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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 9

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閑話12-13 とある二人の冒険者、開拓地側から道造りに励む

「こんにちはー!」

「ちわーっす!」


 開拓地の入り口から、大きな挨拶が聞こえてくる。

 ユージ不在のホウジョウ村開拓地。

 対応に向かったのは副村長を任されたブレーズだった。


「おう、おまえらか。どうした?」


「どこに道を造るか決めるために先行してたんです。開拓地に到着したもんで、挨拶をと思いまして」


 対応に出たブレーズにびしっと頭を下げる男たち。


 かつて冒険者ギルドでユージに絡み、あっさり撃退された両手斧使いの大男と、コンビを組んでいた猿人族の男。

 そして、ゴブリンとオークの集落の討伐に駆り出され、以降は道造りに従事している五人の犯罪奴隷。

 あわせて七人の男たちであった。


「おお、もうここまで来たのか。本隊はどんな感じだ?」


「先行してたんで今はわかりませんが……あのペースなら、半分ってところだと思います」


 男たちを代表するように答える両手斧使いの大男。通称・木こりである。いや、もはや自称しているようだが。


「おっ、順調じゃねえか。それでおまえらはどうすんだ? すぐ戻るのか?」


「お許しいただければ、この近くで一泊してから戻ろうと思ってるんですが……」


 木こりはずいぶん礼儀正しくなっているようだ。

 ユージに絡んだ罰として、道が完成するまで役務を申し付けられたこと。思った以上に木こり仕事が性に合っていたこと。そして、仕事の結果が認められたことがチンピラ冒険者と化していた男を変えたのだろう。

 木こりと猿は、すっかり真人間になっていた。


「まあ今のおまえらなら問題ないだろ。ただ女子供もいるし、村の外でいいか?」


「ええ、充分です! ありがとうございます!」

「あざーっす!」


 木こりの礼に続き、ほかの男たちも頭を下げる。犯罪奴隷の教育は行き届いているようだ。謎なノリだが。

 ちなみにブレーズは一人で応対している。

 元3級冒険者のブレーズは、この七人が一斉に襲いかかってきたとしても楽勝なのだ。強者の余裕であった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「お疲れさん。ほれ、差し入れだ」


「ありがとうございますブレーズさん!」

「あざーっす!」


 七人の男たちが開拓地に到着した日の夕方。

 柵の外でたき火を囲んで粗末な夕食を貪る男たちの下へ、副村長のブレーズが差し入れを手にやってくる。どうやら差し入れは干し肉のようだ。こういう時の定番、酒じゃないのは彼らの出自を考えてのことだろう。


「しっかし、先行したおまえらが到着して、道も半分まできたのか。人数増えたらあっという間だな。おまえら二人は道造りが終わったら自由だろ? どうするつもりなんだ?」


「実は……悩んでるんですよね」


「ん?」


「一冬越えたらコイツらに情が湧いちゃいまして。でも犯罪奴隷でしょう? この役務がなくなったら、コイツらはまた別の場所に行くことになるでしょうから……」


「しっかりリーダーしてるじゃねえか。同じ場所で働く方法、か。犯罪でもしてみるか?」


「ちょっとブレーズさん、冗談キツイっす! 俺たちもうそんなことしませんって!」


 ブンブンと首を振って否定する木こりと猿の二人。

 まあ言ったブレーズも笑いながらだったが。


「たしかコイツらは領主様の命令で道造りの役務に遣わされたんだろ? それだけ開拓村に期待してるってことだから……宿場町というか、休憩所の整備でも申し出てみたらどうだ?」


「休憩所……ですか?」


「おう。ここからプルミエの街まで森を歩いて三日。道が完成してもたぶん一日じゃムリだろ。馬を使えば一日で行けるかもしれねえが……。まあ宿場とは言わなくても、休憩所があるだけでずいぶんラクになるはずだ。ついでに開拓村にするって言えば、しばらくは打ち込めるだろうしな」


