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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十章 村長兼防衛団長ユージは開拓団長の仕事をする』

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第八話 ユージ、エルフの少女リーゼにエルフについて聞いてみる

「ユージ兄、きょうもおべんきょうする?」


「いやアリス、今日はリーゼからエルフの里の話を聞こうと思うんだ」


「わあっ! アリスも聞きたい!」


「わかったわかった、じゃあ通訳しながらにするからね」


「はーい!」


 冬の日、今日の分の開拓を終え、夕飯とお風呂タイムを終えたユージ、アリス、リーゼ。

 ちなみに現在、ユージはアリスと一緒に入浴していない。

 アリスはリーゼとお風呂に入るのがお気に入りなのだ。

 リーゼが来て以来、ユージは一人で孤独な風呂であった。いや、ときどきコタローを連れていたが。ひとりぼっちは寂しいもんな。違う、外を駆けまわって汚れたコタローを洗うためである。


『リーゼ、今日はエルフの里についていろいろ教えてほしいんだ。いいかな?』


『うーん、場所以外は大丈夫よ! いろいろ教えてあげる! リーゼ、なんでも知ってるんだから!』


 胸を張ってユージに答えるリーゼ。ちなみに、リーゼはエルフの里の場所がわからなくて帰れなくなったのだ。場所は教えようがないし、なんでもは知らない。見栄っ張りなレディである。


『エルフって、やっぱりみんな長生きなのかな? リーゼのお父さんとお母さんは何才か知ってる?』


『リーゼはいま12才なの! お父さまとお母さまは、エルフにしてはめずらしく若いうちにリーゼを産んだんだって! 長老たちからわかげのいたりね(・・・・・・・・)って言われてたわ! でもリーゼがかわいいからいいんだって』


 自分の故郷のことを聞かれて嬉しいのか、ニコニコと笑顔で答えるリーゼ。だが微妙に答えがズレている。


『そうだね、リーゼはかわいいからお父さんもお母さんも自慢なんだろうね。リーゼ、お父さんとお母さんは何才なのかな? 長老さんは?』


『えっとねー、お父さまとお母さまは120才ぐらいだったと思う! 長老たちは……500から上は数えてないって言ってた!』


『……マジか。120才で若いのか。それに500才以上って……』


 どうやらこの世界のエルフは長命種であるようだ。それにしてもずいぶんざっくりしている。


「うわあ、エルフさんはながいきなんだね! リーゼちゃんもたくさんながいきするのかな? すごいねえ、ユージ兄」


 ユージの通訳を聞いて目を丸くするアリス。

 コタローもワンワンと吠えている。すごいわ、てろめあとかどうなってるのかしら、と言っているかのようだ。いや気のせいだろう。コタローにそんな知識はないはずだ。犬なのだ。


『だったらいろいろ知ってることも多いはずだな……リーゼ、俺も里に行っていろいろ話を聞けないかな?』


『うーん……聞いてみなきゃわからないけど……。リーゼ、たぶんユージ兄は里に入れてもらえると思うの』


『やった! ……うん? なんで俺は入れてもらえるの? リーゼを助けたから? アリスはどうなのかな?』


『そ、そうね、リーゼを助けたからよ! アリスちゃんも入れるようにリーゼ頼んでみるね! たぶんユージ兄はそうだと思うんだけど……ま、まあ外で生活してる彼に聞いたらわかるからいまはいいわね』


 目を泳がせながら答えるリーゼ。どうやらユージを里に案内したい理由があるようだ。後半は小さな声で呟いていたため、ユージの耳には届かない。

 リーゼの小声を拾ったコタローがワンッと一つ吠える。よくわからないけど、まあわるいことじゃなさそうだしいいわ、と言っているかのようだ。どうやらリーゼに悪意があって隠しているわけではなさそうだ。


「ええっ! エルフさんの村にはいれるかもしれないの! すごいねユージ兄、ぼうけんだね!」


 ニコニコと嬉しそうなアリス。

 これまで約三年、日本語を勉強してきたアリス。努力のかいあって、小学校低学年程度の日本語は言葉も文字もわかるようになっていた。アリスはいまやユージの家に残っていた児童書を読みこなすほどなのだ。もっとも、漢字はまだ怪しいが。仕方あるまい。アリスがふだん使う現地語は、表音文字を使う言語体系なのだ。表意文字である漢字にはなかなか慣れないようだった。

