第64話 ミッション完了
「どうしたもこうしたもあるかッ!! お前がとんでもない人物に手を出したせいで、大庭家が潰れそうになっているんだぞッ!!」
「……はっ?」
とんでもない人物……。
一体誰のことだ?
「家はまるごと爆破されるわ、裏帳簿をすべてかっ攫われるわ。手を回した協力者の家もすべて同じ目にあった」
「そ、そんな……」
「我が家の再建に、被害の補償。一体、いくらかかるかわかるか?」
「わ……わかりません」
「我が家の資産すべて吐き出してもまかなえんわッ!!」
「――ッ!」
「我が家にこれほどの大損失を与えるとは……とんだ疫病神だったな」
だった?
「す、すみません。父上、この埋め合わせは――」
「父上と呼ぶな!」
「……はっ?」
「大庭家には無能はいらん。お前は今日から、一切大庭家とは関わりのない赤の他人だ。わかったな?」
「ちょ、ちょっとお待ちくださいッ! どういうことなのか説明を――」
ぶつり。
通話が切れた。
今の会話はいったいなんだったのか、情報の処理が追いつかない。
頭の中が真っ白でも、状況は容赦なく動き出す。
「……で、誰が大庭家の嫡男だって?」
「――ッ!?」
「俺は、俺や俺の仲間に危害を加える奴には、一切容赦はしない」
ズ、ズ、ズ。
白河が一歩、また一歩と近づいてくる。
死にたくない。酷い目に遭いたくない。
ここから無事逃げ出す方法がないものか?
剣斗は下がりながら、必死に頭を働かせる。
しかし、結論が出る前に剣斗の背中に、倉庫の壁が当たった。
これ以上、下がれない。
「お……俺を、殺すつもりか?」
「だったら、なんだ?」
「た、たとえハンター同士の抗争だとしても、Dランクハンターごときの殺しが許されるはずがない!! 俺を殺せば、ハンターライセンスは没収。お前は終わりだ!」
ハンターやクラン同士の抗争なら、一定程度のお目こぼしが受けられる。
だが、殺しとなると話は別だ。
Dランク程度のハンターならば、一般人と同様に裁かれる。
ただS級以上の、強力な政治力が働くハンターともなれば話は別だが。
「へえ……。Dじゃなきゃいいんだな?」
「そ、そうだが……」
白河がおもむろに、胸ポケットからハンター証を取り出した。
見たことのない白銀色と、ランクの文字を見て、剣斗は目を見開いた。
「う、嘘だ……。なぜ貴様がEXのカードを持っている!?」
「いろいろあってな。今日、EXになった」
「馬鹿馬鹿しい」
剣斗は首を振る。
EXハンターは、学生が手にできる称号ではない。
「どうせ偽物だろ」
ふと剣斗の脳裏に、先ほどの父の言葉が浮かんだ。
『お前がとんでもない人物に手を出したせいで』
白河や三浦を間違って殺めてしまった場合でも、剣斗が罪に問われぬよう各方面に鼻薬を嗅がせていたのは、誰あろう父である。
「い、いや、そんな、馬鹿な……」
当然ながら白河の名も、彼が平民の出であることも知っていた。
そんな父が下等種を『とんでもない人物』と言うのはおかしい。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だッ!!」
信じたくない。
だが、状況は白河のEXハンター昇格を肯定している。
「ただの平民の学生が、EXハンターになんてなれるわけがない!! EXハンターとは、そのような安物じゃないんだッ!!」
「言い残すことは、それだけか?」
カチャリ。
己の鼻の先に突きつけられる銃口。
白河から感じる強い殺意に、ごくりと唾を呑む。
「し、死にたくな――」
――ガンッ!!
強い衝撃とともに、剣斗の意識はぷつりと途切れた。
○
大庭が崩れ落ちるのを見て、思わずため息が漏れた。
胸糞悪い事件を起こしやがって……。
「エルドラ。こいつら三馬鹿を、親元に送りつけてくれ」
『殺さないのですか?』
「この世には生き地獄って言葉があってな」
『……なるほど、了解です』
エルドラがドローン十体ほど使い、大庭ら三人を簀巻きにした上で宙づりにし、空へ飛び立っていった。
あの三人は廃嫡されたみたいだし、家に戻ってもまた追い出されるだろうな。
そこからどうなるかなんて、一切興味はない。
ってか、もうあいつらのことに、煩わされたくない。
だがいずれ死ぬとしても、自分がなにをしたのかきちんと思い知ってからだ。
「さて――」
大斗に駆け寄り、インベントリから回復ポーションを取り出す。
「ほら、これを飲め」
「お、お前……なんで……。馬鹿なおれの、ことなんて、見捨ててくれても、よかったじゃん……」
「馬鹿が馬鹿言ってないで、さっさと飲め」
ポーションの瓶を口に押し当て、無理矢理飲ませる。
すると、大斗の怪我がみるみる癒やされていった。
おー、逆再生動画みたいだ。
「大斗になにがあろうと、俺は大斗の味方だ」
「…………そっか」
肩を持って立ち上がらせる。
大斗はすぐにそっぽを向いて、袖口でゴシゴシと顔を拭った。
「そ、それで、ハヤテはなにをやったんだよ?」
「なんの話だ?」
「なんか裏帳簿とか言ってたじゃん」
「あー、それはな――」