「なるほど!」


 ブレーズの提案を聞いて目を輝かせる七人。

 雪が降り積もる森で厳しい冬を越え、ワイバーンから身を呈して守り、同じ労働をして汗水を流す。七人の結束はすっかり固くなっているようだ。


「でも、俺たちが提案して認めてくれますかね?」


「うーん……とりあえず、ユージさんたちが帰ってきたら俺からも伝えとくわ。ユージさん、ケビンさん、それにギルマスのおやっさんに認められればなんとかなるんじゃねえかな」


「おお! ありがとうございます!」

「あざーっす!」


 あいかわらず謎のノリを見せる七人。彼らなりの礼儀のようだが。

 お、おう、とブレーズはちょっと引き気味であった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「おーい、ちょっと待て!」


「ああ、よかった、間に合ったっす!」


 翌朝。

 道造りの本隊に合流するため、開拓地の外周部から出発しようとしていた七人の男たち。

 彼らの前に、副村長のブレーズと木工職人のトマス、それから元3級冒険者パーティの盾役・ドミニクが現れる。


「どうかしたんですか?」


「ああ、本隊に戻るんだろ? ギルドの職員に手紙を渡したくてな。コイツも連れてってくれ」


「え? ええ、それはかまいませんけど……」


 そう言ってドミニクの肩を叩くブレーズ。

 ユージがケビンにもらった現地語の教本を提供したことで、開拓地の識字率は上がっていた。まあ元3級冒険者パーティ『深緑の風』のリーダーだったブレーズは、もともと簡単な読み書きはできたのだが。


「道が半分まで来たんだったら、こっちから切り拓いて、木材も開拓地に運ばせたほうが早いだろうってトマスさんがな。そのへんを相談したいから、とりあえずギルド職員を呼んできてほしいのよ。ドミニクはその護衛役だ」


 ブレーズの言葉を頷いて肯定するドミニク。あいかわらず無口な男だ。どうやって嫁を口説いたのか謎である。


「そうっす! ユージさんが提供してくれたたいや(・・・)を使った荷車もありますし!」


 トマスが指差した先、柵の隙間から見える開拓地の中には二台の荷車があった。車輪は一台に二つ。

 取り付けられているのは、動かなくなったユージ宅の軽自動車から取り外したタイヤだった。


「たいや……ですか?」


「王都で似たようなのを見たことあります。高い馬車についてるヤツですよね? モンスターの革と肉を加工して作って、衝撃を伝わりにくくするっていう」


 首を傾げる木こり。その横にいた猿は、タイヤと似た物を見たことがあるようだ。猿が言っているのは、ケビンが手配した馬車についているのと同じものであろう。そういえば猿人族のこの男は王都出身のシティボーイであった。


「たぶんな。ユージさんはよくわからねえからなんとも言えないが……。荷車が二台しかないから、何人かでいいんだ。それでも往復する距離が短い分、速く進むだろ」


「それに木材はいくらあっても足りないっすから! ドミニクさん、頼んだっす!」


 そう言ってドミニクと七人の男たちを見送るブレーズとトマス。

 これによりプルミエの街から開拓地までの道造りはさらに加速し、開拓地の木材も潤うことになるのだった。まあ乾燥させる必要があるため、すぐには使えないのだが。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 開拓地・ホウジョウ村に、カーンカーンという音が響く。

 農作業が一段落したため、ブレーズとドミニク、元5級冒険者のうち三人、そしてマルクが道造りのための伐採に参加しているのだ。


 副村長のブレーズとトマス、ギルド職員が協議した結果、道造りの役務についていた七人が開拓村側に派遣された。

 依頼を受けている冒険者たちと違って、彼らの労働は罰なのだ。金銭をどうするか決めるのがラクという理由で、七人のみが開拓地側から伐採をすることになったのだった。荷車が二台しかなく、人を増やしても運ぶのに時間がかかるという理由もある。