 日本語を覚えたアリスの最近のお気に入りは、エル○ーのぼうけんシリーズ。ユージもサクラもハマったシリーズだったため、両親が残していたのだ。アリスは冒険したいお年頃なようだった。


『リーゼ、エルフの里はどんな感じなんだろう? やっぱりこう、中心に世界樹みたいな大木があったり、みんな肉を食べないベジタリアンだったりするのかな?』


『せかいじゅ? べじたりあん? リーゼ、よくわからないけど……里にはおっきい木がいっぱいあるけど、せかいじゅ? はないと思う。お肉はみんな好きよ?』


『お、おおう、そうなんだ……』


『そうなの。みんな弓矢の練習して、狩りをするのよ! 狩った獲物は家族みんなで食べるの! それで毛皮は服にしたり敷物にしたり、森の恵みに感謝して大切に使うの』


『ベジタリアンバージョンじゃないのか……。弓矢がメイン武器なら狩猟して当然、なのかな?』


 首を傾げつつも、自分で自分を納得させようとするユージ。そもそもリーゼはユージたちと同じ物を食べているのだ。ベジタリアンかという質問はいまさらだった。

 横ではワンワンッとコタローが鳴いている。そうなの、わたし、えるふとなかよくなれそうだわ、と言いたいようだ。肉食系女子である。


「へええ、そうなんだ! アリスもおにく好きだよ!」


 好きな食べものが同じだったからなのか、嬉しそうに宣言するアリス。肉食系女子である。


『うーん……あ、そうだ。リーゼ、エルフはみんな魔法が使えるのかな? 人間は魔法を使える人が少ないみたいだけど……』


『ええ! リーゼ、魔法の腕は一人前ねってお母さまに褒められるんだから! エルフはみんな魔法が得意よ。ニンゲンは魔法が苦手でほとんど使えないって聞いてたんだけど……』


 言いながら、チラリとアリスに目をやるリーゼ。次に、ユージを見る。

 用水路造りに使われた土魔法。そして訓練と称して時おり使われるアリスの火魔法とユージの光魔法。ニンゲンは魔法が苦手と聞いていたリーゼにとって、その威力や光量は衝撃的だった。


『あ、ああ、そうみたいだね。俺はいいとして……アリスは……なんなんだろうなあ』


 そう言ってどこか疲れた目でアリスを見るユージ。

 きょとんと首を傾げるアリス。

 たしたしとユージの足を前脚で叩くコタロー。きにしちゃだめ、はげるわよゆーじ、と慰めているようだ。


『ええ、アリスちゃんの火魔法はちょっとスゴイわ。でもリーゼができないわけじゃないのよ! エルフは火魔法が得意な人が少ないの!』


『そうなんだねー。あ、そうだリーゼ! 俺に魔法を教えてくれないかな? アリスに聞いてもイマイチよくわからなくて……』


『えっ? いいわよユージ兄。リーゼ、もうレディだから魔法だって教えられるの!』


 ニマニマと隠せぬ笑みを浮かべながら、ユージに魔法を教えることを約束するリーゼ。

 エルフの里では、リーゼは最年少だった。大人たちから教わることは数多くあったが、リーゼにとって、人に何かを教えるのは貴重な機会なのだ。

 そうね、何から教えようかしら、とさっそく張り切るのだった。鼻息が荒い。レディとはなんなのか。


 リーゼから魔法を教えてもらえると聞いて、よしっとガッツポーズするユージ。

 その場で跳ねたりまわったり、全身で喜びを表現するコタロー。

 どうやら一人と一匹は、アリス先生の魔法講座に不満があったようだ。


「ユージ兄、コタロー、どうしたの?」


「え? ああ、いや、なんでもないよアリス! うん、アリスはアリスのままでいいと思うんだ!」


 ハハハ、とごまかすように笑いながらアリスの頭を撫でるユージ。

 授業がわかりにくいので先生を代えます! とは言えないようだった。

 チキンなユージに賛同するかのように、コタローがアリスに体をこすりつける。ご機嫌とり兼アリスの意識をそらす作戦である。

 もー、くすぐったいよコタロー、と言いながらコタローを撫でまわすアリス。一人と一匹の拙い作戦は成功したようだ。


 こうして、ユージはエルフの情報を得つつ、異世界生活四年目の後半にして、ついに魔法の先生を見つけるのだった。

 いや、いたことはいたのだが。

 ぽかぽかしてぐぐーってやってえいっ! だったので。

 どうやらアリス先生の魔法授業は不人気講座なようだ。

 ビジュアル以外は。



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