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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十一章 開拓団長兼村長兼防衛団長ユージはエルフ護送隊長も兼務する』

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第十一章 エピローグ

「ユージさんたちは今ごろ街かねえ」


 ユージたちが出立した開拓地。

 村長不在の開拓地を任された副村長のブレーズがぼそっと呟く。


 元3級冒険者にして『深緑の風』のパーティリーダー、現ホウジョウ村の副村長のブレーズ。

 目の前では、5人の元冒険者たちの醜い争いが繰り広げられていた。

 ここにいないユージたちに思いを馳せたのは、ただの現実逃避だったようだ。


「おい、おまえらそのへんにしとけ。順番に入れ替わる形にしてやるから」


「ホントっすね!?」


 口々にブレーズに詰め寄る男たち。独身の彼らにとって、若い独身女性と周辺を探索するという仕事はずいぶん魅力的だったようだ。


「あとそんなに焦るな。おたがいずっと開拓地にいるんだぞ? 嫌われてもずっと顔を合わせるんだぞ? 自由な冒険者稼業と違ってもう開拓民なんだからな」


 苦笑いして忠告するブレーズ。さすが、勝ち組は余裕の発言である。

 5人の元冒険者たちは、ハッとしてまわりを見渡す。

 そこにはブレーズと同じように苦笑を浮かべる開拓民たちの姿があった。もちろん針子のヴァレリーと、彼が率いる針子見習いの女性陣の姿も。三人の独身女性は、自分たちと行動する仕事を目の前で取り合う男たちを見て、まんざらでもなさそうな表情だ。


 ユージの奴隷にして犬人族のマルセル指揮のもと、畑作りをはじめとした農作業に取りかかる開拓民。

 手が空いた時は、木工職人のトマスや親方のもとで家屋や作業所の建築を手伝う。

 針子チームはヴァレリーの指示を受け、簡単な縫製作業や新しい技術を教わる。

 出張で来たまま居残っていた鍛冶師たちは、ユージから提供された門をこねくりまわし、興味深く調べていた。


 そして、合間に行われる開拓地周辺の探索。

 護衛つきの探索は、独身の男女にとって集団デートの様相を見せていた。

 一番人気は、時おり参加する犬人族のマルクだったようだが。きっと愛玩動物的なかわいらしさのせいだろう。


 開拓地の春は、恋の季節でもあるようだった。

 そこにユージはいないが。


 ともあれ、14人の開拓民と出張で来ている職人組は、ユージ不在のホウジョウ村で順調に開拓を進めているようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「おおおお、これが幌馬車ですか!」


「ユージ兄、ユージ兄、お馬さんだよ!」


『これに乗って王都まで行くのね! すごいわ、冒険だわ!』


 プルミエの街、ケビン商会の前。

 街に到着したユージたちが一晩をケビン商会で過ごし、翌早朝のこと。

 商会の前に停められたのは一台の馬車だった。

 ここまで御者をしてきたケビン商会の店員がひらりと馬車から降り、出立の準備をはじめる。


「ええ、そうですよユージさん。王都ではゲガス商会に行きますからね。旅の荷物のほかに、ドレスと、保存食や服の見本も持ち込むつもりなんです。ですので、幌馬車を手配しました」


 ユージとアリス、リーゼの興奮っぷりを見て笑顔を浮かべるケビン。

 ケビンが手配したのは二頭立ての幌馬車であった。


 おお、と歓声をあげながらウロウロと馬車を見てまわるユージ、アリス、リーゼ。ユージは思い出したようにカメラを構えて撮影している。

 うーん、なんか馬がゴツいような? と呟くユージ。だが、自信はなさそうだ。競馬もやらなかったユージにとって、馬は身近な生き物ではないのだ。自信がなくて当たり前である。試される大地の民とは違うのだ。

 コタローは二頭の馬の前にまわり、目線を合わせてワンッと吠えていた。いいつらがまえじゃない、よろしくね、と挨拶しているかのようだ。


 馬車の後ろにまわり、荷を見るユージ。


「あれ? ケビンさん、水や馬のエサが少なくないですか?」


「ユージさん、めざといですね! 王都までの道は基本的に宿場町に泊まれますからね。水や飼葉はそこで補充するんですよ。ちょっと割高ですが、そこで買わないとなるとかなりの荷物になりますからね。しょうがないところなんです」


「はあ、なるほどー」


 納得したようにうなずくユージ。ちなみに、水や飼葉が大量に必要なはずだ、という知識はもちろん掲示板住人たちから聞いたものだ。まあ彼らもネットで得た知識で、もちろん実体験ではないのだが。


