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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 7

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閑話 11-0 第三回キャンプオフ当日part3

頻繁に場面が変わります!

ご注意ください!


 JR宇都宮駅から車でおよそ40分。中心にダムを囲う森林公園は、夕方から人で賑わっていた。

 参加人数63名。バーベキューを行うスペースとキャンプ場の一つを貸し切ってのオフ会である。

 ちなみに、来たはいいものの怯んだ場合の待避所として、隣接する宿泊施設の大広間も確保されていた。小さな衝立てとローテーブルもわざわざレンタルして持ち込むほどのサポートぶりである。

 ニートの心理はニートが一番わかっているのだ。個室にしなかったのは、少しでも繋がりを感じたくて来たんだろうから、という引きニート卒業生の親心であった。


 バーベキュー場に近い木立には2枚の巨大な白い布が張られていた。向かいにセットされているのはプロジェクター。仮設スクリーンである。そこにはすでに、キャンプオフの生中継と、掲示板がリアルタイムで映し出されていた。

 大型モニターをレンタルする費用はあるが、設置と管理が面倒くさい。だったら、という物知りなニートのアイデアである。

 はっきりとは見えないが、それでもいいのだ。

 ここに集まった人々は、ゆるい繋がりを求めているだけなのだから。そもそもスマホもノートパソコンも持ち込んでいる猛者たちなのだ。


 クールなニートが手配した今日限定の無線LANと充電用の屋外コンセントはすでに活況であった。

 BBQ、キャンプというアウトドアの代名詞に集まったのに、なんともインドアなことである。せめて隣の人とは会話しよう。ネット越しじゃなく。

 だが、それもまたいいのかもしれない。

 引きニートの冒険をネタに集まった、引きニートやニートが中心なのだから。



 午後5時。

 特に号令や乾杯することもなく、バーベキューはなし崩しにはじまっていた。仕方あるまい。集まった63名の中で、集団行動が好きなものは稀少な存在なのだ。

 森林公園のキャンプ場、バーベキュー場は、すでにカオスとなっていた。



「どうだ、映ってるか?」


「ああ、問題ない。まだ見づらいが、暗くなればもう少し鮮明に映るだろう」


「よし! 撮る場所は明るくないとキレイに撮れないし、スクリーンは暗くないとハッキリ映らないし…… くっそ、物知りなニートの野郎、俺らの苦労も知らないで気軽に言いやがって!」


「ホントになあ……。おかげでスネーク班に行けなかった……」


『おお! そうか、布でドライブシアターみたいにしたのか! いいアイデアじゃないか!』


 コテハン・カメラおっさん、検証スレの動画担当。

 第三回キャンプオフの会場設営において、もっとも大変だったのは彼らである。機材の準備もさることながら、求められたのは生中継とスクリーンへの投影。物知りなおっさんのムダ知識により、大型モニターではなく布スクリーンに映像を映し出すことになったのだ。

 たしかに物理的には可能。だが、バーベキューのためにも撮影のためにも住人たちがいるところは明るさが必要で、スクリーンは暗さが必要。相反する光量のコントロールを求められた二人は、朝から悪戦苦闘してようやくここまでこぎつけていた。

 そして難易度が高い仕事ゆえ、スネーク班に参加できなかったのだ。用意した長玉は使用されることなく封印された。


 そんな二人に近づいて大げさな身振りとともに英語で叫んでいるのはアメリカ組の一人、ルイスであった。今回もわざわざこの日にあわせて来日したのだ。『北関東のアキバ』と言い張るビルで、いちばん興奮していたのは彼だった。前日入りして観光組に入るほど満喫しているようだ。



