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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第九章 開拓団長ユージはホウジョウ村村長と防衛団長を兼務する』

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第四話 ユージ、防衛団長として初めて戦闘の指揮をとる

拙作にしてはちょっと長めです(5000字ちょっと)

また、作中にて残酷な描写があります。

苦手な方はご注意ください。


ざっくりしたものですが、

あとがきに布陣見取図があります。

 早朝。

 部屋で寝ていたユージの耳に、ワンワンワンッと激しく吠えるコタローの鳴き声が届く。

 どうしたんだろ、めずらしいな、と呟き、ユージにひっついて寝ているアリスをはがして起き出すユージ。そのまま階段を降り、庭へ向かっていった。

 この世界に来てからコタローはユージの部屋で寝起きしていたのだが、モンスターの集落の討伐依頼を出した後は、庭にある犬小屋で寝泊まりしているのだ。


「どうしたコタロー? なんかあったか?」


 庭を駆けまわり、激しく吠えるコタローに話しかけるユージ。さすがにユージも異常な状況に気づいているようだ。コタローは無駄に吠えない賢い犬なのだ。


 コタローの鳴き声が聞こえたのだろう。門の前、小さな広場の先にある集合住宅からも人が出てくるのが見える。獣人一家が住むテントも、バサリと入り口がめくられ、猫人族のニナが顔を出す。


 そして。

 カラカラカラ、と木がぶつかり合う音が、開拓地に響く。

 柵の外に仕掛けていた鳴子が、反応したのだ。



「敵の数はおよそ60。獣道にそって侵攻中。周囲に伏兵の影はなし」


 コタローの声と鳴子に反応し、急いで準備を整えたユージやアリス、開拓民たちが南側の柵の前に集う。

 いの一番に報告したのは、この時間帯の警戒を担当していた元3級冒険者パーティの斥候である。いつもより簡素な話し方は、戦闘態勢に入っていることを表していた。鳴子の警報のあと、開拓民がここに集まるまでのわずかな間に敵影を確認し、さらに周囲まで探ってきたようだ。3級の冒険者はプルミエの街でわずか20人ほど。優秀な男なのだ。ただのエロいおっさんではないのだ。恋人はいないが。


「そうか。敵は?」


「大半はゴブリン。10ほどオークの姿が見えた。組織的な動きのため、オークリーダーがいると推測する」


 元3級冒険者パーティのリーダーと斥候が言葉を交わす。そこにあるのは、ヒリヒリした戦場の空気である。


「ユージさん、どうする? 防衛団長、初の戦闘指揮だな」


 敵の数と種類を確認したパーティリーダーが、ユージに話を振る。

 ここまで黙っていたユージ。だが、この開拓地の防衛団長はユージなのだ。防衛施設の設置は指揮をとっていたが、この地を守る戦いは初めてである。


「えっと……。これってどれぐらい危ないんですか?」


 ユージの口から出てきたのはなんとも頼りない言葉であった。だが、内容は敵の脅威度の確認だ。ワンッとコタローが吠える。そう、じゅんばんはせいかいよ、と言いたいようだ。コタローはすでに毛を逆立て、歯を剥き出している。無駄に迫力ある鳴き声であった。


「おう、いい質問だ。答えを言うとな、これは……。余裕だ。撃退するだけなら俺とコイツ、二人で充分。囲まれない場所を選べば俺だけでもイケるかもな。逃がさず殲滅なら俺らパーティ全員で、程度だ。誘い込んで嬢ちゃんがこの前の魔法を使えば、あとは生き残りにトドメさすだけで終わりじゃねーか?」


 楽勝なようであった。



 数は多いが特に脅威ではないことを知り、肩の力が抜けたユージ。落ち着いて考えをめぐらせ、ユージが選んだのはテストも兼ねた総力戦であった。早いうちに柵や罠、櫓が有効かどうか確認したほうがいい、と掲示板住人に言われていたのを思い出したのである。防衛団長っぽい。いや、ぽいではなくて本物なのだが。


「じゃあ計画通り、櫓には射手の三人を。針子のお二人とマルクくんは、クロスボウで柵の隙間から狙ってください。それから、俺とマルセル、あとお二人で正面で待ち受けましょう。最初に目つぶしの魔法を使うので気をつけてください。そうだ、アリスは指示するまで魔法は使わないように」


 ユージの言葉に、えーっと頬をふくらませるアリス。決してモンスターを殺したいわけではなく、役に立ってないように思えておかんむりなのだろう。血気盛んなわけではないのだ。たぶん。

 それにしてもずいぶん具体的で的確な指示である。どうやら開拓団長を引き受けて以来、頼れる掲示板の住人たちと作戦を練っていたようだ。ケビンがいる分、戦力は増えているが、ここまでは基本プランの通りである。


