンワンッと吠える。ゆーじ、てだしはむようよ、と言うかのように。男前である。犬だけど。


「ユージさん、これはオオカミたちとコタローさんの縄張り争いなのかもしれません」


「ああ、そうかもな。ハル、コタローさんが危なくなったら頼む。飛び道具を使うのはお前だけだ」


 ケビンとゲガスは、向かい合う日光狼(サンウルフ)とコタローの姿になにやら納得顔で頷いている。それでいいのか。


「もちろん! 安心して、2秒あればぜんぶ射抜けるから!」


「に、2秒? 10匹ちょっとはいるのに?」


 ユージ、動揺しきりである。


「ただまあ……大丈夫なんじゃないかなあ」


 そしてハル、ずいぶん気の抜けた言葉である。


「えっと……じゃあアリス、リーゼ、俺たちはコタローを応援しようか」


 暢気か。

 いや違う。

 ユージはコタローのことを信頼しているのだ。

 ユージがこの世界に来てから5年目、ずっと一緒に歩んできたコタローのことを。

 何度も助けられてきたコタローのことを。



 ユージの明かりの魔法と月に照らされた川原に。

 がんばれコタロー! と、少女とおっさんの声援が響く。場違いである。



 三人の声を背に受けて、コタローは悠然とたたずむ。

 やがて堪えきれなくなったのか。

 オオカミの群れのボス・日光狼(サンウルフ)が、コタローに向けて駆け出すのだった。

 牙を剥き、咆哮をあげて。




ラグビー好きで観戦に行ったりしますが、

モンスターの名前の由来とは一切関係がありません。

フィクションですからね、ええ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