 一方で。

 キャンプファイヤーに点火する前から燃え上がっているグループがあった。

 スクリーンに流れる掲示板の書き込みも、もはやこの話題一色である。異世界どこいった。


「ちょっと、それでアレはどういうことよ! 加奈子からもなんか紹介ありがとうって乗り気なメールきてんだけど!」


「そうだぞ洋服組A! どんだけみんなの心を折るんだ!」


「うん、なんか、思ったより自然に話せた。へへへ……」


「へへへ、じゃねーよ! くっそ! くっそ!」


「落ち着けおまえら。まあいいことじゃないか。キャンプオフがきっかけで、カップルができるかもしれないんだぞ?」


「まてまてまて! おまえら慌てんな! まずは洋服組Aから話を聞こうじゃないか、な? ほら、俺らにじっくり聞かせてくれよ。夜は長いんだ」


「残念! 夜は長いけど、おまえは途中帰宅だったなインフラ屋ァ! 地元の勝ち組ざまあ! 勝ち組、ざまあ……」


 コテハン・洋服組A。本日、人生初のデートを成功させた男。

 彼を囲むのは、コテハン・サクラの友達こと恵美、名無しのトニー、名無しのミート、洋服組B、元敏腕営業マン、インフラ屋、そして数人の名無しであった。

 集まった63名のうち、わりとコミュ力高めの集団である。話題の中心である洋服組Aと、洋服組B以外は。

 はじまった尋問は苛烈なものであった。

 会話の再現を求められ、その時の情景を描写させられ、どう思ったかを聞き出され、掲示板にアップされる。

 祝福と怨嗟と羨望と嫉妬と応援が入り交じった尋問は、家庭持ちの地元組であるインフラ屋と恵美が帰るまで続けられたようだ。

 途中の差し入れはカツ丼ではなくステーキだったが。BBQ中なので。



 一方で。

 キャンプオフの会場を、場違いな集団が見てまわる。

 コテハン・クールなニートと郡司、郡司の恩師から紹介された弁護士。

 そしてアメリカ組からジョージ、ルイスの友人にして映画プロデューサー&脚本家の初老の夫婦である。ユージの妹のサクラは来ていない。なにしろサクラは妊娠中なのだ。PCからの参加であった。

 アメリカ組の通訳は、どうやら郡司とコンビを組んだ弁護士が手配したようだ。ある意味では彼の専門分野なのだ。


「ここまで集まるのは初めてですが……彼らが、ネットを通じてユージを支えた人々です」


『そうなの、この人たちが! 異世界に一人、いえ、一人と一匹で飛ばされて、ネットを通じてサポートを受ける。ファンタジーと現代の融合、なかなかステキなお話ね!』


『おいおい、落ち着きなさい。そんなに早口でまくしたてたら通訳の方が困ってしまうだろう?』


 通訳も含めた7名は、キャンプオフの会場をまわっていく。

 どこかビジネス臭ただよう集団に、集まった住人たちはちょっと引き気味であった。

 また、さまざまな場所で初老の夫婦に訳すことを求められた通訳さんも、ちょっと引き気味であった。こんなん伝えたくねーよ、と彼は何度も思ったものだ。哀れ。



 ある集団を前に質問される。


『あら、あの人たちは何を食べてるのかしら? 日本ではよく食べるものなの?』


「あ、アレですか……」


 コテハン・ドングリ博士。

 用意してきたフライパンで持参したドングリを煎り、殻と薄皮をむいて提供している。かたわらの皿に盛られている二つの小山は、イナゴの佃煮とハチの子の炒め物。

 どうやらこの男、いろいろとこじらせているようだ。

 このあたりが食えるようになっておけばそうそう餓死はしないから、などと言い張って怖いもの見たさに集まった名無しに食べさせている。何時代を生きるつもりなのか。

 ちなみに、第二回キャンプオフに参加した面々は彼から距離を取っていた。どうせ今回もやるだろうとわかっていたのだ。新規参加者への洗礼である。ドングリ博士にとっては親切心なのだが。



 なにやら盛り上がっているあるグループに話しかける。


『え? あら、あの子みないと思ったらこんな所にいたのね。なんの話をしてるのかしら?』


『ああーもう、だからそこは違うんだって! ちょっと訳してください!』


 コテハン・趣味はコスプレ、そしてYESロリータNOタッチ、エルフスキー。

 そんな濃いめの面々と議論を交わしていたのは、アメリカ組の一人、パタンナーの女性だった。

 それぞれがデザイン画を持ち寄り、スケッチブック片手に激論を交わしている。

 もともと趣味はコスプレとロリ野郎、パタンナーの女性でアリスの衣装デザインを見せ合っていたのだが、ジャパニーズイングリッシュでは通じなくなりエルフスキーが巻き込まれたのだ。

 ちなみに彼、そこそこ英語が話せる。エルフ好きをこじらせ、現実にエルフはいないからせめて東欧美女か北欧美女を嫁にするんだと意気込み、英語を学んだのだ。マイナー言語を学ぶのは高いし、それにほら、英語ぐらい話せる教養は欲しいじゃない? エルフってなんか頭いいイメージあるし、とはエルフスキーの弁である。紛うことなきバカである。


