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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十三章 エルフ護送隊長ユージは引き続きエルフ護送隊を率いる』

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第三話 ユージ、王都の冒険者ギルドで昇格試験を受ける

「そうですか、エルフさんはまだ帰ってきていませんか……」


「ユージ兄、じゃあアリス、まだリーゼちゃんと一緒にいられる?」


『気にしないでユージ兄! リーゼ、みんなで王都を見てまわりたいもの!』


 王都を拠点にしている冒険者のエルフはまだ帰ってきていない。

 目的を果たせなかったユージは肩を落とすが、二人の少女は目を輝かせていた。

 エルフに会えば、別れが近づく。

 そのことを知っているアリスもリーゼも、もうしばらく一緒にいられると聞いて喜んでいるようだ。


「うむ。その子がエルフか。ヤツと違って幼いようじゃが、護衛は……いらぬか」


 エルフの少女・リーゼに目を向ける王都の冒険者ギルドの老人。続けてユージ、サロモン、ケビン、ケビンの専属護衛の二人に目を向ける。


「まあ俺がいるしな。それに、滞在場所はゲガス商会だ」


 プルミエの街の冒険者ギルドマスター・サロモンが答える。

 納得したように頷く老人。どうやらゲガス商会の名は知られているらしい。


「失礼じゃが、護送隊長のユージ殿のことも聞いておる。たしか今は6級じゃったな。盗賊の討伐に王都までの護衛、功績を考えれば戦闘力次第では5級に上がれるが……どうじゃ? いまなら屋内訓練場で儂が相手するぞ?」


「張り切りすぎだろじいさん。ユージ殿、どうする? 5級なら上げといたほうがいいと思うし、じいさんはいろいろ知ってるから助言を受けられるかもしれん。アリスちゃんもな」


「移動が制限されることがあるのは、たしか4級からでしたっけ。じゃあ受けようかなー。アリスはどうする?」


「ねえねえユージ兄、アリス、魔法をバーンってやっていい?」


「……ど、どうなんでしょうサロモンさん?」


「アリスの嬢ちゃん。このじいさんには全力でやっていいぞ!」


「やったー! じゃあアリスおもいっきり(・・・・・・)やるね!」


「え……? だ、だいじょうぶですかね?」


 サロモンの許可を得て両手を上げて喜ぶアリス。

 旅の途中、アリスはほとんど魔法を使ってこなかった。ストレスでも溜まっていたのだろうか。

 サロモンの許可は出たものの、ユージは心配そうである。

 ユージの足下にいるコタローがワンッと吠える。まほうつかいっぽいおじいさんだもの、だいじょうぶよ、と言いたいようだ。レッテルを貼るタイプの女なのか。


 王都の冒険者ギルド。

 6級冒険者のユージとアリスは、その訓練場で昇格試験を受けることになるのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「えっと……いいんですかね?」


 王都の冒険者ギルドには二つの訓練場があった。

 一つは屋外訓練場。かなりの広さを持っており、ユージが通り過ぎた時にも多くの冒険者が訓練を行なっていた。

 もう一つは、屋内訓練場。こちらは屋外のものより狭く、屋根と壁がある空間。屋根を支える柱さえなければ体育館のようだが、床は木材ではなく土のまま。外光がとれるようにだろう、壁の上部はほとんどが窓になっていた。まあ窓といってもガラスはなく、ただの穴だったが。

