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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十一章 開拓団長兼村長兼防衛団長ユージはエルフ護送隊長も兼務する』

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第一話 ユージ、ケビンからワイバーンの情報を聞く

 ユージ、アリス、リーゼ。

 開拓地と森をわける柵の前でのんびりと話をする三人。

 少し離れた場所で周囲を警戒していたコタローが顔を上げ、耳をピクピクと動かす。

 街に繋がる獣道に目を向け、ワンワンワンッと吠えるコタロー。ゆーじ、だれかきたわ、と言いたいようだ。

 質問に対して一回吠えたら肯定、二回なら否定。ユージはコタローに教え込んだが、結果、何もない時にコタローが鳴く回数は増えた。うるさい。だが仕方ないのだ。肯定・否定を勘違いされないように、コタローは何度も鳴くしかないのだ。


「どうしたコタロー。ん? 誰か来るのか? ケビンさんかな?」


 獣道に向けて吠えるコタローの姿を見て、ユージも獣道に目をやる。

 しばらく待つと、やがて10人を超える人影が見えてくる。


「んんー、先頭はケビンさんっぽいな。なんかたくさんいるけど、どうしたんだろ……。おーい、ケビンさん!」


 ユージが大きく手を振ると、先頭を進んでいたケビンも気づいたようだ。足早に森を進んでいた一行が、さらにスピードを上げる。


「あれ? なんか慌ててない?」


 その様子に首を傾げるユージ。

 ユージの横ではアリスも小首を傾げている。

 ユージがこの世界に来てから5年目の春。

 予定通りのケビンの来訪は、予想外の情報をもたらすのだった。



「よかった、みなさん無事に連れてこられました! ユージさん、その様子だと開拓民のみなさんも無事ですね?」


「え? みんな元気ですけど……ケビンさん、何かあったんですか?」


「いやあ……今回、どうしても早く行きたいということで、木工職人たちと親方を連れてきたんですが……途中で、ワイバーンを見かけましてね。しかもエサを探しているようだったんです」


「ああ、春ですからねえ。毎年いま頃にワイバーンが飛んできて、ゴブリンを掴んで飛び去っていきますもんね」


「そうですよね、ユージさん言ってましたもんね……。ところでユージさん、秋の戦いを覚えてますか?」


「やだなあケビンさん、忘れるわけないじゃないですか。あれでリーゼを保護したわけですし、まだ冒険者ギルドで報酬ももらってませんしね!」


「ユージさん……相手したモンスター、覚えてますか? あれ以来、そのモンスターに遭遇しましたか?」


「ゴブリンとオークの集落でしたね。みなさんと一緒に殲滅して、冬もこの春も、ゴブリンもオークも見かけなく……あ」


「そうです。私たちが冬の前、最後に開拓地から帰る道のりでも、ゴブリンとオークに遭遇しませんでした。その状態で、ワイバーンがエサを探しに飛んできたんです」


 ようやく理解したのか、目を見開くユージ。

 ユージの足下で、コタローも目を丸くしている。まるで驚いているかのような表情だ。賢い女である。犬だが。

 一方で、アリスはいまだによくわかっていないようだ。キョトンとしている。

 手を繋いだリーゼも事情がわからない。簡単な現地の言葉は覚えたが、それでもユージとケビンの会話を理解するにはちょっと難しかったようだ。


「ケビンさん、ひょっとしてこれってマズいですか?」


「ええ。ワイバーンに見つかったら、ここが狙われる可能性もあります。とはいえ移動中に見つかったら大変ですので、ここまで急いできたんです」


「なるほど、それでですか……」


 そう言って、ユージはチラリと共同住宅のほうへ目を向ける。

 ユージとケビンが話している場所は、ユージ宅の庭先。

 ケビンの護衛はワイバーンが来るかもしれないいま、武器を手放したくないとユージ宅の敷地内には入らず、門の前で警戒している。


 開拓民たちは、ケビンから事情を聞いた元冒険者パーティのリーダー・ブレーズが、ひとまず共同住宅の室内へ誘導した。ユージと違い、ケビンから告げられた「ワイバーンがエサを探している」の一言で状況を理解したのだ。優秀な男である。いや、この程度の優秀さがないと3級冒険者にはなれないのだが。


 開拓民たちは共同住宅の中に避難した。ケビンが連れてきた木工職人の親方たちも一緒だ。

 だが、外にはまだ男たちの姿があった。

 木製の柵で作られた第一防壁を利用するように、仮設テントを設置している。ケビンが獣道で会い、緊急事態だからと連れてきた7人の男たち。冒険者ギルドでユージに絡み、道造りの役務を命じられた二人の冒険者と五人の犯罪奴隷。木こりと猿の仲間たちである。

