第63話 逆襲開始
「な、なんだ、これは? 白河、一体何をしたッ!?」
『いいえ。それはマスターではなくワタシのシールド《三位一体》です』
「なっ!? だ、誰だ!!」
『ワタシは白銀の守護機〝エルドラ〟。マスターのドローンです』
その声と共に、空中に丸いボールのようなものが現われた。
「こ、光学迷彩……だとッ!?」
「そんな……ドローンが、魔法を使うのか!?」
『いいえ。魔法ではなく、電磁障壁です。エネルギーはマスターの魔力を利用しておりますが、その障壁は歴とした物理的障壁で、ワタシのコアシステムからジェネレータにより出力され、三体のドローンを経由した上で――』
「もういいエルドラ。説明してもわからん……」
エルドラ、と呼ばれたそのドローンが、白河の肩に乗った。
今の会話、剣斗が知っているドローンとはAIのレベルが違い過ぎる。
まるで人間と話しているような感覚だった。
「白河……そのドローンは、一体どこで――」
「エルドラのことはいい。それより大斗だ。よくも、やってくれたな?」
白河に睨まれ、剣斗は背筋がぶるりと震えた。
彼の背後に、殺気が揺らめいて見える。
幼い頃から、大物政治家やハンターたちと顔を合わせ、強いオーラに慣れ親しんできた剣斗をもってしても、現在の彼の存在感を胆で堪えることが出来ない。
「き、貴様らのような虫けらが偉そうに……。貴種を舐めるとどうなるか――」
――思い知らせてやる。
言いかけた、次の瞬間だった。
――ズズズズズッ!!
遠くでいくつもの爆音が響き、遅れて地面が僅かに振動した。
「な、なんだ、今のは……?」
「お前に加担した奴らを、まとめて消した音だ」
「…………はっ?」
白河の言葉がまるで飲み込めない。
一体なにを言っているんだこの男は?
「は、はは、馬鹿な。そんなことが出来るはず――」
「疑うなら、電話でもかけてみろ。……繋がるといいな?」
油断を誘うつもりか?
剣斗は警戒しつつ、仲間に視線を送る。
その視線を受けて、仲間二人が急ぎデバイスを取り出した。
しばし操作するが、二人は真っ青な顔をして首を振った。
どこにも、繋がらなかったのだ。
「……貴様の言が本当だとして、そんなことをして許されると思っているのか?」
「警察に政治家に起業家。各界の名だたる大物を味方にしたのはいいが、詰めが甘かったな。お前が送った裏金の証拠は、すべてこちらで抑えた」
「……なん、だとっ!? 馬鹿な、それこそ出来るはずが――」
「エルドラ、出せ」
『アイアイサー!』
白河が指示すると、エルドラが自らの機体内から帳簿を取り出した。
その帳簿は一冊だけではない、ドサドサと何冊も出て来た。
エルドラの機体にはまず収まりきらない量だ。
――驚いた。このドローン、インベントリ機能まで備えているのか!
そのうちの一冊を、白河がつまみ上げてパラパラめくる。
「へえ。大手新聞社の社会部デスクに100万円。与党議員に500万、警視庁職員に一千万……大盤振る舞いだな。いったいいくら使ったんだ?」
「……知らん。俺は何も知らない! お、親が、勝手にやったんだッ!!」
「『失敗しないよう、たっぷり金を渡している』だったか?」
「――ッ!?」
「ドローンの映像を見たが、自分で『金を使った』ことを白状してるな。誰が、知らないって?」
「い、一体いつから……」
「俺がこちらに向かう途中で、撮影用のドローンに先行させた」
「くッ……」
「わかるな? 今更、言い逃れは出来ない」
白河がゆったりとした動作で天井を指さした。
剣斗は襲撃に身構えつつ、そっと目だけで上を見る。
そこに天井はなく、真っ暗な空が広がっていた。
一体いつのまに、天井が消えた!?
いや、真に驚くべきところはそこではない。
「――なっ!?」
よく見れば暗い夜空の中に光を放つ、おびただしい量のドローンが浮かんでいるではないか!!
これほどの数を揃えることなど、一体どのクランに出来よう?
おまけに無数のレーザーポイントが、三人の額に当てられている。
――あれらはすべて火気を搭載している戦闘用ドローン。
一歩でも動けば……。想像すると、体がこわばり動かない。
「お前は『貴様ごとき下等種に、何が出来る?』と言ったが――」
白河の手に、いつの間にか魔銃が現われていた。
「――お前らを破滅させられる」
それを水平に構え、撃った。
タタンッ!!
魔力弾を受け、仲間二人が吹き飛んだ。
白河の銃口が、こちらに向けられた。
剣斗はごくりと唾を呑む。
「お……俺は、大庭家の嫡男だぞ」
「だからなんだ?」
「俺に手を出したら、大庭家が徹底的に貴様を追い詰める。貴様だけじゃない、一族郎党すべて、惨たらしい末期を迎えることになるぞッ!」
「へえ……」
白河が口元に笑みを浮かべた。
目は一切、笑ってない。
雰囲気に気圧され、剣斗は一歩下がる。
その時だった。
剣斗のポケットから着信音が鳴り響いた。
唐突な音とバイブレーションに驚き、肩がビクッと跳ね上がる。
「電話か。出ていいぞ」
「…………」
白河から一切目を離さず、剣斗はデバイスを取り出し通話ボタンを押した。
ちらり見えた画面には父上の文字。
もしや、父が一発逆転の良い知らせをもたらしたのでは?
そんな歓喜が、一瞬にして反転した。
「父上ッ――」
「こ――ッの、馬鹿息子がッ!!」
音割れするほどの大声に、白河は危うくデバイスを落としそうになった。
「お前はいったい、なんてことをしてくれたんだッ!!」
「ち、父上、いったいどうされたんですか?」




