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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第九章 開拓団長ユージはホウジョウ村村長と防衛団長を兼務する』

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第十ニ話 ユージ、オークとゴブリンの一隊と相対する

残酷な表現があります。

苦手な方はご注意ください。

 駆ける。

 ユージが、コタローが、モンスターの一隊に向けて駆ける。


「ユージさん! 目つぶしの魔法を! コタローさんは少女のまわりのゴブリンを!」


 ユージとコタローに遅れ、追随して駆けるケビンの専属護衛から指示が飛ぶ。冷静さを失ったユージは、策もなくこのまま群れに飛び込みかねない。そう考えての指示であった。積み重ねた戦闘の経験は伊達ではないのだ。


「光よ光、輝きを放て! 禿げて()もい()いか()ら目()を潰せ()!」


 怒りに燃えているのだろうか。

 ユージ、渾身の光魔法が放たれる。

 ちなみに毛根を代償にしたわけではない。それぐらいの気概を持って放っただけだ。ユージは白髪の家系なのだ。


 詠唱に合わせてコタローとケビンの専属護衛が目をつぶる。

 熱くなったユージだが、詠唱を破棄して味方の目を潰さない程度には冷静さが残っているようだ。いや、こんな時でも厨二病が消えなかっただけかもしれないが。


 駆け寄るユージたちを見ていたのだろう。

 二匹のオーク、八匹のゴブリンはまともに光源を見たようで、目を押さえてフゴフゴゲギャグギャと大騒ぎであった。

 だが。

 偶然だったのか、それとも魔法に反応したのか。

 オークリーダーは無事なようだ。


「ユージさん、攻撃をしのぐことだけ考えてください!」


 接敵の数秒前。

 ふたたび、追随するケビンの専属護衛からユージに指示が飛ぶ。


「了解です、アイアスさん!」


 ケビンの専属護衛、アイアスに返事するユージ。魔法を使い、モンスターたちが混乱状態になったことで少し落ち着きを取り戻しただろう。左手に持った盾を体の前に構えてオークリーダーに目を向け、モンスターの一隊へ駆ける。

 ユージより前を駆けるコタローは、先頭のオークリーダーの横をすり抜け、目を閉じたまま地面に倒れる少女の下へ向かった。


 いつもの遭遇戦同様に、開戦の狼煙をあげたのはコタローであった。

 ここまで少女を運んでいたゴブリンに飛びかかり、爪を振るい、牙を剥く。

 地に落ちた少女のまわりにいた三匹のゴブリンは、ユージの魔法で目を潰され、コタローを視認することもなくあっさり無力化された。


 そして。

 ユージは、オークリーダーと相対する。

 フゴーッと叫びをあげ、手に持つ木の棍棒をユージに叩き付けるオークリーダー。

 獲物を手に入れ意気揚々と住処に帰ってきたら、集落が襲われていたのだ。こちらも怒り心頭なようである。

 ケビンの専属護衛の指示を受け、ユージは防御だけを考えてオークリーダーの攻撃をさばく。

 プルミエの街のドワーフの店で新調した盾は頑丈で、オークリーダーの攻撃をものともしない。

 もちろん、ほぼ毎日元3級冒険者たちからしごかれてきたユージの技量もあってのことだが。


 ユージが攻撃を凌ぐこと数撃。

 ケビンの専属護衛、アイアスがモンスターたちの下へ到着する。

 オークリーダーをユージに任せ、いまだ目が見えないオーク二匹へ向かうアイアス。

 一閃、二閃、三閃。

 あっさりと二匹のオークを斬り捨てる。

 目が見えないオークなど、物の数ではないようだ。


 あっさり二匹のオークを殺したアイアス同様、コタローも残り五匹のゴブリンを瞬殺していた。だが、まだグルグルッと喉が鳴っている。ぶかがしたことはりーだーがせきにんをとるべきよね、しになさい、と言いたいようだ。


 オークリーダーを囲む二人と一匹。

 コタローが低い位置から足を狙う。すでに敵はコタローの存在を認識している。不意打ちのバックアタックではないのだ。開拓地の防衛戦の時とは違い、堅実に傷つけることを選んだようだった。

