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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 11

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閑話14-12 ジゼル、針子チームと盛り上がる

副題の「14-12」は、この閑話が第十四章 十二話終了ぐらいという意味です。

ご注意ください。

「あら、お帰り!」


「すみませんユルシェルさん。その、ついつい……」


「ああ、いいのいいの! どうせヴァレリーと荷解きしてたから作業にならなかったし! それに、上半身裸のハルさんを見たらしょうがないわよ……」


「男でもちょっとドキッとするもんなあ」


「え? ヴァレリー?」


 ユージが帰ってきたホウジョウ村開拓地、その共同住宅の一棟。

 針子の作業所 兼 独身女性陣の住居となっている建物に、三人の女性が入ってくる。

 針子見習いの独身女性たちである。

 私狙っちゃおうかしら、さすがにムリよ、毛皮がないのもまあそれはそれで、などと騒がしく。

 女三人寄ればなんとやら、である。


 長旅から帰ってきたばかりのユルシェルは、夫であるヴァレリーとともに荷解きをしていたようだ。

 王都で購入してきた布、サンプルとして買った服。

 ユルシェルは開拓地で留守を預かっていたヴァレリーに一つ一つ説明していた。

 それにしてもユルシェル、女性に囲まれて仕事をしていたヴァレリーは疑わないクセに、ハルへの発言には動揺したようだ。

 それほどにエルフが美しかったのだろう。きっとヴァレリーにその気を感じたわけではあるまい。きっと。


「ユルシェル、やったわ!」


 と、バタンと音を立てて入り口から入ってきた一人の女性。


「え? どうしたのジゼル?」


「ケビンの許可をもぎとったわよ! この開拓地に、ケビン商会のお店ができるの!」


 針子見習いたちを仕切るユルシェルとヴァレリー。

 独身で針子見習いの三人の女性。

 既婚者組、開拓民となった元冒険者の盾役の男の妻とイヴォンヌ。

 針子の作業所 兼 共同住宅にいた7人がポカンと口を開ける。


 そして。

 ワッ! と歓声が上がった。


「ジゼル、お店ってことは物も売るのよね!?」


「当たり前じゃないユルシェル! ケビン商会は行商からはじまったんだから! 行商人が村に持ってくるようなものはぜんぶ置くわよ!」


「うわあ! 私たちの村にもなかったのに! 元冒険者だらけで店まで……私たちの決断は正しかったのね!」

「そうよ、マルクくんもいるんだもの。ふふふ、アリスちゃんにあっさり行かれた時のあの切ない表情! 宙に浮いた手! あのかわいさったらもうね」

「ね、ねえ、あんたそんなにキモかったっけ」

「エンゾ、先見の明もあったのね!」

「すごいじゃないジゼル! それでいつ頃できるの?」


 女性陣は大騒ぎである。

 小さな集落や村、農村に『新しい店ができる』とはそれほど衝撃的なことなのだ。

 現代日本の郊外や田舎で、建設工事が始まった瞬間に何が建つか広まるのと同様に。いや、それ以上に。

 プルミエの街が長いイヴォンヌも出身は小さな農村。

 店ができるというニュースの大きさを理解しているようだ。


「もう、みんな落ち着いて! 今度トマスさんが工房から出せる人手を確認するって言ってたから、いつできるかわからないの。でも……秋までにはできるから!」


 胸を張って宣言するジゼル。

 誇らしげなその言葉を聞いて、針子の作業所 兼 共同住宅はふたたび歓声に包まれるのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「うわあ、これが王都の布! それに服まで!」


「資料になるでしょってジゼルがまとめ買いしてくれたからね! お金を出してもらえるようケビンさんを説得してくれたし! みんな、ジゼルに拍手!」


 王都から持ち帰った布と服を興奮した様子で手に取る女性陣。

 ユルシェルの言葉で、ジゼルにワーッと拍手を送る。

 同じ空間で働く女性たちは、いつの間にか息もあってきたようだ。

 この空間で唯一の男、ヴァレリーはひっそりと手を叩いていた。

 寂しいのではない。女の集団の中で目立たぬようにという彼なりの処世術なのだ。女性ばかりの職場では、存在感を消すことも時に必要なのである。


「服飾はケビン商会の新しい核になるんですもの! みんな、がんばってね! あ、それから……」


 まんざらでもなさそうに笑顔を見せるジゼル。ふと視線を止める。


「針子の見習いとして、イヴォンヌさんもここで仕事をします! はい、自己紹介!」


「え? エンゾと結婚して、妹と一緒にプルミエの街からこちらに移住してきたイヴォンヌです。その、針仕事は自己流なので、ご指導よろしくお願いします! 代わりに、その……」


