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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十三章 エルフ護送隊長ユージは引き続きエルフ護送隊を率いる』

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第七話 ユージ、ゲガスからエルフについての話を聞く

 『血塗れゲガス』と『戦う行商人』ケビンが死闘を繰り広げたゲガス商会の裏庭。

 陽が落ちたいまはかがり火が焚かれ、宴会場となっていた。

 木箱や木製のイスを持ち出して、ゲガス商会の従業員が思い思いに腰掛けている。


 人の輪の中心にいるのは、ゲガス商会出身でプルミエの街で自らの商会を興したケビン。

 そして、ゲガスの娘・ジゼルである。

 経済力、戦闘力でゲガスに認められたケビンは、想い人であるジゼルと結婚することが決まったのだ。

 ちなみに、ジゼルはすでにドレスから着替えていた。土で汚れたため、針子のユルシェルに脱がされたのだ。

 商会の従業員以外の人を集めたパーティは別にやるようだ。この宴は、いわば身内だけの婚約披露パーティである。



 ユージ、アリス、リーゼ、コタロー。

 プルミエの街から同行してきたサロモン。

 途中で救い出されたアリスの兄・シャルルと狼人族のドニ。

 一行は、人の輪の中心から外れた場所で食事を楽しんでいた。

 これからもケビンとは一緒に行動する。ケビンやジゼルを昔から知っている従業員たちに、語り合う機会を譲ったのだ。もちろん祝福の言葉は告げに行っていたが。

 ユルシェルはまた籠ってドレスのケアである。急がなくてもいいのだが、製作者として譲れないものがあるようだった。


「お客人、待たせてすまなかったな」


 仲間うちでわいわい楽しむユージたちのもとにやってくるゲガス。その手には陶製の杯を持っていた。

 男親として、飲まずにはいられない日であるようだ。


「いえ、気にしないでください。あんなことがあったらしょうがないと思います。俺だってアリスが嫁に行くってなったら……」


 話ができなかったことを謝るゲガスにユージが告げる。

 ワンッ! と吠えるコタロー。そうよ、わたしよりつよいひとじゃないとありすはよめにやらないわ、と言いたいようだ。高いハードルである。


「えー? アリス、ユージ兄とけっこんする!」


「はいはい、ありがとうアリス」


 ユージの横で聞いていたアリスが、ユージの言葉に反論する。

 聞き流してアリスの頭を撫でるユージ。

 子供扱いが不満だったのか、アリスはプクッと頬を膨らませていた。子供である。


『嬢ちゃんも、待たせてすまなかった』


『いいのよ! 結婚を認めてもらうために戦うなんて、お話みたいだったもの! リーゼ、ドキドキしちゃった!』


『はは、そうかい。さすがアイツらの娘だな』


「そうそう、それです! ゲガスさん、なんでエルフの言葉がわかるんですか?」


「まあいろいろワケがあるんだが……『嬢ちゃん、どうする?』」


『ユージ兄には聞いてほしいの。たぶん、おじさんにも関係あるわ』


「ユージさん、人払いを頼む。俺と嬢ちゃん、ユージさんだけで話をしたい」


「うーん、サロモンさんだけ残してもいいですか? リーゼの護衛なんです」


「ゲガスさん、プルミエの街の冒険者ギルドマスター・サロモンだ。名に誓って、剣に誓って、口外しないと約束しよう」


「……まあいいだろう」


「アリス、ちょっと待っててくれるかな? 大事な話があるみたいなんだ」


 ユージの言葉を聞いて、はーい! リーゼちゃん、またあとでね! と、アリスはシャルルと手を繋いで離れていく。聞き分けがいい子供である。

 二人の子供たちのうしろをドニが歩いていた。護衛のつもりなのだろう。

 なぜか動こうともしないコタロー。尻尾を振りながら取り分けられたエサに顔を突っ込んでいる。わたしはただのいぬよ、と言わんばかりの行動である。いや、ただの犬なのだが。


