第十四章 プロローグ
今章プロローグ。
ちょっと短めです。
王都からプルミエの旅、二日目。
ユージたちは旅の難所・峠越えに差し掛かっていた。
とはいえ、御者を務めるケビンもゲガスも経験は豊富。三台の馬車のうち、中央の馬車を操るジゼルをサポートしながら順調に歩みを進めていた。
いまは今日の旅程を終え、峠のピークを越える前の場所に設けられた野営地に着いたところである。
「そういえばゲガスさん、俺たちの後ろに何台か馬車がついてきてるんですけど……その、もしもの時はどうすればいいんですか?」
「ああ、便乗したヤツらか。ユージさん、基本は無視でいいぞ」
「え?」
「ユージさんは優しいですからねえ。ユージさん、会頭の、いえ、義父の言う通りです」
「義父……ケビン、だったらもうゲガスでいいぞ」
「え? いいんですかお義父さん?」
「やめろ! 鳥肌もんだ気持ちわりい!」
「あの、ケビンさん? ゲガスさん?」
義理の親子のイチャつきっぷりに困惑するユージ。
ゲガスは口では微妙なことを言っているが、この二人、どう見ても仲良しである。
「ああすみませんユージさん。まあ何かあった時は目の前で見殺しにするのもアレですから、助けられそうなら助けます。彼らはそれを期待しているんですよ」
「はあ」
「ありゃ自分の荷を自分で守りきれないって言ってるようなもんよ。商会としちゃ二流以下だな」
天秤の旗とえび茶色のマント。
ゲガス商会の目印であるそれは、盗賊避けになる。
さらに言えば、ゲガス商会の人員は強い。
その馬車にコバンザメのようについていくことで、安全な旅路を目論んでいるのだ。
ゲガスとケビンはわかったうえで無視。余裕があれば助けるが、基本は有事の際にあっさり切り捨てるようだ。
シビアな世界である。
「そうですか……」
「まあユージさんはあんまり気にすんな。それよりほれ、この野営地の名物だ」
そう言ってユージの背後を指さすゲガス。
振り返ったユージが息を呑む。
「おお、これは……」
「うわあ、うわあ! ユージ兄、すっごいキレイだね!」
峠の野営地から見下ろす景色。
麓に広がる平野と川、そして王都が夕日に照らされている。
アリスが興奮するのも無理はないほどの景色だった。
ユージは立ち上がって野営地の端、崖の手前に近づいていく。
そっとユージの左手を握って一緒に歩くアリス。
アリスの左手はエルフの少女・リーゼが握っていた。
そのリーゼの左手は、1級冒険者のエルフ・ハルが。
手を繋いで四人が並ぶ。
アリスとリーゼの間、四人の真ん中にコタローがおすわりする。中心に居座って女王気取りである。犬なのに。
「キレイな景色だね」
「うん!」
『スゴイ! リーゼたちはあそこにいたのね!』
『ええお嬢様。それにしてもいい景色ですねえ。たまには馬車もいいものです!』
「アリス、また王都に来ようね。シャルルくんに会いに」
「うん! アリスね、幸せになるの! それでね、シャルル兄に教えてあげるんだ!」
『ハル、リーゼはたくさん冒険したのよ! お話の中のレディにだって負けないんだから!』
『よかったですねえお嬢様! でも、帰ったらお説教が待ってますよ?』
はしゃぐ二人の少女と、二人の保護者。
四人の後ろでは、ついに結ばれたケビンとジゼルが身を寄せ合っている。
さらにその後ろでは、イチャつく二人を睨みつけるゲガス。
ケビンのことを認めているものの、それはそれ、これはこれであるようだ。
開拓地からプルミエの街、そして王都へ。旅を続けたユージたち。
さまざまな思い出を抱き、今度は家路を行くのだった。
ユージ、アリス、コタロー、リーゼ、ハル。
ケビン、二人の専属護衛、ジゼル、ゲガス、ユルシェル。
サロモン、エンゾ。
12人と一匹、馬車三台の旅である。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「……ブレーズさん」
「ああ? どうした、シケた顔して」
ユージ不在の開拓地・ホウジョウ村。
住居用地確保のための伐採、その休憩時間。
元3級冒険者にして副村長のブレーズは、第二次開拓団の元5級冒険者の男に話しかけられていた。
「えっと、その……」
「おい、ちゃんと言えって。ブレーズさんなら相談に乗ってくれるかもしれないだろ」
「その……実はブレーズさん。俺、フラれました」
「お、おう、そうか」
「ブレーズさん、お願いです! ホウジョウ村にもっと女性を!」
「いや、俺にそんなこと言われてもな……と、とりあえずアレだ、プルミエの街に買い出しでも行ってくるか?」
「いいんすか!? 何買ってきましょうか!」
「……特にねえな。この前ケビン商会の人がいろいろ置いてったしな」
「そんな!」
ホウジョウ村に残っているのは、元3級冒険者パーティ『深緑の風』のリーダー・ブレーズと弓士のセリーヌの夫婦。盾役のドミニクと、元奴隷でいまは針子見習いの妻。
ユージの奴隷にして農作業を取り仕切る犬人族のマルセル、妻で猫人族のニナ、その子で犬人族のマルク。
針子のユルシェルの夫・ヴァレリーと、針子見習いとして移住してきた三人の女性。
そして男手として移住した元5級冒険者パーティの独身男性五人。
加えて、木工職人のトマスと見習いの二人、それから出張できている職人たちである。
つまり、独身女性は三人のみ。
どうやら元5級冒険者の男は、逸って告白して玉砕したようだ。
だがブレーズに相談したところでどうするのか。
新しい移住者を求めるにせよ、それは開拓団長のユージの判断次第。
ひとまずブレーズは、買い出しを名目に街に行かせて発散させるつもりのようだ。優しい男である。勝ち組の余裕である。
いつの時代も、小規模な農村の嫁取りは大変な問題なのだ。
「ああもう、ユージさん早く帰ってきてくんねえかなあ……」
二棟の共同住宅、二軒の家庭用住居と建築中の三軒の家。
マルセルが指揮した農作業は一段落して、いまは建築作業を中心に取りかかっていた。
出張できている職人たちは、着々と缶詰工場建設予定地の整備を進めている。
プルミエの街と開拓地を結ぶ獣道も開拓が進んでいるようだ。
ユージ不在の開拓地・ホウジョウ村。
開拓は順調なようだが、恋模様は複雑なようだ。
そこにユージの存在はない。
ちょっと短めですが、今章のプロローグですので。





