第十四章 エピローグ
短めですが、今章エピローグなので……
「じゃあブレーズさん、よろしくお願いします」
「おう、任せとけ。ユージさんはしっかりリーゼちゃんを送ってやれよ」
「ジゼル、あとは頼みます。急に進めようとしないで、ゆっくりでいいですからね!」
「はいはい、わかってるわよケビン。ちぇっ」
開拓地、その一番外側の柵の前。
木製の柵と空堀が森と開拓地を隔てるその場所には、エルフの里に向かうユージたちと見送りの開拓民が集まっていた。
不在の間の開拓地のことを副村長のブレーズに託すユージ、ジゼルに声をかけるケビン。
それにしてもジゼル、舌打ちはなんなのか。どうやらケビンが不在の間に、無理してでも事業をガンガン進めるつもりであったようだ。一部の女性にとって、ファッションというのはずいぶんな魔力があるようだ。ファンタジーな魔力ではなく。
「みんな! ありがとう! さようなら!」
開拓民一人ひとりに別れの挨拶をして、ハグをする一人の少女。
晩秋のゴブリンとオークの集落討伐の際に助け出され、一冬を開拓地で過ごしたエルフの少女・リーゼである。
自分のためにキレイな服を作ってくれた針子のユルシェルとヴァレリー。
ソリを作ってくれたトマス、一緒にソリ遊びしたマルセルとマルク、弓の腕を競ったニナ。
弓、そして護身術の手ほどきをしてくれた『深緑の風』の元冒険者たち。ともにワイバーンと戦った戦友でもある。
半年にも満たない短い間だったが、リーゼはたしかに開拓地にいた。
こらえているようだが、リーゼの目には涙がにじんでいる。
『さあお嬢様、そろそろ行きましょうか』
リーゼが全員に挨拶したのを見て、ハルが声をかける。
ハルの背には大きな背嚢。
どうやらリーゼの荷物もその中に入っているようだ。
新しい服、心配させた家族へのお土産、アリスと交換したハンカチ、ユージからもらった白紙の本と筆記具。
そして、額縁とその中身。
『わかったわ、ハル。「みんな、ありがとう! さようなら!」』
最後に、ブンブンと大きく手を振って。
12才のレディは、家路に就くのだった。
お話のような冒険の思い出と、いっぱいの宝物と一緒に。
親友になったアリスと、しっかり手を繋いで。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
開拓地を出て西に向かう一行。
意気揚々と先頭を進むのはコタロー。
尻尾を振ってご機嫌な様子である。わたしのなわばりに、いじょうはないわね、とでも言いたげに。
そのコタローの斜め後ろには現役の1級冒険者・ハルが歩いている。
索敵の役目も負っているが、道案内が仕事であるようだ。
「ハルさん、こっちでいいんですか?」
「そうだね、とりあえず西に! 道案内は任せてね! ところでユージさん、これは用水路かな?」
「あ、はい。アリスとリーゼの魔法でやってもらってるんです。川から開拓地まで水を引こうと思って」
一行は作りかけの用水路に沿って西に進んでいた。
コタローとハルの後ろに続くのはユージ。
その後ろ、隊列の真ん中には手を繋いで歩くアリスとリーゼ。
最後尾には二人の少女を見守るようにゲガスとケビンがついている。
「大工事ですけど、いいと思いますよユージさん。いつまでもユージさんの家に頼り切りでは開拓地は大きくなりませんからね。水は大事です。ね、お義父さん?」
「ケビン……ああ、もういいやそれで。そうだなユージさん、水は確保しとくにこしたことはねえ」
娘のジゼルと結婚した以上、ゲガスにとってケビンは義理の息子である。
ゲガスはようやく義父という呼び方を受け入れたようだ。
「ですよね! でもまだまだなんですよ。川まではもうちょっとなんですけど、こう、高低差とか何も考えてなくて……」
「ふうん。まあ急ぐ旅じゃないし、アリスちゃんとお嬢様の魔法を見ながら行こうか! 高低差とか調整は……うん、またあとでね!」
「え? 工事しながらでいいんですか?」
「まあ川まであんまり距離があるようなら諦めてもらうけどね! ああ、土魔法は得意じゃないけど、ボクもちょっとやってみようかな!」
「あ、じゃあ作りかけの一番先まで行ったらやりましょうか。お願いできるかな、アリス?」
「はーい! リーゼちゃんと一緒に魔法を使うね!」
『アリスちゃんには負けないんだから! それにしてもハル、ひょっとして……』
『ふふ、まだ内緒ですよお嬢様!』
ユージのお願いに元気よく返事するアリス。
続けてエルフの言葉で伝えたユージは、リーゼからも了承をもらう。
何か企んでいるハルと、怪しむリーゼをよそに。
ユージがこの世界に来てから5年目。
間もなく春も終わり、夏を迎えようと言う頃。
王都からプルミエの街を経由して開拓地に帰ってきたユージは、ふたたび旅に出るのだった。
王都よりは近いというエルフの里への旅。
半年近く一緒に過ごしたエルフの少女・リーゼを家族のもとに帰すために。
ユージ、アリス、リーゼ、ハル、ケビン、ゲガス、そしてコタロー。
少女が二人、商人が二人、犬が一匹。
一見平和な顔ぶれだが、その実、戦闘力過剰な一隊である。
それにしてもユージ、あいかわらず女性とは縁がないようだ。
いや。
これから行くのはエルフの里。
そこでようやくユージにも新たな出会いがあるのかもしれない。
たぶん、きっと。
ちょっと短いですが、エピローグなので……
次話、明日18時投稿予定です!
しばし閑話集。