 だが、この場にはもう一人コテハンがいた。黙々とスケッチブックを抱えて何やら絵を描く女性が。


「できたっ! アリスちゃんの服、こういうのがいいと思います!」


 自信満々に掲げられたデザイン画は、沈黙で迎えられた。

 コテハン・画伯。

 奇才が描く絵は、どうやらアメリカ人にも理解されないようだ。



 幼女の衣装について激論を交わすグループから離れた一行は、ふたたび何やら熱くなっている集団に近づく。


『か、彼らは何を話し合っているの? アレかしら、敵の倒し方とか新しい武器とか、村の発展についてかしら?』


 おそるおそる通訳に尋ねる脚本家の女性。

 どうやら住人たちが変わった人間であることに気づいたようだ。


「あの……ホントに聞きたいですか?」


 コテハン・ニートなユニコーン、巨乳が好きです、そして数人の名無し。

 彼らが語っているのは己の性的嗜好であった。

 いま議論になっているのは処女性についてだ。

 伝承におけるユニコーンは、獰猛で処女の懐に抱かれて大人しくなるといわれる存在。そんな伝説の生き物から名前を取っただけあり、ニートなユニコーンは相当こじらせていた。

 一方でコテハン・巨乳が好きですは、巨乳人妻ネトリが理想であると公言していた。18禁ゲームのやりすぎだ。

 名無しを巻き込み、侃々諤々の議論を繰り広げるグループ。

 通訳が職務放棄して訳すことをイヤがるのも無理はあるまい。

 ちなみに、激論を交わす面々は全員童貞である。こじらせすぎだ。



 けっきょくさわりだけ通訳してもらったアメリカ組は、クールなニートや郡司と顔を見合わせ、無言で次の集団へ向かう。

 触らぬ神に祟りなしである。



『あら? あそこは静かね?』


 老婦人の視線の先には、炭火を囲んでひっそりと作業に没頭する男たちの姿があった。


 コテハン・物知りなニート、そしてコミュ力低めの名無したち。

 第一回キャンプオフで洋服組A・Bとバウムクーヘンを焼いた物知りなニートの謎セラピーは、今回も開催されているようだ。

 炭火にフライパンを当て、垂らした液を薄く伸ばす。じっくり弱火で火を通し、ひっくり返す。両面が焼けたら冷ますためにひとまず皿へ。

 待機していた男が、氷水で冷やしていたボウルからへらでクリームをすくい、塗っていく。冷めた皮を重ねる。流れるように同じ作業を繰り返す面々。しだいに層が重なっていく。

 ミルクレープである。

 炭火を見つめ、熱に気を使い、一心不乱にミルクレープを作る男たち。工場か。

 だが、自分と似たような境遇の仲間、一定の作業、静かな時間は、たしかに男たちの心を癒しているようだった。



 できれば彼らには話しかけないでください、そんなクールなニートの要請に従い、キャンプオフの会場を歩く初老のアメリカ人夫婦とジョージたち。


『あら? あらあら! あれはコタローちゃんかしら! いえ、そんなわけないわね!』


 次のグループに向かう脚本家の女性が目にしたのは、一匹の犬だった。


 コテハン・圧倒的犬派、ケモナーLv.MAXと数名の名無したち。

 圧倒的犬派は自身が経営するペットショップの犬たちの世話を友人に託し、一匹だけ連れてキャンプオフに参加しにきたのだ。異世界行きを希望するユージ家跡地組と森林公園組が分かれたため、気兼ねなく参加できるようになったのである。いい機会だから、と彼はコタローによく似た犬を連れてきていた。ケモナーLv.MAXを警戒しながら。

 だが。

 あれ、なんか小さくない? え、これしか跳べないものなの? でもかわいいからなんでもいい! 名無したちがそんな声を上げる。実物の犬を目の当たりにすることで、名無したちはコタローの異常性を実感したようだ。

 ちなみにこの犬、オスである。偶然だ。圧倒的犬派は、別にコタローとお見合いさせる気はないのだ。たまたまなのだ。オスだけに。………………。



 一通りキャンプオフの様子を見てまわったクールなニート、郡司、コンビを組む弁護士、通訳、アメリカ組の老夫婦はスクリーン前に戻ってきていた。


 参加予定者は全員揃っている。

 何人か宿泊施設の大広間に退避した名無しもいるが、それも想定内。だからこその仮設スクリーンであり、生中継なのだ。ちなみに生中継の様子はネット上にもアップされていた。

 第三回キャンプオフで、唯一のプログラムを行うために。


 いや、名無しのトニーとミートが張り切っていたキャンプファイヤーもこの後に予定されている。


 第三回キャンプオフで二つしかないプログラムのうち、メインの一つを行うために。


 クールなニートは、二面の布スクリーンの前で、マイクを手に取るのだった。



みなさまの予想通り、一話じゃ終わりませんでした。

キャンプオフ、明日も続きます!


…コテハンは全員出せたはず!

たぶん。


次話、明日18時投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 各地全てがカオスなとこw [一言] みごとなかおすだ!
[良い点] なんかかつてのMLのOFF会を思い出して微笑ましいんだが・・画伯ェ(CV:小林ゆう)
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