 緊急事態とはいえ、犯罪奴隷を同じ場所で寝泊まりさせるわけにはいかない。目が届くが、手は出されても余裕を持って対処できる距離を。ケビンの指示により、秋まで使っていたひと張りのテントが提供されたのだ。

 冷たいようだが、この世界での犯罪奴隷に対する扱いとしては優しいほうであった。


 話し込むユージとケビンの下へ、元冒険者パーティの四人が近づいてくる。どうやらひとまずの指示を終えたようだ。四人とも完全武装。『武器を持った者は入れない』ため、ケビンの専属護衛同様に、ユージ宅の門の前、謎バリアの外で足を止める。


「ユージさん、ひとまず全員、屋内に入った。ケビンさんが連れてきた木工職人たちもな。これからどうするか決めようぜ」


 ユージに声をかけたのは、パーティリーダーのブレーズだ。

 どうやらユージは、この開拓地の防衛団長として、二度目の防衛戦の指揮をとることになるようだった。



「ブレーズさん、ワイバーンってどれぐらい強いんですか? いまの戦力で勝てますか?」


「どれぐらい強い、か……まあ高い所を飛ばれなきゃ殺れるんだがなあ……」


「そうですか……。こう、ブレスとか吐いてくるんですか?」


「ブレス? いや、ワイバーンの攻撃は尻尾がメインだな。あとは噛み付きと、後脚での攻撃ぐらいか。尻尾には毒があるんでそれが面倒なんだわ。剣と槍は届かない、弓ぐらいしか役に立たない高さで、延々尻尾で攻撃してくる」


「ブレスなし、毒ありのパターンか……」


 ぼそっと呟くユージ。

 足下にいるコタローが、あらゆーじ、よくしってたじゃない、みなおしたわ、とでも言いたげな目でユージを見つめている。

 だがユージが知っていたわけではない。毎年、春に飛んでくるワイバーンの存在を報告した際、掲示板住人たちが議論していたのだ。ファンタジーにおいてワイバーンは有名だが、ブレスあり毒ありの強者からデカいだけの弱者まで、強さがブレるモンスターでもある。

 どうやらこの世界におけるワイバーンはブレスなし毒ありのようだった。


「そもそも、なんで春だけなんですかね? 二人とも何か知ってますか?」


「どうやらワイバーンの子供は、巣立ちの時期に単独で狩りをするようなんですよ。知性はたいしたことないはずなのですが、習性なんでしょうかねえ」


「え……じゃあ、毎年春に飛んでくるヤツは違うヤツってことですか? いやそれ、子供を倒したら親が仕返しにきたりしませんかね?」


「ユージさん、それはない。たまに何をトチ狂ったか街に飛来するヤツもいてな。一匹で来て、弓矢とバリスタの数の暴力で殺られて、それで終わりだ。群れない種族なのか、情がないのかわからんが……」


「そうですか……。じゃあ、もし見つかっても一匹倒せばそれで終わりだと」


「ええ、おそらくは。ただ来年の春にはまた次の個体が来るかもしれませんが」


 ケビンはユージに新たな春の風物詩の情報を告げる。嬉しくはない。いや、ユージがいた元の世界であれば、観光の目玉になっただろうが。


「とにかくだ。高い所を飛ばれなきゃなんとかなる。弓士もいるし、アリスちゃんの魔法もある。弓矢と魔法で剣が届く高さまで下ろせれば、俺たちのパーティで殺れるんだが……」


「ワイバーンに見つかったら、どうやってそこまで下ろすかが問題ってことですね……」


「ユージさん、私と専属護衛も戦力として考えてくださいね。あとは親方含めて木工職人も連れてきましたから、すぐ共同住宅に逃げ込める場所なら作業してもらえると思いますよ」


「ありがとうございます、ケビンさん。作戦はちょっと考えるので、今日はひとまず、みなさんできるだけ屋外に出ないようにしてください。ブレーズさんもお願いしますね」


「おう、任せとけ。まあワイバーンが来たところで追い払うぐらいは余裕だしな。案外この開拓地に気づかないか、あっさり俺たちパーティが殺っちゃったりしてな!」


 自分の胸を叩いてニヤリと笑う元冒険者パーティのリーダー・ブレーズ。

 その姿を見て、コタローがワンワンッと吠える。あいかわらずふらぐをたてるのがすきね、と言いたいようだ。


 ともあれ。

 ひとまずユージとケビン、ブレーズは解散し、それぞれの場所に向かうのだった。

 ケビンとブレーズは、開拓民と連れてきた木工職人たちが避難している共同住宅へ。

 ユージは、アリスとリーゼが待つ我が家へ。

 いや。

 ユージは、掲示板の住人たちが待つパソコンの前へ。


 いかにしてワイバーンの高度を下げるか、あるいは地に墜とすか。


 ケビンとブレーズから聞き出した情報を手に、さっそく相談に行くのだった。



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