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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十四章 エルフ護送隊長ユージは一時帰還して開拓団長兼村長の仕事をする』

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第十九話 ユージ、不在の間の開拓地のことをお願いする

「ブレーズさん、ちょっとお話があって」


「ん? ああ、また旅に出るって話か? ちょっと待っててくれ、これが終わったらな」


「あ、はい。わかりました」


 開拓地の拓けたスペースの一部は、いまでは訓練所となっていた。

 いつもの訓練を終えたユージが話しかけたのは、元3級冒険者のパーティ『深緑の風』のリーダー・ブレーズ。

 だがどうやらブレーズはまだ訓練を続けるらしい。

 ニヤッと好戦的な笑みを浮かべてハルに近づいていく。


「ハルさん、ちょっと付き合ってくれねえか。1級ってもんを体験したいんだ」


「うーん、どうしようか……」


「いいじゃねえか、リーゼちゃんの護衛はゲガスさんもいるんだろ?」


『リーゼ、ブレーズさんはハルさんと訓練したいみたいだけど……』


『いいんじゃないかしら? ハル、エルフの力を見せつけてやりなさい!』


『え? 本気ですかお嬢様? 彼、けっこう強いですよ?』


『ハル、嬢ちゃんがこう言ってんだ。嬢ちゃんには俺がついとくからよ』


 ブレーズは現役の1級冒険者であるハルに模擬戦を申し込む。

 ユージの通訳を聞いたリーゼの言葉とゲガスの発言を受けて、ハルは訓練場所の中央に向かうのだった。


「くく、ゲガスさんに続いて今度は1級冒険者か。退屈しない開拓地だぜ!」


「あ、あの、ブレーズさん? 訓練、訓練ですよね?」


 ノリノリのブレーズに慌てて声をかけるユージ。


「あーあ、ブレーズのヤツ、スイッチ入りやがった」


「え? エンゾさん?」


「ブレーズは強い人間相手だとああなっちまってな。昨日はゲガスさんともやり合ったのよ。ブレーズの負けだったがな」


「はい? ちょっと、大丈夫ですか? 二人ともケガしちゃいません?」


「ユージさん、心配するな。ブレーズもなかなか良かったが、ハルの相手にはならねえよ」


 心配するユージをよそに、ゲガスが問題ないと太鼓判を押す。それにしてもこの男、元3級冒険者相手に上から目線である。商人とはなんなのか。

 魔法の練習をしていたアリスや弓矢の練習をしていた弓士のセリーヌも訓練を止め、ユージたちの輪の中に加わる。

 第二次開拓団の元5級冒険者たちや、コタローも。


 ブレーズが手にしているのは木製の両手剣。

 木工職人のトマスに頼んで加工してもらった訓練用の武器である。

 一方で、ハルは無手で訓練場所の中央に向かう。


『うん、強そうだしちょっと本気でやろうかな。里に帰る前に慣らしておかないとね!』


 そう独りごちるハル。


 ユージがハルの戦いを見るのは二度目のこと。

 一度目はハルがケビンの戦闘力を試すため、王都のゲガス商会の裏庭で。

 二度目にして初めて、ハルの本気を見られるようだ。


 開拓地の住民たちが見守る中、二人の戦いがはじまるのだった。



「おおおおっ!」


 訓練用の両手剣を大上段に構えたブレーズが叫びながらハルに向かって飛び込む。

 だが。

 ふわり、とハルが後ろに向かって跳躍した。


「え? と、跳びすぎじゃない? 人間ってあんなに跳べるの?」


「ユージ兄? ハルさんは人間じゃなくてエルフさんだよ?」


「ユージさん、あれは魔法も使ってるからな」


「ブレーズ、追うのよ! 自分の間合いに引きずり込んで!」


 一瞬の攻防で盛り上がる外野陣。

 ユージ、アリスに突っ込まれる始末である。

 盛り上がる人間をよそに、コタローはじっと二人の模擬戦を見守っていた。


『うん、強い。これなら大丈夫そうだね』


 後ろに飛び退(すさ)ったハルが小さく呟き、左腕を前に伸ばす。

 ハルはいまだに無手。

 だが、それはまるで弓を引くような仕草で。


「え? ハルさん何してるの? 何も持ってないのに弓矢?」


『そうよハル! エルフのすごさを見せてやりなさい!』


「ユージさん、よく見とけよ。これが現役の1級冒険者、『不可視』のハルの攻撃だ。剣より弓が得意で、風の魔法は一級品の、な」


 なぜか誇らし気にユージに教えるゲガス。

 どうやらこの模擬戦はゲガスが解説してくれるようだ。


「逃がすかッ!」


 ふたたびハルとの距離を詰めようとするブレーズ。

 と、ハルの右手が動く。

 まるで見えない矢を射ったかのように。


「おおおおお!」


 何もない空間へ木製の両手剣を振り下ろすブレーズ。

 ユージは首を傾げている。


 ブレーズは後方に吹っ飛んでいった。


「え? はい?」


「勝負あり、だな」


『本気でやりなさいとは言ったけど……えげつないわねハル』


 2メートルほど後方へ吹っ飛ばされたブレーズがゆっくりと上体を起こす。

 どうやら大きなケガはないようだ。

 瞬殺されたショックで呆然としているようだが。


 あっけない結末、しかもよくわからない結末にポカンと口を開けるユージ。

 ゲガスとリーゼだけは訳知り顔である。


「えっと、え? ……あ! そうか、魔法ですか?」


「そうだユージさん。あれがハルの魔法よ。無詠唱で風の矢。たぶんあの様子だと一発じゃねえな」


『普通の人じゃ見えないはずの風の矢を斬ったブレーズさんもすごかったけど……魔法は一度、矢は5発だったわ』


「ちょ、ちょっと強すぎませんかねえ……」


「うわあ、ハルさんすごい! アリス、もっと魔法の練習する!」


「ユージさん、まだ上があるぞ? いまのは魔法で傷付けないよう気を遣ったみたいだし、ハルは実物の弓矢を射ちながら合間にあの魔法を挟んでくるからな。それにアイツの風の魔法はほかにもある。見えない矢だけで『不可視』とは呼ばれねえよ」


