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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 11

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閑話14-13 ブレーズ、副村長の仕事が板についてくる

副題の「14-13」は、この閑話が第十四章 十三話終了ぐらいという意味です。

話中、時間が飛びがちです。

ご注意ください。

「ブレーズ、紹介するぜ! イヴォンヌちゃんと妹さんだ!」


「初めましてブレーズさん、エンゾと結婚するイヴォンヌです」


「おう、話は聞いてる。ケビンさんのところで働くことになったんだって?」


 ユージが帰ってきた開拓地。

 挨拶もそこそこに、ユージとアリス、リーゼは家の中に消えていった。

 元3級冒険者でホウジョウ村開拓地の副村長を務めるブレーズの想像通り。

 いつものことである。


 旅に同行していた面々は一度それぞれの住居で荷を解き、ふたたび集まっていた。

 新たに移住してきたイヴォンヌとその妹について話し合うためである。


「イヴォンヌちゃんはいいとして、妹さんも一緒の家でいいのか? その、おまえらは新婚なわけで、夜とか……」


「大丈夫です! お姉ちゃんの付き人だったから、お店でもすぐ裏の部屋にいました!」


「お、おう、そうか……まあ三人がいいならいいんだが……」


 自身も新婚なブレーズは気を遣ったようだ。


 開拓地に建っている住居は木造である。

 木工職人のトマスが仕切っているため、品質は街の木造住居にも劣らない。

 それでも、音を遮断できるほど高性能な家ではないのだ。

 当たり前だが。

 日常生活はともかく、ブレーズは夜のことを気にしたようだ。

 さすが自身も新婚なだけある。

 夜中になんの音が聞こえるというのか。


「はい! それよりその、私、ここでなんの仕事をしようかと……お姉ちゃんは針子をすることになったって」


「ああ、それもそうだな。力仕事は男どもがいるしなあ」


「あの! 私、家事ができます! お姉ちゃんの付き人で、掃除も洗濯もお料理だって私がやってたんです! だからここにいさせてください!」


「心配するな、仕事はいくらでもあるからよ。ケビンさん、どうする? しっかりしてるようだし、針子見習いにするか?」


「ふむ……ブレーズさん、では料理を担当してもらってはどうですか? 開拓地も人数が増えましたし、みなさんけっこう大変でしょう?」


「ああ、そりゃいいかもな。いまは料理できるヤツが持ち回りでやってるが……専門でやってくれるならだいぶラクになる」


「お料理ですね! はい、私、がんばります!」


 現在、ホウジョウ村開拓地の住人はユージとアリスを入れて25人と一匹。

 今はそれに加えてリーゼとハルのエルフ組、ケビンとジゼル、ゲガスもいる。

 さらにプルミエの街からは、応援の木工職人たちと鍛冶場造りに派遣された鍛冶師たち出張組も。


 基本的に料理は共同の煮炊き場で作り、物足りなければ各自で追加して調理していた。

 30人分以上の料理を用意する。

 昼は簡単なもので済ましているとはいえ、けっこうな重労働である。

 どうやらイヴォンヌの妹の仕事も決まったようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「お疲れさん。……おお、修羅場だな」


「いつもこんな感じですよ! 今日はニナさんが手伝ってくれてるからだいぶラクです!」


「山鳥を狩ってきた。ニャかニャか食いでがありそう」


 ホウジョウ村開拓地、共同の煮炊き場。

 いまやイヴォンヌの妹が取り仕切るようになったそこに顔を出したブレーズ。

 すぐに軽い気持ちで顔を出したことを後悔する。


 人数が増えるにつれ数を増やしていったかまど。

 3つ並ぶかまどにはすべて火が入っていた。

 中央、ユージの指示でトマスが作った木製の調理台。

 キレイに整えられた天板の上では、猫人族のニナが狩ってきた山鳥が捌かれている。

 およそ35人分の食事を作るのは、けっこうな重労働なのだ。


「調子は良さそうだな」


「はい! みなさん親切ですし、元冒険者の方が水を汲んでくれたり力仕事を手伝ってくれますから!」


「ん? ああ、5級だったアイツらか。その、大丈夫か?」


「ふふふ、ブレーズさん。お店には出てませんでしたけど、私、あの店で付き人だったんですよ?」


 イヴォンヌの妹は12才。

 この世界の基準でもまだ未成年である。

 まあ未成年だから『付き人』として、準備と勉強の期間を過ごしていたのだが。

 しかし、エンゾが惚れたイヴォンヌの妹は、成長すれば美しくなる気配を見せていた。

 すでにアプローチしている独身男がいるらしい。

 ロリコンである。

 いや、この世界の人間の成人は15才。

 イヴォンヌの妹はあと3年で成人するのだ。

 アプローチしてもおかしくは……ロリコンである。


「ああ、そういやそうか。ただ気をつけろよ? 強引にいくヤツがいるとは思わねえが……」


「はい、気をつけます! でもみなさんわかりやすいですから!」


「お、おう……」


 副村長のブレーズに向けてニッコリと微笑むイヴォンヌの妹。

 元5級冒険者の独身男たちは、すでに手玉に取られているようだ。

 それにしてもこの開拓地、集まる女性が軒並み強い。


 近いうちに交代で街に行かせてやるかな。

 そんなぼやきを残して、ブレーズは共同の煮炊き場を後にしようとして。


「あ、ブレーズさん! ちょっと手伝ってください!」


 12才の少女に、いいように使われるのだった。


 ホウジョウ村開拓地は、したたかな女性が集まる場所らしい。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ブレーズさん! 街への便にはこれをお願いしたいっす! 親方に渡してもらえばわかるっすから!」