 老人が声をかけたのだろう、屋内訓練場は人払いがされていた。


 その屋内訓練場で向かい合う老人とユージ。

 ユージは左腕の大盾を構え、右手には短槍を手にしている。

 対する老人は顎まである長い杖を持って、ローブ姿のまま。


「ユージ殿、心配するな。思いっきりいけ!」


 攻撃してもいいのだろうかと悩んだユージにサロモンが声をかける。


「小僧、サロモンの言う通りじゃ。全力でこい」


「え? じゃ、じゃあ」


 短槍を突き出すユージ。

 遅い。

 様子見であることが明らかなひと突きである。


 ユージの突きを杖で弾いて、老人はスッとユージに詰め寄る。

 ユージが吹き飛ぶ。


「え? は?」


 尻餅をついて呆然と老人を見やるユージ。

 ユージの突きをいなし、距離を詰め、老人は前蹴りでユージの腹を蹴り飛ばしたのだ。

 蹴られた衝撃よりも、予想外の攻撃方法にユージは呆気にとられているようだった。


「全力でこいといったじゃろ? 小僧の攻撃など当たらんわ」


 ユージを見下ろして鼻で笑うように老人が告げる。


「おじいちゃんすごーい! ユージ兄、がんばって!」


 観戦していたアリスから声援が飛ぶ。

 ユージは立ち上がってふうっと一つ息を吐いた。どうやらやる気になったらしい。


「よし、じゃあいきます!」


 そこからはユージも本気だった。

 突き、薙ぎ、払う。

 いずれもあっさり老人に防がれる。それどころか、老人は時おり手にした杖でユージを打ち据えていた。

 ユージの得意技・目つぶしの魔法は、発動の直前に額をコツンと叩かれて潰される。

 え、なんで光らないんだ? と言いながらも、動揺を抑えて攻撃を続けるユージ。それでもユージの攻撃は老人の体に届かない。

 やがてハアハアと息を荒らげるユージ。


「ふむ、こんなものか。槍をはじめて10年ぐらいかの? 魔法は気になるところじゃが……まあ5級の実力はあるじゃろ」


 ユージの体力を見て取ったのか、老人が終わりを宣言する。どうやらユージは無事に5級に昇格したようだ。一撃も当てることはできなかったが。

 それにしても、ユージが武器を手に鍛錬をはじめたのはこの世界に来てから二年目の夏。おおよそ三年。老人の見立てより遥かに短い期間である。ユージに才能があったのか、あるいは辺境の過酷な暮らしで位階が上がったせいか。


「手も足も出なかった……」


 がっくりと落ち込むユージ。手も足も、それどころか魔法は発動さえさせてもらえなかったのだが。

 ユージを慰めるようにワフッと鳴くコタロー。あのおじいさん、すごうでみたいね、たのしみだわ、と言いたいようだ。戦闘狂である。獣ゆえ。



「さて、次は嬢ちゃんかの?」


「んーとね、次はコタローがやりたいみたい!」


 アリスの言葉を理解したのか、コタローが壁際から中央に向けてスタスタと歩いていく。

 ユージ、コタロー、アリス。

 奇しくも、プルミエの街の冒険者ギルドでサロモン相手に訓練した時と同じ順番である。


 老人の前に立ったコタローが、ワフッと吠える。おじいさん、よろしくね、と言っているかのように。


「犬……ま、まあよい、かかってきなさい」


 老人が驚きを見せたのは一瞬。どうやら歳は取っても頭は柔らかいようだ。


 コタローが駆ける。

 そのスピードに目を剥くも、平静に杖を構える老人。

 コタローが接近して爪で、牙で連撃する。


「ほう……風魔法を使うか」


 杖で防ぎながら呟く老人。

 先ほどのユージとの戦いよりも激しく杖を動かしている。


「なかなかやるのう」


 どうやらユージよりも評価は高いようだ。

 それでも余裕そうである。

 典型的な魔法使いの格好で、見た目もそのもの。なのに接近戦に強い。ユージの第一印象は間違っていなかったようだ。いや、魔法を使わない理由があるのかもしれないが。


 足に、飛び上がって頭に、回り込んで後ろから。

 コタローがどこを狙っても老人に防がれていた。

 時おり杖の先が青く光るのは老人の魔法か。


 一度後ろへ跳んで距離を取るコタロー。グッと全身に力を込める。

 駆け出したコタローはこれまでで最速。

 一瞬で距離を詰めて老人に接近する。

 身構える老人。

 接触の直前、コタローは老人の右、何もない空間に飛ぶ。ワンッ! と大きく一声。

 何もない空間を蹴って、老人に牙を剥くコタロー。

 空中を足場にした三角跳び。

 コタロー渾身の一撃である。

 だが。

 老人は飛びかかるコタローをあっさりと杖でいなし、杖先でくるりとコタローの体を回す。

 勢いのまま地面に転がるコタロー。

 怪我もなく立ち上がるが、コタローが戦いを続けることはなかった。

 わたしのまけよ、と認めているようだ。潔い女である。弱肉強食な獣なので。


「うむ、強かったぞ。そのまま精進せい。……犬は登録できんか。ちと惜しいの」


「おじいちゃんつよーい! コタローもすごかった!」


「コタロー、すげえな……」


 キャッキャとはしゃぐアリス。その横ではエルフの少女・リーゼも目を輝かせている。

 ユージは唖然とした表情である。何度もコタローが戦う姿を見ているが、じっくり眺めることは少なかったのだ。あるいはユージも5級冒険者として認められるほどの実力をつけて、初めてそのすごさが理解できたのかもしれない。