 はきはきと告げて頭を下げたあと、モゴモゴと口ごもるイヴォンヌ。もちろんわざとである。質問待ちである。


「代わりに、なんですか?」


 純朴な元村娘たちはあっさり引っかかったようだ。初心なものである。


「その、私、プルミエの街で夜のお仕事をしていたので……意中の男を落とす手練手管をお教えします!」


 ピタリと時が止まる。


 そして。

 イヴォンヌに詰め寄る三人の女性。


「そ、その、相手が鈍感な人でも?」

「そもそもイイ男の見分け方も?」

「じゅ、獣人にも有効なのかしら?」


 独身な三人の女性たち。初心なものである。

 ファッションと恋は、異世界でも女性の関心が高いようだ。


「ええ、もちろんです!」


 ニッコリと笑って答えるイヴォンヌ。


「アイツ、次の探索では見てなさい!」

「よし! イヴォンヌさん、残りの独身男は誰が当たりか教えてください!」

「ふふ、ふふふ、デレデレなマルクくん……ふふふふふ」


 どうやらギブアンドテイク作戦は受け入れられ、イヴォンヌは集団に溶け込んだようだ。

 さすが、客にはともかく内側はドロドロな女の園で生き抜いてきた女性である。

 女の園の内部事情は聞いてはいけない。世の中には知らないほうがいいことなどたくさんあるのだ。男には。


「はいはい、そのあたりは仕事が終わったらゆっくり話してね! えーっと、ジゼルはこの後どうする?」


「んー、ケビンはユージさんのところに行くみたいだし、作業を見学してもいい? 終わったら、次に作るものを打ち合わせましょ!」


「了解! じゃあみんな、ひとまずやりかけだった仕事を終わらせちゃいなさい! それが終わったら……新しい服の話よ!」


 ユルシェルの宣言に沸き立つ女性陣。

 ケビン商会の新事業の要となる針子たちは、ずいぶんノリがいいようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「どうだったジゼル?」


「ダメ、ケビンも実物はちゃんと見れなかったって! どんなに頼んでも、どうしてもダメみたい。頼りになるのはこの本と型紙だけね!」


 すでに夜の(とばり)が下りた共同住宅。

 薄暗い作業所に、女性たちの姿があった。


「な、なんて破廉恥な……」

「これしか布をつけないなんて……どうなってるの? 結婚したら私も着なきゃダメなの?」

「ね、ねえイヴォンヌさん! どうなんですかコレ!」


「大丈夫よ三人とも。これは新しい商品だから! ただまあ、こういうのが好きな男もいるわ。お貴族様用のを持ち込む人もいたらしいもの」


「イヴォンヌ、どう? あなたの目から見て」


「ええ、売れると思います。間違いなく」


 確信を持って頷くイヴォンヌ。

 だが。


「ジゼル、ひとまずやってみましょ! みんなはヴァレリーに任せて新しい服を作ってみて、私はこれにかかればいいのよ!」


「そうね、試作品はできたって言ってたものね。んん、細い金属も必要なのか。ああ、なんで試作品を持ってかれちゃうのよ! ユージさんもケビンも!」


「ジゼルさん、ユルシェルさん、ひとまず誰かに合わせて作りませんか? その、下はともかく上は人によって違うはずです」


「いいところに気づいたわイヴォンヌ! どうするユルシェル?」


「そうね……型を合わせるためにサイズを測ったり、ある程度形になったら着てもらわなきゃなんだけど……」


 ここは女性用の共同住宅。

 陽が落ちれば、ここにヴァレリーはいない。

 いるのは針子見習いの独身女性三人、そして企画を進めるユルシェルとジゼル、イヴォンヌだけであった。


 ユルシェルがチラリと目を向けると、三人の独身女性はブンブンと首を振る。

 どうやら彼女たちは恥ずかしがっているようだ。

 初心なものである。


「はあ……ジゼルさん、ユルシェルさん。私が着ますよ」


「ありがとうイヴォンヌ!」


「じゃあさっそく測りましょ! みんな、窓を閉めて!」


 諦めたように立候補するイヴォンヌ。

 三人の針子見習いは、尊敬の目でイヴォンヌを見つめていた。

 ジゼルは感謝の言葉を口にしたが、ユルシェルはさっそく進める気のようだ。


「そのかわり……試作品、もう一つ作ってもらってもいいですか? その、家で、エンゾに……」


 したたかな女である。


 わかったわ! と了承するユルシェル、ニヤニヤと笑みを浮かべて『夜の間の()()()()を教えてね』と告げるジゼル。

 想像したのか顔を赤く染める三人の女たち。


 ともあれ。

 それなりのお金はもらったが、第一段の試作品は領主夫妻に持っていかれた。

 しかし、もはやおおっぴらになってしまったが女性たちの協力もある。


 下着作りはようやく本格的に動き出すようだ。


 試作品ができる度にイヴォンヌが身につけることで、精度もより上がっていくことになる。


 ちなみに。

 試作品ができる度に『夜の間の()()()()』は毎回イヴォンヌから報告された。

 夫であるエンゾは、報告されている事実は聞かされなかったという。

 いや、夜の着け心地とは、横になった状態や着けたまま眠った時の具合のことを言っているのだろう。きっと。

 それも大事なことなのだ。間違いなく。


 こうして、エンゾの努力と人身御供により、下着作りは進むのだった。

 夜の着け心地を聞かされた女性陣が盛り上がったのは言うまでもない。

 女性だらけの下ネタ話は、男のそれをも凌駕するのだ。


 まあエンゾ本人は、イヴォンヌちゃんにセクシーな下着をつけてもらうという念願が叶って大喜びだったようだが。

 知らぬが仏である。



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[一言] ふーん、えっちじゃん
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