第61話 貴種派の策略
「……安達、この手紙にはいつ気づいた?」
「今から、丁度一時間前くらいだよ」
現時刻が十六時。
安達が気づいたのは十五時。
つまり、十五時前には既に、手紙の通りの状況になってたってことか……。
「他にこれを知ってる奴は?」
「誰も居ないけど……」
「了解。みんな、申し訳ないが今日はクランハウスに泊まりで頼む」
「ん、どういうことだい?」
「…………クランがCに昇格して、おまけに俺もEXになったんだ。みんなでパーティでも開こうかなって」
「そ、そうか」
俺の返答に、何故か一条が顔を引きつらせた。
この後なにか予定でも入れてたのか?
「あー、悪い。休みたかったか?」
「いや違う、そういうことじゃなく……」
一条が近づき、何故かレオンも俺に近寄ってきた。
「今日はみんなで固まっていた方がいい、のかな?」
「なんで……」
「馬鹿が、殺気ダダ漏れだぞ」
「そういうこと」
指摘されて、他のメンバーの顔も引きつっているのにいまさら気づいた。
うーん、自制してるつもりだったんだけどな……。
「今は何も言えないが……すべて終わったらクランハウスに戻る」
「そこで説明はして貰えるのかな?」
「そのつもりだ」
「んじゃ、オレたちはクランハウスに行こうぜ。あっ、パーティには豪華な食事が付もんだろ? クランの金で飲み食いしてもいいよな?」
「それくらい、俺のポケットマネーで出してやるよ」
「っしゃっ!! みんな好きなもん買いあさるぞッ!!」
「おー」
「颯、すまないのだ」
「白河さんごちそうさまです!」
「う、うん。ほどほどに、ね?」
みんなの勢いが凄い。
俺のサイフ……大丈夫かな?
「白河くん」
「なんだ?」
別れ際、安達が不安げに問いかけてきた。
「ちゃんと、戻ってくるよね?」
「ああ。当然だ」
それは約束する。
当たり前だろ?
何があろうと、俺たちは必ず戻る。
どんな手を尽くしてでも、な……。
「…………さて」
安達を見送った後、俺は一人建物を出て目的地に向けて歩き出した。
「エルドラ」
『はい』
「出し惜しみはなしだ。俺が持ってる子機、すべて使う」
インベントリから、次から次へと子機を取り出す。
はじめは意気揚々と子機を支配下に置いていったエルドラが、十分も経つと、
『い、一体何機お持ちなんですか!?』
「千はあるな」
だってこれ、ガチャの外れだし。
プレイヤー間でも安値で売買されてたしな。
お金が大量に余ってたから、無駄に買いあさって死蔵させてた。
いつかはペット合成システム来るかと思ってたんだが……来なかったなあ。
『……どこまでおやりになるつもりですか?』
「俺に喧嘩を売ったんだ。繋がってる奴ら含めて、全力でぶっ潰す」
今回は一切手を緩めない。
それくらい、頭にきてる。
『白河颯 お前の親友 三浦大斗を 預かった
返してほしくば 一人で指定した 住所まで 来い
もし一人で来なかった 場合は 即座に 三浦大斗を 殺す』
このクソったれな手紙の主を見つけ出し、その背後まで徹底的に叩き潰す。
「俺と、俺の大事なものに手を出したらどうなるか、思い知らせてやる」
二度と、俺たちに手出ししようと思わないように……。
○
東京都のとある港にある倉庫の中。
都立ハンター養成学校二年の大庭剣斗は、先ほどから天井を睨み続けていた。
自分が打てる手はすべて打った。
親の力、大庭組のコネ、そして仲間の親や会社に至るまですべて、利用出来るものは利用した。
そのために、かなりの額の裏金を使うハメになった。
実家には相当な痛手だっただろう。
ただその甲斐あって、剣斗らが白河に対してなにをやろうと決して表沙汰になることがない。
たとえ白河を殺そうと、剣斗は一切罪に問われない。
罪に問おうとした途端に、警察からハンター協会、はては政治家などから圧力がかかり、事件は闇に葬られる。
そう、地ならしを済ませている。
一見すると計画は完璧だ。
しかし万全を期すなら1つだけ、ピースが足りない。
剣斗は、パイプ椅子に座らせた三浦大斗を見下ろした。
頭は紙袋がかぶせられ、体はワイヤーで拘束されている。
「なあ下等種。いい加減、白河颯の弱点を口にしたらどうだい?」
「…………」
「付き合っている人や、家族、気になってる女でもいい。教えてくれるなら、貴様を解放してやってもいい」
剣斗はあらゆる手を尽くした。
ただ一点だけ、白河颯に関する情報が不審なほど得られなかった。
大庭家が手を尽くして得られぬとなると、他家がアクセスをブロックしなければあり得ない。
彼のクランは西園寺家が後ろ盾に付いている。あそこが情報を守っているのだろう。そうとしか考えられない。
「黙っていないで、答えたらどうだ雑種。貴様には口が付いているだろう? ほら、話せ。話してみろ!」
紙袋の上から、何度も殴りつける。
先ほどから行っている拷問のせいで、紙袋は既に真っ赤だ。
しかし三浦は一切口を開かない。
「雑種の分際で、貴種の俺の命令が聞けないのかッ!!」
「大庭、その辺で」
「そ、そうだよ。さすがに死んじゃうよ……」
仲間二人に止められ、剣斗は深呼吸を繰り返す。
雑種相手に、ついカッとなってしまった。
だが、女の尻を追いかけ回すチャラチャラした男が、ここまで口が硬いのも悪い。
雑種ならば雑種らしく、貴種の言葉に従えば良いものを。
「そういえば堤。お前の兄の線はどうなったんだ?」