「最後はそこのお嬢ちゃんか。魔法を使うんじゃな?」


「うん! アリス、火魔法が得意なの!」


「そうかそうか。じゃあこの爺さんに全力で撃ってきなさい。儂も魔法のほうが得意なのじゃ」


「え? いやまあそうでしょうけど……え?」


 これまで老人が見せた近接戦闘。ユージもコタローも軽くいなしていたが、老人は魔法のほうが得意なのだという。たしかに見た目通りなのだが、ユージはイマイチ納得がいかないようだ。

 まあアリスはそんなことを気にしていないようだが。


「はーい! じゃあいくね! んんーっ」


 お腹に手を当てて体を縮めるアリス。

 しかめっ面でなにやら集中しているようだ。


「ほう、これは……」


『ア、アリスちゃん! ちょっとユージ兄、止めなくていいの!?』


『え? アリスの魔法を知ってるサロモンさんが全力でいいって言ったんだし、大丈夫じゃないかなあ』


 焦るリーゼをなだめるユージ。いや、なだめるというよりただ暢気なだけか。


「あっついほのお、いけー!」


 お腹に置いていた手を離して前方、老人の方向に手のひらを向けるアリス。

 アリスの言葉とともに、手のひらの前に炎が生まれる。

 そして。

 炎はそこから線を描き、アリスと老人を結ぼうとしていた。

 アリスの新しい火魔法。魔力が続く限り継続して炎を放ち続ける単体攻撃魔法である。何と戦うつもりなのか。

 ノリノリな掲示板住人によって名付けられた名前は『極熱線』。厨二病は軽度ですんだようだ。あとハワイっぽい波の名前も挙がったが、あっさりと却下された。危ない。


「魔素よ、すべてを打ち消せ」


 小さな呟きとともに、杖をかざした老人。

 杖の先から青い光が放たれる。


 光線のような青い光はアリスが放った炎とぶつかる。

 そして、炎をあっさりと消滅させていった。

 どうやらコタローの風魔法を防いでいた青い光と同じものであるようだ。

 ユージは気づかなかったが、目つぶしの光魔法を潰したのもこの魔法である。


 老人の杖の先から放たれた光は炎を消滅させていき、やがてアリスの手まで届く。

 アリスの魔法が消え去った。

 アリス、完敗である。


「うわあ、うわあ! おじいちゃんすごい! アリス、思いっきりやったんだよ!」


「魔法で負けるわけにはいかんからのう。うむ、幼いのに良い使い手じゃ。5級は合格。あとは身を守る術を磨けば、お嬢ちゃんならあっという間に2級あたりまでいけるじゃろう」


『な、なにコレ……ニンゲンってこんなのがゴロゴロいるのかしら……』


「サロモンさん、あの人は何者なんですか? 王都の冒険者ギルドってこんな人がいっぱいいるんですか?」


「ああ、言ってなかったか。ユージ殿、じいさんはこの国の冒険者ギルドを束ねるグランドマスター。そんで、元特級冒険者だ。あれでも現役の頃より腕は落ちてるんだが……」


「はあ、これが特級……」


「一人はまあまあ、一匹はなかなか。それでお嬢ちゃんはこれからが楽しみじゃな。どうじゃ? 王都に移住する気はないかの? 儂なら魔法も教えられるぞ?」


「じいさん! 引き抜きなんて大人げねえぞ!」


「あ、いえ、俺は開拓団長ですから」


「む、それでは移住は難しいか。まあ気が変わったらいつでも歓迎するからの。では、二人は今日から5級冒険者じゃ。手続きしてくるでな、ちょっと待っておれ」


 そう言い残して、老人は室内訓練場から去っていった。

 やったー! というアリスの喜びの声が訓練場に響く。


 ユージ、アリス。

 冒険者として登録したのは、ユージがこの世界に来て初めて街を訪れた四年目の春。

 それからわずか一年ちょっとで、5級冒険者となるのだった。



…実は驚異的なスピードでの昇格。

最初から主人公はあとちょっと鍛えれば6級相当って言われてましたしね!(第七章第九話)


冒険者ギルドは世界規模ではなく国内の組合です。

他国でも冒険者ギルドが存在する国もあります(ない国もあります)。

冒険者ギルド同士の横の繫がりはそれなりです。

ということで、この国の冒険者ギルドの「本部」は王都にありました。

どこかに書いたような、書いていないような……


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― 新着の感想 ―
[良い点] つおいじいさまはみんなだいすき [一言] じーさんつええなぁw
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