『えっと……それで剣も使えるんですよね? なんだそれ、強すぎだろ1級冒険者……』


『ゲガス、ボクの手の内をバラさないでよ! お嬢様、これでよろしいですかね?』


『上出来よ! ユージ兄もアリスちゃんもコタローもびっくりしてるもの!』


 胸を張るリーゼとハル、魔法だというゲガスの解説に大喜びのアリス。

 ユージは引き気味であった。どうやら戦闘狂ではないようだ。

 足下のコタローは、興奮した様子でワンワン吠えながらぐるぐる駆けまわっている。どうやら戦闘狂であるようだ。


「完敗だ……ゲガスさんにはもうちょっと競り合えたのによ」


「ブレーズ、しょうがないわ。これが今の実力ってことよ。もっと鍛えましょ。二人でね」


「セリーヌ……」


 上体を起こして座り込んだままのブレーズに駆け寄る妻のセリーヌ。

 背中に手を当てて寄り添って見つめあう。

 スキあらばイチャつく。

 さすが新婚夫婦である。

 たしかにいつもこれでは、第二次開拓団の5人の独身男たちが若い独身女性との出会いを求めても仕方ないことだろう。

 その男たちは、今も歯を食いしばりながらイチャつく二人を見つめていた。


「それにしても……すごい魔法ですねハルさん」


「魔法には相性があるし、レベルが低くて魔素が足りなければ使えない。でもそれだけだ。イメージさえできれば、可能性は無限だよ。って教え込まれたからね」


 パチリと片目をつぶってユージにウィンクするハル。

 300才ぐらいの男からおっさんへのウィンクである。

 ユージはノンケなのに。

 いや、ハルもその気はないようだが。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ええっと、それじゃ今度の旅のメンバーなんですが」


「ユージさん、最小限だから考えるまでもないよ!」


「ハルの言う通りだ。ユージさんとアリスの嬢ちゃんは連れていくとして、あとはケビンだな」


 ユージの家の前、切り株が並べられた簡易広場。

 8人が腰掛けて今後について話し合っていた。

 ユージ、ケビン、アリス、リーゼ、ハル、ゲガス。

 ケビンの妻・ジゼルと副村長のブレーズである。


 エルフの里に向かうメンバー、それから不在の間の開拓地のことを話し合っているようだ。


「じゃあエルフの里に行くのは俺とアリスと、もちろんハルさんとリーゼ。それからお役目の引き継ぎで、ゲガスさんとケビンさんですかね?」


 確かめるように口に出すユージ。

 輪になった人々の真ん中で、コタローがワンワンッ! と吠える。わたし、わたしもいくわよ、とばかりにアピールしているようだ。自己主張の激しい女である。めんど……犬なので問題ない。


「ごめんごめん、コタローもな」


 ユージが謝って手を差し伸べるが、コタローは近づかない。わすれてたわねゆーじ、と言わんばかりにそっぽを向いている。


「ケビン、留守は任せてちょうだい! 工場予定地と店舗の建設は私が仕切るわ! もちろん針子たちもね!」


「はい、お願いしますジゼル。護衛の二人は残していきますから、いいように使ってくださいね」


「あー、ユージさん。エンゾが荷物を取りに行くってんで元5級のヤツらを二人連れて街に行く予定なんだが……何か用事はあるか?」


「いや、俺は特にないです。ケビンさんは?」


「ああ、ではトマスさんに声をかけてください。ハルさんの家とケビン商会の支店を建てる依頼をしたので、予定よりお金が入るし人を増やそうかって言ってましたから。あとユージさん、あの件はどうします? 帰ってきてからじゃ道が完成してる可能性も」


「あ、そうでしたね。俺としては休憩所なり宿泊施設なりを造ってもらおうと思います。もう彼らも知らない仲じゃないですし、その」


「ふふ、あいかわらず甘いですねユージさん。では、領主様に手紙を書きましょうか。文言はお教えしますよ」


「ありがとうございます! ブレーズさん、また留守にしますけどよろしくお願いしますね」


「ああ、任しとけ。ユージさんはリーゼちゃんを家族のところへ連れていってやれ。何かあったら大変だからな。いやマジで」


 リーゼに何かあったら、攻められる可能性もある。

 ブレーズ、エルフの戦闘力にビビっているようだ。



 旅のメンバー、そして出発の前にやっておくべきこと。

 わいわいと話をする大人たち。


 その輪から少し外れて。

 アリスとリーゼは、ぎゅっと手を繋いでうつむいていた。


 今生の別れではなくなった。

 リーゼはもうすぐ家族の下へ帰れる。

 それでも。

 ずっと一緒に暮らしてきた、二人の少女の別れが近づくのだった。



次話、明日18時投稿予定です!

明日は今章エピローグ。


※活動報告にて、ひさしぶりの作中の時間進行の年表を載せています。

 ユージは34才、アリスは9才が正解でした…

 混乱させてしまい申し訳ありません。

 修正し直しました。

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