『お父さまとお母さまのこと知ってるのね! じゃあやっぱり、あなたがニンゲンのお役目さん?』


 アリスたちが離れていくのを見届けて、さっそくリーゼがゲガスに問いかける。


『嬢ちゃん、正解だ。まあエルフの言葉がわかるニンゲンなんて他にいないだろ』


『そうなのね! ケビンさんがもらったっていうあの布を見た時から、そうじゃないかと思ってたの!』


『賢い嬢ちゃんだ。ケビンから手紙をもらった時には驚いたもんだがな。ま、そのおかげで嬢ちゃんの居場所がわかってみんな安心してたんだが』


『そうね、ケビンさんもユージ兄も、すっごく良くしてくれたわ! リーゼ、大冒険したの!』


『ははは、まあ里に戻ったらアイツらに話してやんな』


 強面のゲガスと向かい合ったリーゼ。

 その凶悪な面相を気にすることなく、笑顔を浮かべて楽しそうに話していた。

 そういえばこの少女、頬に大きな傷跡があるサロモンを見ても怯んでいなかった。ニンゲンって変わった顔の人もいるのね、と言っていたが。誤解である。


『ええ! でもね、里に戻ったら大人になるまで外に出れないでしょう? リーゼ、ユージ兄とアリスちゃんとコタローと、開拓地のみんなと二度と会えなくなるのがさびしいの』


『そればっかりはなあ……。だが、開拓地の場所は……取引をどうするか……。ふむ。嬢ちゃん、なんとかなるかもしれないぞ?』


『え? おじさん、ホント!?』


『ゲガスさん、本当ですか!?』


 自分以外にエルフの言葉を話せる人間の存在。それに驚いていたのだろう、会話に混ざることなく聞いていたユージ。

 だが、里に送ってからもまたリーゼと会えるかもしれないと聞いて、ユージが言葉を発する。


『ああ、やっぱりか。ケビンの新商品を見た時にうすうす思ってたんだが……ケビンは目利きだが、自分で創り出すのは苦手だったからな』


『でしょ!? だから私、一緒に王都まで来たの! 自信はなかったけど、たぶんそうだろうって』


『え? あの、なんのことです?』


『ユージさん……おまえ、別の世界からやってきた稀人(まれびと)だな?』


 ゲガスから問いかけられるユージ。

 それは、ユージが初めてケビンに会った時に聞かれた質問と同じで。


『な、なな、なんのことでしょう』


 ユージが動揺するのも、同じであった。

 ワンワンッと吠えるコタロー。ゆーじ、どうようしすぎよ、かいたくちではもうあんまりかくしてないじゃない、と言わんばかりだった。


『ああユージさん、心配しないでくれ。別に悪い意味じゃないんだ』


『そうよ、ユージ兄! 安心して!』


『リーゼ……』


 隣に座ったリーゼはそっとユージの手をとり、安心させるようにニッコリ笑う。

 12才の美少女に手を握られた34才のユージ。事案である。いや、相手から握ってきたのだ。セーフだろう。


『どこから話すか……まさかまた稀人と会えるとはなあ。あの時は断られたんだが』


 ボソリと呟くゲガス。

 そういえば、ケビンはユージに伝えていた。

 ケビンが修業していたゲガス商会。

 その会頭が若い頃に、険しく大きな山に突然現れた建物と謎バリアを体験したそうなのです、と。

 麓の村との物々交換の場に同席して、住人の姿を見たことがある、と。

 あれは人々と交わろうとしない考えを持つ稀人の集団だろう、と。


『おじさん、彼が来るまで待ったほうがいいんじゃない? まだ帰ってこないの?』


『いや、話してやるさ。ユージさんが不安だろうからな。アイツはそろそろ戻ってくるはずだが、まだかかるはずだ』


『え? 王都にいるエルフとも知り合いなんですか?』


『ああ。まあお役目とも関係するんだが……。俺もアイツも、稀人を見つけたらエルフの里に案内する役割を負っているのよ。それから、嬢ちゃんのように困ったエルフを助ける役目もな。アイツは冒険者として、それからエルフとして有名になることで情報を得られるように。俺は商人としての繋がりで情報を集めてな』


『は、はあ……でも、なんでですか? いや、エルフを助ける役目っていうのはわかりますけど』


『まあ詳しくは合流してからアイツが説明するだろ。簡単に言えば、稀人の保護だ。嬢ちゃんの故郷のエルフの里は、稀人に世話になったことがあるそうでな』


『え!? じゃ、じゃあ、稀人の情報も!?』


『ああ、あるらしい。そのへんは俺も聞いてないから、アイツに聞いてくれ』


『はい!』


『ユージ兄、よかったね! リーゼ、ユージ兄のことそうじゃないかって思ってたけど、自信なかったから……ニンゲンのことよく知らなかったし……。それにリーゼ、稀人の情報もまだちゃんと教わってないの……』


