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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第九章 開拓団長ユージはホウジョウ村村長と防衛団長を兼務する』

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第九章 エピローグ

「いやあ、共同住宅が冬に間に合ってよかったですね! あとはコレだなー」


 森に雪がちらつき、うっすらと雪化粧をはじめた開拓地。

 開拓地の集会所兼共同住宅の前では、ユージが木工職人のトマスやその弟子二人、元冒険者パーティの四人と集まって会話していた。


 アリスとコタロー、エルフの少女リーゼは大人たちの輪から一歩離れてその様子を見守っている。


「そうっすね! みなさん手伝ってくれたおかげっす! でもユージさん、かやぶき(・・・・)いろり(・・・)もうまくいかなかったっす……」


 そう答えるのは、木工職人のトマス。

 どうやらユージから話を聞いて挑戦した茅葺き屋根、囲炉裏はうまくいかなかったようだ。茅の代用となる茎に油分を備えた植物が見つからなかったのか、あるいは勾配が緩かったのか。雪が降ると雨漏りするのだった。そのため今は茅葺きモドキを取り除き、屋根は木板となっている。あわせて囲炉裏の使用は中止し、もともと造っていた暖炉を使っている。


 ユージと話をしながらも、トマスの手は止まらない。

 トマスの手元にあるのは薄く長い木の板。板の先はとがり、ゆるやかに湾曲している。木工職人チームが作ろうとしているのは、荷箱を備えたソリであった。

 本格的に雪が積もればはじまる予定のユキウサギ狩りのための物であり、開拓地で緊急事態がおこった場合、街まで行くためには必須になる道具だ。重荷を背負って雪中行軍など、素人には自殺行為なのだ。


 ユージとトマスから完成予定の形を聞いて、アリスとリーゼはキラキラと目を輝かせていた。乗り物ではないのだが。

 それにしても、二人の女の子は仲良くなったものである。私のほうがしっかりしてるからと、どっちも姉ぶっているが。

 そしてコタローもハイテンションであった。わたし、わたしがそりをひくのよ、と言わんばかりである。


 この場にいないのは、獣人一家と針子の二人。

 獣人一家は、彼らの住まいであるテント・ヤランガの中で手仕事をしているようだ。

 猫人族のニナは狩りで使う弓矢を、犬人族のマルセルとマルクは獲物の処理をするための解体道具と皮をなめす道具を手入れしている。寒い時期になるとはいえ、自前の毛皮を持つ彼らにとって、家族だけのテント暮らしは快適なようであった。


 そして、針子の二人は。

 ユージ宅の庭に設置された小型のヤランガの中で、なにやら作業していた。

 時おり、そのテントからはダダダダッという独特の音が響く。ユージから提供されたミシンを動かしているのだ。


 現状は、穴つきの細い針も丈夫な化学繊維の糸もユージが持ち込んだ物でまかなっている。針も糸もどうやって作るのかしら、使い切ったら難しいかもしれないわね、というのは針子のユルシェルの談だ。それを聞いて、ケビンさんに丈夫な糸を探してもらうか、鍛冶師が開拓地に来たら針と、あとトマスさんと一緒にミシンを作ってもらおうかなあ、古い設計図ぐらいネットにあるだろ、などと気楽に考えるユージ。製作の難易度には気づいていないようだ。


 日本からネット越しに提供されたデザイン画や型紙に刺激を受け、リーゼを見て覚醒したユルシェルは一心不乱にミシンを使って服を作り続けている。もっとも、オーバーオールやジーンズは、デニム生地そのものではないが丈夫な厚手の布を使っている。ユージの母の家庭用ミシンでは縫製は難しかった。

 そのためユルシェルが作っているのは販売が決まったジーンズとオーバーオールではなく、雇い主であるケビンの大切な贈り物でもない。彼女の欲望と情熱が赴くまま、次々と試作品が完成していた。針と糸の問題からいずれ使えなくなるかもしれないとわかっていても、おさえることはできなかったようだ。

 次第に日本サイドのメンバーもわかってきたのか、この世界にある布素材で作れそうなものを考慮しているようだ。もっとも、現代のブラジャーの再現はいまだに難航しているようだが。



『ユージ兄、ソリができたら乗っていいのかしら? リーゼはレディだから、引くんじゃなくて乗るほうがいいの』


 集合住宅の前でソリ作りを見守っていたリーゼがユージに話しかける。だが、その質問の内容が子供っぽいことに気づいているのだろう。頬が赤らみ、目はそっぽを向きながらの質問であった。

 それにしても、エルフの少女までユージのことを兄呼ばわりである。懐かれやすいのはユージの無害さゆえか、精神的な幼さゆえか。


『うーんどうかなあ、強度の問題もあるし、乗せていいのかなあ』


 首を傾げながら答えるユージ。

 ワンワンッとコタローが吠える。なにいってるのりーぜ、れでぃはのるんじゃなくてひくのよ、と言っているようだ。しょせん犬である。



 ユージが異世界に来てから四年目。

 いまや、この地にいるのはユージとコタローの一人と一匹だけではない。


 ユージ、アリス、コタロー、エルフの少女リーゼ、獣人一家、元冒険者パーティ、木工職人チーム、針子の二人。


 気がつけば、ユージは7世帯15人と一匹の開拓団の団長となっている。

 住人ではないが、六羽の鶏から産まれた卵が孵り、現在は8羽。まあ入れ替わりという名の鶏肉祭りもあったようだが。解体幼女の活躍により、カシラ、モミジ、キンカンをはじめとしたモツまで美味しく食べられた鶏は本望であったことだろう。たぶん。


 この秋、ユージはホウジョウ村の村長として、防衛団の団長として開拓地を守り、近くにあったモンスターの集落を討伐して安全も確保した。

 春になれば、第二次開拓団としてさらに人が増える予定もある。


 とはいえ、これからは冬。

 およそ三ヶ月ほど、雪に降りこめられた開拓地は孤立する日々が続く。


 ユージは9才のアリスと12才のリーゼ、そしてコタローとともに、異世界に来てから四度目の冬を越えようとするのであった。


 掲示板住人の嫉妬と怨嗟を一身に浴びて。



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