「んじゃ俺は外に出て、逃げたヤツを仕留めるわ」


 そう言い残し、斥候役の男は柵の外へ足を向ける。ワンワンッと吠えてコタローがその後に続く。ねずみいっぴきのがさないわ、と言っているかのようだ。猫か。

 お気をつけて、というユージの言葉に、振り返らずひらひらと手を振る斥候の男。その後ろ姿と仕草はイケていたが、いまだ独身のエロおっさんであった。


 ユージの指示を受け、パーティリーダーの奥さんにして弓士、ケビンに同行してきた冒険者のイレーヌ、猫人族のニナが櫓に登る。弓士チームである。そして、なぜかユージも櫓に登り、なにやらごそごそしていた。カメラをセットしているのだ。楽勝ゆえ見せる強者の余裕であった。いや、いまだ暢気なだけかもしれないが。


「ユージさん、では我々は伏兵がいないか注意しておきますね。それから前に立つみなさんも射手の方々も、疲れたら言ってください。代わりますので」


 ニコニコと笑顔を見せながらケビンが告げる。その横には二人の専属護衛。サポートに徹するようだが、この男、前衛でも射手でも代わると言っている。いや、きっと専属護衛にやらせるのだろう。いかに『戦う行商人』という二つ名があるとはいえ、そんなに万能なわけはないのだ。たぶん。


 そして、全員が配置についてしばらく。

 ようやくモンスターの集団が姿を現す。

 いかにモンスターの歩みがゆっくりだったとはいえ、コタローの索敵能力は異常であった。



 柵の前で待ち構えるのは、ユージのほかに元3級冒険者のパーティリーダーと盾役の大男、犬人族のマルセルの四人である。

 ユージはマルセルに中で待つように言ったのだが、かつて自分の農地がモンスターとの戦場になり、ボロボロにされたマルセルは自ら戦うことを志願していた。

 主人であるユージを守るため、そして、平和な生活を台無しにしたモンスターに復讐するため。もちろん、違う個体だとわかっているようだが、普段大人しいマルセルにしては珍しく敵意剥き出しであった。肉壁のユージをかばう盾役が必要かどうかは別問題である。


 ついに姿を現したのは50匹ものゴブリンの群れ。

 集団となったモンスターの迫力に、ユージはゴクリと唾を飲み込む。楽勝と聞いていても、実際に目にして戦うとなるとまた違うのだ。


 人間の姿を認識したのか、ゴブリンたちが立ち止まる。

 ゲギャグギャとわめくゴブリン。

 その声を割ってゴブリンの後方から聞こえてきたのは、フゴーッという大きな叫び。

 ビクッとゴブリンが身を震わせ、覚悟を決めたようにいっせいに開拓地の入り口へと駆け出す。

 どうやら今の一声が突撃命令だったようだ。


「いきます! タイミングをあわせて目を閉じてくださいね!」


 ユージが声を張り上げる。まるで一団をまとめる長のようだ。いや、長なのだが。開戦の狼煙はユージの役割である。

 ふうっと大きく息を吐き、二歩、走り寄るモンスターに向けて足を進めるユージ。その動きにあわせ、周囲の開拓民も戦闘に備える。

 敵は間近に迫っていた。


「光よ光、輝きを放て! でも俺は禿げてないよ(フラッシュ)!」


 緊迫した戦場に響き渡る、ユージの詠唱。

 ユージの額のあたりから、指向性を持った強烈な光が放たれた。


 詠唱の内容はともかくとして、ユージたち人間を見つめながら突進していたゴブリンの群れに効果はてきめんであった。

 目が見えなくなっても、全速力で走っていた勢いは止められない。

 そのまま自ら先端が尖った逆茂木に突っ込み、貫かれる者。

 足をもつれさせ、転んで後続に踏まれる者。

 アリスの魔法で作られていた穴に気づかず罠にかかる者。

 すでに惨憺たる有様である。

 さらに。


「トマスさん、いまです!」


 ユージが開拓地の内側に向けて叫ぶ。

 それを受けた木工職人のトマスとその助手二人が、仕掛けていた罠を作動させる。

 二本のロープがヒザの高さのあたりにピンと張られる。

 一本はユージたち、モンスターを待ち受ける四人の前に。もう一本は、上から見て道の両横を挟む柵の頂点と頂点の間に。

 接敵するモンスターを転がすため、逃げ出すモンスターを転がすための罠だ。


 ヒザの高さに張られたロープは単純すぎる罠だが、目つぶしを喰らって混乱するゴブリンには有効であった。

 逆茂木や落とし穴に運良く掛からず走り続けていたゴブリンがロープに足をとられ、柵の前で待ち受ける四人の下へ転がってくる。

 ユージたちが仕留める。

 もはや作業である。

 さらに。


「みなさん、矢を!」


 目の前に転がったゴブリンを短槍で刺しながら、ユージがふたたび叫ぶ。

 柵の隙間からクロスボウの矢を放つのは、針子の二人とマルク。

 意外にも発射のペースは速い。どうやらケビンとその専属護衛の二人が、弦を引き戻すのを手伝っているようだ。


 櫓から矢を放つ三人の弓士。

 冒険者のイレーヌと猫人族のニナは手前のゴブリンを中心に、元3級冒険者の弓士は後方のオークを狙っているようだ。近距離、しかも相手は集団である。狙いよりも連射を重視した釣瓶撃ちで、次々にモンスターに矢が突き立っていく。