『ああ、いいんだよリーゼ! 知ってる人に会えたんだし! そっか、だからリーゼは俺と王都に来たかったんだね』


『違うの! リーゼ、みんなと会えなくなるのが寂しくて、みんなと一緒が良かったの! 本当よ!』


 涙目でガバッとユージに抱きつくリーゼ。

 そのリーゼの腕を、コタローが前脚でたしたしと叩く。だいじょうぶ、わかってるわよ、と言いたいようだ。優しい女である。犬だが。


『そうだね、俺も寂しいよリーゼ』


 そう言ってリーゼを抱きしめるユージ。イケメンである。行動だけは。

 アリスに続いてリーゼまで。

 ユージ、モテモテである。

 子供には。


『稀人のことはその人が来てから聞くとして……。ゲガスさん、なんとかなるかもしれないってどういうことですか?』


『ああ。さっき話したお役目の人間は一人。エルフと繋がっている秘密を守れて、情報を集められる立場にあり、自分の身と保護したエルフを守れる戦闘力がある。報酬は、エルフの里で作られる絹の布。だから代々商人が選ばれることが多いそうだ。絹の布は商売上の繫がりを作るきっかけになるし、商人なら旅をしても怪しまれないからな』


『あ、絹はエルフの里で作られてたんですね? なんだリーゼ、言ってくれればよかったのに』


『ユージ兄、それは秘密なの! 里に案内するから、稀人にはバレてもいいみたいだけど……』


『そろそろ俺は誰かに引き継ごうと思っててな。ちょうどいい機会だ……。ケビンが役目を引き継げば、取引にはほかに一人ぐらい連れていけるんじゃないか? そうすれば、嬢ちゃんもたまに会えるだろ。稀人のユージさんは里に行ってもいいんだしな』


『ホント!? ホントにそんなことできるの!?』


『まあ詳しい話はアイツが帰ってきてからにしようや。どっちにしろ、まずは嬢ちゃんは里に帰さないとならんし、稀人のユージさんも連れていきたいからな。ケビンに引き継ぐとなれば、エルフ側にも伝えて許可をもらわないと。同行者が許されるかはその時だな。俺は一人で行っていたから』


『なるほど……リーゼ、よかったね! 帰れるし、また会えるかもって!』


『うん、うん!』


 グスグスと涙を流すリーゼ。

 帰りたい。帰って家族に会いたい。それもリーゼの本音だが、みんなと一緒にいたいという気持ちも確かにあったのだ。

 どちらも叶いそうだと知って、リーゼは泣き出していた。

 慰めるようにリーゼの頬をペロリと舐めるコタロー。獣臭が移る。


『ユージさん、アイツが帰ってきたら連絡が来ることになっている。まずはリーゼを連れて、ユージさんも一緒にエルフの里に向かいたい。どうだ?』


『わかりました。リーゼを里に送り届けるつもりでしたし、稀人の情報も知りたいです。それに、リーゼとまた会えるように話もしたいですし……。連れていってください!』


 ゲガスに頭を下げるユージ。

 いまだにしがみついたままのリーゼは、別れを避けられるかもしれないと喜びの涙を流している。


『わかった。ま、なんにせよアイツが帰ってきてからだな。難しく考えずに、それまではここでゆっくりしてくれ』


『はい!』



 エルフの少女・リーゼを里に帰す。そのために、王都にいる冒険者のエルフに会う。

 いまだに王都のエルフには会えていないものの、リーゼを里に帰す目処はついたようだ。

 しかも、里に帰ったリーゼと再び会える可能性も出てきた。

 話を聞いて少しだけ肩の荷を下ろすユージ。


 そして、長命のエルフたちが住む里に稀人の情報があるというのだ。

 ユージは期待に目を輝かせるのだった。

 ワフッ! と、横で聞いていたコタローも。





やっとここまで…

ケビンが稀人だと断定したのは第四章・第七-八話、

会頭の体験談は第四章・第十話です。

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