「了解だトマスさん。手紙と……なんだコレ? 木箱?」


「そうっす! 職人を呼びつける秘密兵器っすよ! アイツら驚くだろうなあ」


 ユージたちはすでにエルフの里へ向けて旅立った。

 続けて明日、エンゾと元5級冒険者の二人がプルミエの街に向けて発つ。


 副村長のブレーズは、開拓民たちに街での用事がないかヒアリングしていた。

 道が整備されてきたとはいえ、開拓地からプルミエの街までは急いでも片道丸二日。

 誰かが街に行く時は、こうして聞き回って一緒に用事を片付けるのが定例のことになっていた。


 今回も、元々はエンゾがイヴォンヌと妹の荷物を運ぶのが目的だったのだ。

 そのためエンゾは手間賃を払って、元5級冒険者の二人を確保していた。

 荷車が使えない現状、一人が運べる量はたかが知れているので。


「俺には普通の木箱にしか見えねえんだが……ああ、表面の木目が違うのか?」


「まあ試作品っすからね! でも、やっと作れるようになったんすよ! ユージさんから教わった寄木細工も、金属を使わない組み方も!」


 ユージが木工職人を開拓地に呼び寄せる際に提示した寄木細工。そして、釘を使わずに家を建てる方法。

 理解はしても、実際にその技術を扱えるようになるまでトマスと二人の助手は日々試行錯誤を繰り返していた。

 昼間は本業に、夕方以降は研究と練習に。

 トマスたちが開拓地に移住してから丸一年。

 木工職人たちは、ようやく試作品を作れるまでになったようだ。


「ああ、よくわからねえと思ったらユージさん絡みか。じゃあしゃあねえな。了解、エンゾに頼んでおくわ」


 ユージさんならしょうがないよね、である。

 いい意味で。

 そう、きっといい意味で。


「ユージさんから代官宛で犯罪奴隷に休憩地を造らせる嘆願書、それとトマスさんの手紙と荷物、ケビン商会あての指示書と用立ててほしい物の一覧。今回はそんなもんか」


 問題なさそうだな、と呟いてブレーズは家に向かう。

 リーダーとしてパーティ内の調整をしてきた男は、開拓村内の調整にも慣れてきたようだ。

 副村長の仕事かどうかは置いておいて。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「エンゾ、気をつけてね」


「わかってるさイヴォンヌちゃん。しばらく会えなくなるけど……帰りを待っててくれ!」


「ふふ、ちょっとの間じゃない。エンゾこそ気をつけてね、油断しないように」


「エンゾは行かねえだろうし、二人ではしゃぎすぎるなよ」


「はい! イヴォンヌさんから紹介状を預かりましたし、大丈夫です!」

「あの店で羽目を外して出禁とかぜったいイヤですから!」


 開拓地、一番外側の柵の前。

 イヴォンヌとブレーズは、プルミエの街に向かうエンゾと二人を見送りにきていた。

 これまでも何度か街への往復はあったため、ユージたちの出発の時と違って寂しい見送りである。


「エンゾ、嘆願書はひとまず返事はいらないそうだ。それから結果次第では木工職人がすぐに来たがるかもしれないらしい」


「昨日聞いた通りだな。なに、心配すんな。きっちり役目は果たすさ!」


「……あのねエンゾ、今回持ってきてもらう荷物の中には、前にもらったアレもあるの」


「アレ?」


「うん。ほら、『今夜はこれを着けてほしい』ってエンゾが贈ってくれた……」


「お貴族様の下着か! よおおっし! ブレーズ、開拓地をしっかり守れよ! おまえら、行くぞ!」


「ちょ、エンゾさん、速いっす!」

「待ってくださいエンゾさん! お貴族様用の下着はどこで買えるんですか! いくらなんですか!」


 エンゾの耳に唇を寄せてささやいたイヴォンヌ。

 その言葉を聞いたエンゾのやる気と『やる気』が爆発する。

 どうやら『お貴族様用の下着を持ち込む人』は、他ならぬエンゾのことだったようだ。

 巻き込まれるように、同行する元5級冒険者の二人のやる気も爆発する。いや、爆発したのは『やる気』の方か。


「ふふ、エンゾったら。ほんと素直でかわいいんだから」


「お、おう」


 ダッシュで出発していったエンゾ、遅れて走り出した二人の元5級冒険者。

 その後ろ姿に目を細め、艶然と微笑むイヴォンヌ。


 ブレーズ、引き気味である。



 元3級冒険者パーティ『深緑の風』のリーダー・ブレーズ。

 引退して開拓民となったブレーズは、いまや開拓地の諸々を調整する副村長である。

 村長のユージからはもちろん開拓民からの信頼も厚く、副村長としての仕事にも慣れてきたようだ。

 強い女性たちには押され気味だが。


 ホウジョウ村開拓地は、今日も平和であるようだ。



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ホウジョウの女性は強いね!
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