「えいっ! すごい、昔よりずっと奥まで入る!」


 自身の成長を喜ぶ声はマルクのものだ。

 下ネタではない。

 開拓地に襲来したゴブリンを撃退して位階が上がったこと、この一年で体が成長したこと、訓練で鍛えられたこと。

 マルクが振るう斧は、伐採の手伝いをしていた初期の頃よりも深く木に食い込んでいた。


「おお、マルクくんは(すじ)がいいな! でもおじさんのほうがスゴイぞ! フンッ!」


 マルクの近くにやってきた木こりが見せつけるように斧を振るう。

 その言葉通り、斧は太い木の半ばまで食い込んでいた。

 日々の鍛錬、いや、木こり仕事の成果である。


「お、やるじゃねーか。でもまだまだだな。見てろよ……フッ!」


 木こりに対抗心を燃やしたのか、ブレーズが両手剣を振るう。

 斧ですらない両手剣。

 振るう直前にうっすらと青い光をまとったその斬撃は、一刀で木を断ち切った。


「うわあ、すごい! あんなに太いのを一気に……」


 キラキラした目でブレーズを見つめるマルク。

 下ネタではない。

 マルクにそんな気はないのだ。


 犯罪奴隷を含む七人が開拓地付近で獣道に沿って伐採するため、チームを組んで行う探索は中止となっていた。

 すでに更正しているようだが、開拓地には女性もいる。いくら腕が立つ者が多いといっても、目が届かないことはあるのだ。

 荷車で運ぶ距離が長くなれば、伐採と運搬は七人の男たちに任せる予定。そして、その時には探索を再開する予定だった。


 そのせいで、伐採役を割り振られた元5級冒険者たちの目の色が変わっていた。

 楽しい集団デートの時間を邪魔されたのだ。

 一刻も早く伐採を終わらせる。

 建築にまわった仲間からの祈りを背に受け、一心不乱に作業を続けていた。前向きな独身男たちである。



 午前からはじめ、昼休憩を挟んで陽が傾きはじめた頃に作業を終える。

 重労働だが、この世界の労働者はこれが当たり前。犯罪奴隷はもっと過酷な環境で過ごすことも多いほどだ。

 この日もようやく作業の終わりを告げるブレーズの声がかかる。


「おっし! 今日はこのへんで終わるか!」


「了解です。お疲れさまでした!」

「お疲れっした!」


 ブレーズの声に答える木こり。相棒の猿を筆頭に、五人の犯罪奴隷が続く。謎のノリである。


「な、なあ、気になってたんだが、それ、なんなんだ?」


「え?」


 挨拶を唱和する男たちが気になったのか、率いていた猿に声をかけるブレーズ。

 マルクも興味深く見守って、その答えを待っている。


「なんだ、その、揃って同じ言葉を言う挨拶みたいなヤツ」


「ああ、これですか。俺が王都の冒険者ギルド学校にいた時に習ったヤツなんですよ。集団行動には必要だって」


「そうか、そういやおまえは王都出身だったか。って冒険者ギルド学校……エリートじゃねえか!」


「いやいやいや! 王都では子供は誰でも共通の学校に通って、その後は学院に行くか各ギルドがやってる学校で修業するかですからね! 冒険者ギルドの学校は、ほら、頭もいりませんし……俺、落ちこぼれでしたし……」


「はあ、王都はそんなことになってんのか。ん? じゃあおまえ、読み書きできんのか?」


「ええ、いちおう読み書き計算はできます。あんまり使いませんでしたけど……」


「が、学校……」


 苦笑いする猿人族の男。

 一方で、犬人族のマルクは目をキラキラと輝かせていた。


「ま、まあこれから使うことがあるかもしれないしな! おし、片付けも終わったな? 今日は帰るぞ!」


 苦労しながら読み書きを覚えたブレーズにとって、猿人族の男が読み書き計算ができることが意外だったのだろう。なにしろ見た目は猿なのだ。いや、この世界の猿はできるのかもしれないが。

 ごまかすように号令をかけるブレーズ。好奇心が刺激されたマルクのことは無視である。


 ユージ不在の開拓地。

 木こりと猿、五人の犯罪奴隷。七人の男たちの別働隊、そして冒険者たちが中心の本隊。

 開拓地とプルミエの街を結ぶ「荷車が通れる道」造りは、順調に進んでいくのだった。


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[良い点] 下ネタに見えて草 [一言] マルクくんはまだ見ちゃいけません!
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