第十章 エピローグ
ちょっと短いですが、エピローグですので…
「おお、おお…………」
「すげえ、すげえよ……」
薄暗いテントの中、感嘆の声をあげる二人の男たち。
注目を浴びる一人の女性は胸を張り、誇らしげな顔つき。
そして、その横にいる二人の男女は満足げに頷いていた。
冬の終わりを告げる、最後の吹雪が森を覆った日。
ついに、ケビンから依頼されていたドレスが完成したのである。
「そ、そうだ、写真! 写真撮らなきゃ! ああ、ユルシェルさん、アリスとリーゼも連れてきていいですか? 二人とも見たがっていたので」
「ええ、いいわよ! でも早くしてあげてね! ドレス姿は寒いはずだから」
ようやく我に返ったユージが、ドレス製作を主導した針子の女・ユルシェルに声をかける。
家から庭に張ったテントまで吹雪の中を歩くことになるため、アリスとリーゼの女の子コンビは連れてこなかったのだ。カメラを持ってくるついでに、ここまで案内することにしたようだ。
ちなみに、コタローは見学を辞退していた。みたい、みたいわ、でもだめ、ひらひらをがまんできないから、と迷いながら。欲求をコントロールできる我慢強い女なのだ。犬だが。
「セリーヌ、ホントにキレイだ……。俺は、俺は……」
「もう、なに泣いてるのよ! それにほら、これはケビンさんの想い人のドレスだからね。私のは春になったらお願いね!」
ユージと一緒に感動していた元冒険者パーティのリーダー・ブレーズが涙する。男泣きである。
そんなブレーズの姿にうるっとしながらも、ちゃっかり自分のドレスをねだる元冒険者パーティの弓士・セリーヌ。
それにしても、強い女性が集まった開拓地である。まあ田舎には肝っ玉母ちゃんがつきものか。
「ふ、ふわあ! セリーヌおねえちゃん、すっごいキレイ!『すごい、すごいね! ね、リーゼちゃん』」
「あなたは、キレイです。うん、アリスちゃん! 『それにしても初めて見る形ね。里のみんなに教えたら人気でちゃいそう。そっか、スカート部分は生地を重ねて形とシルエットをキレイにしてるんだ……』」
手を繋いでテントの中に入ってきたアリスとリーゼ、二人の少女が目を丸くしてセリーヌとドレスを褒めたたえる。
冬の勉強会のかいあって、それぞれ片言だがアリスはエルフの言葉を、リーゼは現地語を覚えたようだ。子供の吸収力はさすがである。
ちなみに二人とも日本語は苦戦していた。話すのはともかく、読み書きが難しいようである。難航しているのは同じポイント。漢字であった。
アリスに同意しながら、エルフの言葉でぶつぶつ呟くリーゼ。
ユージに通訳を頼りながら開拓民たちと会話する時にはほぼないが、ユージの奇行を見るとこうして考え込むのが常であった。いまでは開拓民たちに、エルフは変わってるんだなと思われる始末である。哀れ。
リーゼを開拓地に迎えてから、アリスとリーゼはまるで姉妹のように過ごしていた。
歳が近いから。同じ女の子だから。片言だけど通じるから。同じ部屋で暮らしているから。種族が違い、言葉も違うけれど、どこか通じ合うところがあったのだろう。
冬が終わりに近づくにつれ、アリスとリーゼ、二人の女の子はいつも一緒に行動するようになっていた。別れが近づいていることを察しているかのように。
雪に降りこめられ、街との行き来ができなくなった開拓地。
ユージとアリス、リーゼ、コタローが取りかかっていた用水路造りは順調だった。日帰りで行ける場所まで、すでに魔法による掘削は終わっている。川まではあと三分の一程度。まあ排水路と勾配問題はこれからのようだが。
いったん用水路造りを棚上げしたユージたちは、木の杭とユージ家の門を利用した第三防壁の設置に取りかかっていた。
いまだ内側の木は伐採し切れていないが、まずは場所の確保と防衛力の強化を狙っての行動である。高価な門ではないが、それでも現代日本の金属製。開拓地を大きく囲むため、設置はまだまだ途中だが、完成すればもはやゴブリンやオークではなんともできない頑丈さである。
そして用水路造りを中断したことにより、手持ち無沙汰になったアリスとリーゼが土魔法で掘りまくった空堀。幅4メートル、深さ4メートル。こちらはすでに第三防壁を作る予定の場所の前、開拓地の全周を囲っている。獣道は残しているが、それ以外の場所を渡るにはもはや橋が必要なレベルだった。
ちょっとやりすぎちゃった、というのはリーゼの弁である。どうやらこのエルフの少女も、だいぶユージやアリスに毒されたようだ。いや、ユージの裏にいる掲示板の住人たちの思考に毒されたようだ。
かわいいから許す! まあ水路はあとから魔法でどうにかできんだろ、という住人からの参考にならない書き込みがあったことは言うまでもあるまい。かわいいは正義なのだ。
元冒険者パーティの四人が主に担当していた伐採も順調。ゴブリンとオークの襲来で活躍したこれまでの木製柵の内側は、すべての木が切り倒されていた。
家、鍛冶場、針子の作業場、畑の予定地は確保済み。第二次開拓団と、木工職人トマスの親方たちが来たら家の建築がはじまる予定である。
集合住宅ではなく、家族だけでテントで暮らしていた獣人一家も忙しい冬を過ごしていた。
ユージの奴隷である犬人族のマルセルと、その息子のマルクは、開拓を中心に。
妻である猫人族のニナは、狩りと保存食作りを中心に。どうやらニナは、ユージ指導のもと、薫製をマスターしたようだ。またケビンさんにレシピを売れるニャ、と笑顔で漏らしていた。奴隷のマルセルが自分を買い戻す日はさらに近づいたようだ。
ユージが異世界に来てから四年目、四回目の冬。
およそ三ヶ月ほどの冬は、間もなく終わり。
ユージにとっては、かつてないほど働いた冬だったといえるだろう。
ともあれ。
7世帯15人と一匹、8羽の鶏はぶじに春を迎えることができそうだ。
春。
ユージが異世界に来てから四年が経ち、五年目。
雪がとければ、開拓地は第二次開拓団を迎える。
予定では、針子、農作業者が移住組。ほかに鍛冶場の準備チーム、木工職人の親方たち建築家チームが一時的に来ることも予定されている。
そして。
王都にいるエルフが開拓地、あるいはプルミエの街に来るのか。
それとも、リーゼが王都に会いに行くのか。
いずれにせよ、一冬保護したエルフの少女・リーゼとの別れの時が近づくのだった。
ということで、今章終了です!
二度と積雪ありの冬を書くことはないでしょう!
次話、明日18時投稿予定!
今章が短かったので、閑話はちょっとだけ。
活動報告にて、閑話の予定をアップしております!