「お水? お水なら、アリスもリーゼちゃんも出せるよ! ユージ兄、アリスお水出す?」


 そう言ってユージとケビンを見るアリス。そういえば二人の少女は水を創り出すことができるのだ。魔法で。


「そうでしたね! ですがアリスちゃん、それはどうしても困ったらにしましょう。いざという時に魔力切れで魔法が使えないと大変ですから」


「そっかあ……困ったらアリスに言ってね! アリス、えいってお水出すから!」


 もちろん魔法で、である。


 そんな会話を続けているうち、さらに三頭の馬がやってきた。

 騎乗しているのはケビンの専属護衛の二人・アイアスとイアニス、それからギルドマスターのサロモンであった。


「サロモンさん! お二人も! 馬に乗れるなんてスゴイですね!」


「うわあ、うわあ、かっこいい!」


 目を輝かせて三人を見るユージとアリス、リーゼ。

 褒められた男たちは照れくさそうにほほえんでいた。強面のおっさんたちの微笑である。


 そんな会話をする一行をよそに、ケビン商会の店員は幌馬車の両サイドに2m四方の旗を取り付けていた。


「あれ? ケビンさん、なんですかそれ?」


「これはですね……まあ商会の目印みたいなものですね」


 旗に描かれていたのは天秤のようだ。右の受け皿には商品を表しているのか、財貨や布、木箱が。左の受け皿には割れたドクロと骨らしきものが乗っていた。


「な、なんかずいぶん不吉な絵ですけど……海賊っぽい感じの……」


「ですよねえ。だからこの手はあんまり使いたくなかったんですが……」


 そう言うケビンはすでにえび茶色のマントをまとっている。

 専属護衛の二人も同様に、えび茶色のマントを揃って身につけていた。


「私たちが修業したゲガス商会の旗なんです。もともとは、命をかけて商売を、っていう意味なんですよ」


 苦笑しながらユージに告げるケビン。


「え? もともとってことは、いまは違う意味なんですか?」


「ええ、まあ……」


「ケビン殿、伝えておいたほうがいいだろう。ユージ殿と一緒にこれで王都に向かうわけだからな。ユージ殿。この街ではそこまで知られてないが……この旗とマントは、商人や盗賊どもの間ではそれなりに有名なのよ」


「はあ……」


 言い淀むケビン、フォローするかのように話しはじめるギルドマスターのサロモン。


「旗のもとの意味は俺も初めて知ったが……。この旗はな、こんな意味だって思われてるのよ」


「サロモンさん、もったいぶらずに教えてくださいよ」


「ゲガス商会、財と骨の天秤の旗。意味は、襲うなら命を捨てろってな」


「……え?」


 サロモンから意味を聞いて、ちょっと引き気味でケビンを見るユージ。

 ケビンは深いため息を吐いている。


「サロモンさんの言う通りです。でもそれはまだ良いほうでしてね……口さがない人はこう言ってますよ。この旗は盗賊に向けたもので、意味は、おまえの首が金になる、だって」


「……はい?」


 完全に引いた目でケビンを見るユージ。

 アリスとコタローは、なぜかキラキラした目でケビンと専属護衛の二人を見つめている。尊敬の眼差しである。


「ユージ殿。『血塗れゲガス』が率いるゲガス商会。血染めのマントと、盗賊狩りの旗は王都では有名なのさ。盗賊避けになるぐらいな」


「勘違いしないでくださいね? 積極的に狩ってたのは会頭のゲガスぐらいですからね? 私はもう独立しましたし、そう思われるのがイヤなのでこの手は使いたくなかったんですが……見た目と旗でリーゼさんが少しでも安全になるなら、利用してやろうと」


「あ、ありがとうございますケビンさん。……え? 血染めのマント?」


 ユージの疑問に、ケビンは黙して答えない。

 答えを求めるようにユージがケビンの専属護衛の二人を見る。

 ニヤリと笑みを返すケビンの専属護衛、アイアスとイアニス。

 ユージ、どん引きである。

 だが、ユージは気づいていない。少なくとも、ゴブリンとオークの血は青かったのだ(・・・・・・)。血染めと言われたマントはえび茶色(・・・・)なのだ。


「さあ! ユージさん、みなさん! 旅の間に話す時間もありますからね! 出発しましょう!」


 ごまかすように、ケビンは声を張り上げて宣言するのだった。



 馬に乗るのは、エルフの護衛として同行するギルドマスターのサロモン、ケビンの専属護衛の二人。

 御者席に座って馬車を動かすのはケビン。

 元3級冒険者のエンゾは、なぜか御者席のケビンの横に立っている。揺れる馬車の狭いスペースでふらつきもせず立つバランス感覚は、さすがに元3級冒険者の斥候役だ。


 ユージ、アリス、リーゼ、ユルシェルは幌馬車の荷台の中。木箱の上に持参したクッションを敷いて座っている。ドーナツ型のクッションは掲示板住人のアドバイスを受け、針子のユルシェルに発注したものだ。やはり馬車は揺れるようで、持ってきてよかったとユージは胸を撫で下ろしていた。


 コタローもひとまず荷台にいるようだ。機嫌よさげに尻尾を振っている。どうやらプルミエの街の外に出たら、ぞんぶんに走りまわるつもりのようだった。束縛されたくない自由な女なのだ。ウザい。いや、犬なので仕方ないのだ。


 ユージがこの世界に来てから5年目の春。

 エルフ護送隊長として、ユージは9人と一匹で王都に向かうのだった。

 ユージ、初の異世界の旅のはじまりである。


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