第72話 忘筅
胸から下がってる趣味の悪いペンダント……なんかどっかで見たな。
なんだっけ?
あー、トップに填まった石に見覚えがあるんだ。
でもアレは、ここまで毒々しい色じゃなかった気がするが……。
いや、もしアレだとしたらヤバイんじゃ――!
背筋がぞわっと粟だった。
急ぎペンダントを外そうとしたが、手遅れだった。
石から暗い液体が溢れ、涙のようにしたたり落ちた。
次の瞬間。
――カッ!!
滴が落下した地点から外側に向かって、強い衝撃波が発生した。
俺は腕をかかげて全力で耐える。
視界から徐々に光が消えて――暗転。
再び光が戻った時、俺はエントランスじゃなくて、クランハウスの外にいた。
「――ッ!」
空を覆い尽くす分厚い層。
赤と、紫がドロドロと混じり合ったそれは、確認するまでもない。次元層だ。
デバイスを操作して、武具を装備。
「ランダムポップ……これは、相当ヤバイな」
ここに深淵が発生した以上、あの女子に付けられていたのは深淵石だ。
それが発動したまではいい。だが、ランダムポップしたとなると、話は大きく変わってくる。
深淵に入り込んだパーティがバラバラになるのは、魔王限定の仕掛けだからだ。
「エルドラ! いま深淵の中に何人いる!?」
俺が一番心配なのはそれだ。
ハンターだろうが一般人だろうが、深淵内に六人以上居るとアウト。
魔王が強化されて一瞬でお陀仏だ。
『現在、生命反応はマスターを含め八名です』
「くそっ!!」
レイドモードじゃねぇかッ!
「中に居るのは誰だ?」
『マスターと三浦大斗、副委員長、クランハウスの清掃員が五名です』
「よし。エルドラは大至急清掃員を見つけて、深淵の外に放り出してくれ」
『承知しました』
深度EXの深淵は、出現する魔王によってサイズに違いがある。ただ、最低でもかなりのサイズになる。
この深淵が発生したのが、まだクランハウスで良かったというべきか。
ここ無駄に広いし、なんなら二人放り出せばいいだけだからな。
『マスター』
「なんだ?」
『救出に向かったドローンが破壊されました』
「あー……」
そう上手くはいかないか。
なんせ、相手は魔王だろうからな。
『どうしますか?』
「救出は続行。五十までは撃墜されても構わない」
『承知しました』
しばしの間はエルドラにお任せ。
俺は魔王戦用装備を取り出していく。
ここがリアルになってから、いろいろと怖くて死蔵させてたからな。
あれとかこれとか、使ってみたいが……使用者もダメージ食らうとかないよな?
「お、ハヤテじゃん!」
俺がインベントリをあさってると、屋敷の中から大斗が現われた。
よし、これで挑戦人数マイナス1確定だ。
「一体これはなんなんだ!?」
「深淵石だ。クランハウスに送りつけられたんだ」
「うわ、なにそれヤバ……」
大斗の語彙が死んでる。
まあ気持ちはわからんでもない。
ぶっちゃけ俺も、宅配便で核弾頭が届いたような気分だ。
これが普通に出来るなら、敵を安全地帯から一方的に叩き潰せる。
「おまけにこれ、魔王級っぽい」
「――ッ!? やばいじゃん! 早く逃げなきゃ!」
「あ、待った。荷物の中に副委員長も入ってたんだが」
「――ッ!?」
「どっかで見てないか?」
「いや……。えっ、副委員長が?」
「ああ。見てないならいい、俺が探すわ。それより大斗、まずはこの深淵から待避してくれ」
「…………おれ、副委員長を探してくるわ」
「えっ、待て待て。それは俺が探すからいいぞ」
「いや、おれが探す」
なんか、妙に頑なだな。
いつもならさっさと逃げる。
てかこいつ、魔王って聞いた途端にダッシュで逃げ出しそうだったのにな。
なんで…………。
えっ……えっ? まさか、そうなの?
「大斗、中でうろうろすると死ぬぞ?」
「うっ……」
「これは冗談じゃなくて本気だ。それでも探すのか?」
「あ、ああ」
「なんで……」
「そ、そう簡単に、気持ちは切り替わらないんだよ」
ああ、やっぱそうなのか……。
「お前を裏切った奴だぞ?」
「だからって、見過ごしたら夢見が悪いじゃん」
「甘いなあ……」
甘すぎる。
だが、それが大斗の良いところだ。
こういう奴じゃなかったら、多分俺は大斗と親友にはならなかった。
俺はインベントリから武器を取り出し、大斗に放る。
「大斗、コレを使え」
「この忍刀は?」
「お守りみたいなもんだ。生きて戻ったらちゃんと返せよ」
「…………わかった。サンキュな、ハヤテ」
そう言って、大斗は来た時よりも三倍以上の速度で屋敷の中へと戻っていった。
わ、わかってはいたが、すげぇ上昇倍率。
大斗に貸し出したのは、忍刀『忘筅』。
課金ガチャで出る武器の一つで、身体能力増強に、確率でクールタイムを無視出来る。その他にもユニークな効果が付いている、Sランク武器だ。
大斗に持たせるにはもったいない逸品だが、ここまで漢を見せられたら、貸さないわけにはいかないよな。
「さて……」
大斗の生存率を上げるためにも、いっちょ派手に暴れますか。
状況が整うまでの目標は、死なない。
そのためのアイテムは揃ってる。
ゲームだと『死に戻りゃいいじゃん!』って使ってこなかった、不良在庫の数々。いまここで火を噴くぜ!
「いっちょ派手に出迎えるぞ」
チャージが終わったレギオンを掲げ、引き金を引く。
「《焦炎爆散》」
銃口から放たれる焦熱。
暗い深淵を真っ赤に照らす。
拡散した炎が、建物を避けて燃え広がった。
普段は木や植物が植えられてる庭が、一瞬にして灰に変わるのだった。
TIPS
・忍刀『忘筅』
目的のためなら手段は選ばず。神が作りし一振りの忍刀。
忍者に必要な身体能力を向上させ、強力な加護が得られる。
ハヤテメモ:課金アイテムらしく、ピーキーな性能。ベヒモスとはまた違った使いづらさがある。オンラインだと、外国人の装備率が一番の武器。でもこっちに来てから、なんか忘筅に違和感があるんだが……。