 ユージは正面で攻撃をさばき、時おりいやがらせのように短槍を突き出してチクチク攻撃する。

 一人と一匹にオークリーダーの気がいくと、ケビンの専属護衛が深い一撃を入れる。


 みるみるうちに傷を増やすオークリーダー。

 徐々に、その動きが鈍くなってくる。

 そして。

 フゴーッと叫びながら、腰を落としてユージに肩を向け、足を踏み出す。ショルダータックルの構えだ。

 その動きを見たユージは、短槍を投げ捨てて両手で盾を構え、自らオークリーダーに向けて突進する。

 オークの突進は、速度に乗る前に出端を潰せ。それは開拓地防衛戦後に元冒険者パーティのリーダーから教えられた対処法だった。


 ガゴンッ、と鈍く大きな音が響く。

 突進をはじめたオークリーダーと、自ら飛び込んだユージの盾がぶつかったのだ。

 勢いを殺され、両者が数歩後ろにたたらを踏む。


 体勢を崩したオークリーダーの足に飛び込み、深く切り裂くコタロー。

 さらにアイアスが剣を振り下ろし、オークリーダーの右腕が落ちる。

 そして、体勢を立て直したユージは短槍を拾い上げ、穂先をオークリーダーに向けて突っ込んでいく。


 ズブリ、とユージの槍がオークリーダーの胸に深く突き刺さった。

 ゴフッと血を吐き、仰向けに倒れていく。

 勝負ありであった。


 オークの長に続き、ユージの殊勲である。

 まあユージが攻撃しなくても、コタローがつけた傷でもアイアスがつけた傷でもオークリーダーはそのうち出血多量で死んでいたのだが。


 ふーっふーっと荒い息を吐くユージ。

 その目はいまだ倒れ臥したオークリーダーに向けられていた。


「やるじゃねえかユージさん。今の戦いはよかったぜ」


 と、とつぜんユージのすぐ横から声がかかる。

 驚いて振り向いたユージが見たのは、開拓民の元3級冒険者パーティ、斥候役の男の姿であった。


「……え? あれ? 集落の中央にいませんでした? いつの間に?」


 ユージ は こんらんしている!


 斥候の後ろには、さらにモンスターの集落の調査を担当したパーティ『宵闇の風』の二人の姿もあった。


「元3級と現役3級を舐めるなってこった。手伝おうと思ってたんだが、余裕そうだったからな。ほかにゴブリンやオークがいないか警戒しながら見てたのさ」


 そう言ってわずかに口元を緩める斥候の男。どうやらさっさとユージたちに追いついたが、手際よくゴブリンとオークを倒してオークリーダーを囲んだことから、手を出さずに見守っていたらしい。できる男なのだ。女性関係以外は。


「そ、そうですか……あ、そうだ! 女の子は!」


 斥候のおっさんの格好つけた発言をあっさり流し、ゴブリンに運ばれていた少女に目を向けるユージ。


 見るからに華奢なその体。

 抜けるように白い素肌に、細く長い金髪。

 瞳を閉じていてもわかるほどの美少女であった。


 倒れている少女には、コタローが寄り添っていた。

 少女のまわりをウロウロし、時おり頭で小突いたり手や顔を舐めたりしている。だいじょうぶかしら、と心配しているようだ。

 だがなぜスンスン匂いを嗅いでいるのか。りゅうけつはないわ、だいじょうぶそうね、と言いたいようだ。コタローは変態ではなく、血が出ていないかチェックしていただけなのだ。まあコタローが匂いを嗅いでいてもおかしくはないのだが。犬なので。


 駆け寄ったユージに穏やかな声でワンッと吠えるコタロー。きをうしなっているだけみたいよ、と伝えているようだ。もっとも、ユージに犬語は通じない。


「ふむ……気を失ってるだけみたいだな。ユージさん、ここじゃ危ないし、とりあえずサロモンのおやっさんたちのところへ運んでくれ」


 元冒険者パーティの斥候がユージに告げる。

 あ、はい、わかりました、と地に伏した少女の足と背中に腕を入れるユージ。お姫様抱っこである。


「ああユージさん、あんまり手を滑らせないようにな。まあちょっとぐらいなら手が滑っていろんなとこに当たってもしょうがないが」


 そう言ってユージにウインクする元冒険者パーティの斥候。

 その言動に、ケビンの専属護衛と『宵闇の風』の二人はちょっと引き気味であった。

 呆れ顔でワンワン吠えるコタロー。そんなこといってるからもてないのよ、このえろおやじ、と言いたいようだ。

 ちなみにユージは小首を傾げ、いまいちよくわかっていないようである。



 ウィンクするおっさんと、小首を傾げる33才。


 周囲から微妙に引かれつつも、無事に救出した少女を抱え、一行はギルドマスターや冒険者たちと合流するのであった。



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