 ゴブリンの悲鳴しか聞こえない、一方的な蹂躙であった。

 しかもユージはアリスの魔法を温存している。

 逃亡したモンスターを仕留める役の斥候の男とコタローに至っては、いまだ出番がない。


 ゴブリンの数も少なくなってきたところで、ようやくオークが動き出す。

 後方にいたため、ユージの目つぶしは効いていないようだ。とはいえ、弓士の矢を受けてすでに二匹は動けなくなっているようだが。


 残り8匹のうち、7匹のオークが横に並ぶ。どうやら列を作って突進する構えである。その少し後ろには、棍棒ではなく錆が浮いた剣を持つひとまわり大きなオークの姿。それがこの集団を率いるオークリーダーのようだ。

 味方であるはずの生き残りのゴブリンを文字通り蹴散らしつつ、オークたちが突進の速度を上げる。

 2m近い巨躯が並んで突進してくる様は、ユージをひるませるのに充分な迫力であった。

 だが。

 開拓地には、まだ切り札があるのだ。


「アリス! 列の真ん中に向けて魔法だ!」


 ユージが後方にいるはずのアリスに向けて叫ぶ。それにしてもこの男、意外に冷静である。楽勝と聞いたゆえか、それとも両横に『撃退だけなら二人で充分』と言い切った元3級冒険者の二人がいるゆえか。あるいは掲示板住人たちとのシミュレーションゆえか。


 はーい! というアリスの元気な返事が開拓地に響く。やっと役に立てることがうれしいのか、張り切っているようだ。


「んんー! しろくてすっごくあっつくておっきいほのお、出ろー!」


 戦場にアリスのかわいらしい声が響く。それはかつて、冒険者ギルドマスターにトラウマを刻み込んだ魔法であった。

 山なりに飛んでいった炎はユージたちの頭を越え、突進してきたオークの列の中央に着弾する。


 炎が爆発した。


 ゴロゴロと、人型の黒い固まりが二つ転がる。その横には、プスプスと煙をあげ、香ばしい香りを放つミディアムレアのオークが二匹。

 無事だったのは、両端にいた三匹のオークと後方にいた一匹だけだったようだ。


 爆発の余波か、それともあっという間に味方がやられたことに驚いたのか。足を止めたオークに矢が飛来し、突き立つ。

 容赦なしである。

 この世界においてモンスターにかける慈悲などないのだ。

 足を止め、逃げ出そうにもゴブリンの死骸で走る速度を上げられない巨体のオークなど格好の的である。

 ただ一匹、錆びた剣を持つオークリーダーだけが飛んでくる矢を打ち払い、わずかな抵抗を見せている。


 だが。

 一匹、また一匹と射られて崩れ落ちるオークたち。

 ついに、敵はオークリーダーただ一匹となる。


 傷ついた体でのけぞり、フゴーッと天高く咆哮するオークリーダー。

 覚悟を決めたのか、飛来して突き立つ矢を無視して前屈みの体勢をとる。


 玉砕特攻、命を散らして、せめて一太刀。


 さすがのユージも、そんな意志を見て取った。

 一歩足を踏み出すユージだが、片手を上げて元冒険者のパーティリーダーが前に出る。

 せめてもの(はなむけ)に、この場の最強が相手してやろう。背中で語る漢であった。さすが、妻帯者は違うのだ。


 一人と一匹の視線が交差する。


 そして、両者が駆け出そうとした瞬間。


 オークリーダーの後方から飛び出した一つの影。

 無音の跳躍はゆるやかな放物線を描き、その頂点で背後からオークと交錯する。


 ヒザをつき、崩れ落ちるオークリーダー。ピクリとも動かない。どうやら絶命したようである。


 影は、コタローであった。


 アオーンッと勝利の遠吠えをあげるコタロー。


 コタローにキリッと睨まれるパーティリーダーとユージ。

 おとこのろまんより、むきずのせんめつがだいじなの、ひとならともかく、てきにつきあってんじゃないわよ、と言わんばかりであった。

 敵には容赦がない女なのだ。獣ゆえ。



これで挿絵入った…のか…?

taka.k 様、杜鵑 様、ありがとうございました!


挿絵(By みてみん)



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[一言] 星形稜堡か横矢掛か、恐ろしいキルゾーン。
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