第55話 逃亡阻害
「お前が逃亡するのはお見通しだ。悪いが、逃がすわけにはいかないんでな。ちょっくらズルをして逃亡スキルを防がせてもらった」
俺が使ったのは、『アロガントの宝玉』。
これはこの世界にはまだ存在しない、魔界にもない、所謂チートアイテムだ。
このハイテンション悪魔、逃がせば逃がすほどパワーアップして戻ってくる。
そして最終形態は『傲慢の魔王 シャドウ・アロガント』って名前が変わって、魔王に昇格する。
何度も戦うのはいいんだが、魔王になるとギミックを解除しなきゃ倒せないわ、そのギミックもたくさんあるわで非常に面倒くさい。
俺の目標は魔王と戦うことだが、討伐に手間がかかる魔王が弱い状態でいるなら、安全に美味しく頂くのが筋ってもんだ。
そういや、序盤の段階で倒すのは初めてだが、経験はどうなるんだ?
あとドロップだな。
この『アロガントの宝玉』は、魔王シャドウを倒せば手に入る。
逃亡の名手が、死して他人の逃亡を阻止するってのは、傲慢の魔王らしい効果だ。
さておき、ここで殺しても魔王級の経験とドロップがあるなら文句ないが、そんなうまい話はないだろうな。
魔王級の報酬は心残りだが、もう『アロガントの宝玉』は手元にあるし、見逃せば堤みたいなミイラが量産されるから、ここで決着を付けるにこしたことはない。
「んじゃ、さくっと終わらせるか」
「ま、待つのであるッ! 我が輩、ここまでフルボッコにされたのは初めてである。いやはや、人間の強さには感服したのである! ここは一つ我が輩の昔話を――」
「悪いが興味ない。っていうか、時間稼ごうと思っても無駄だぞ」
「な……そそ、そんなつもりは、毛頭ないのであ、ル」
めっちゃ口調が動揺してるぞ。
しらばっくれるならちゃんと隠せよ……。
「この魔銃は特別製でな。めちゃくちゃ扱いづらいが、傷の再生を阻害する効果がある」
○ベルフェゴール〈A級〉
『あらゆる存在と、あらゆる事象に怠惰の呪いを』
魔王討伐の際にドロップした、阻害特化型魔銃。
すべての攻撃に、対象の権能を阻害する呪いを付与する。
説明書きはめちゃくちゃ強そうに見えるんだが、これ自分の攻撃にも怠惰の呪いがかかるんだよ……。
魔力チャージは遅れるわ、魔法の展開速度が低下するわ、速度も威力も低くなる。
ぶっちゃけ、使いづらい。
だがこれがなきゃクリア出来ない魔王もいる。
特定条件下のみ最強になる、ストーリーを進めていけば必ず入手出来る特殊武器だ。
まあ、こいつに使ったのは初めてだが、ヴァンパイアなら効果があるのはゲームで確認済みだ。
「お前が無駄話で時間を稼いでも、体の穴は塞がらないし、捕縛から逃れられない」
「まま、待つのである! 我が輩、人間の強さに感服したのである! 是非我が輩を配下に加えて――」
「断る」
問答無用、引き金を引く。
銃口から射出された光が弾け、拡散。
シャドウを穴だらけにした。
「あぶねぇ……逃げられるところだった」
こいつの命乞いって、逃亡ギミックの一つなんだよな。
台詞を全部聞くとその場で霧になって消えるから、台詞を全部口にさせちゃいけない。
これがわからなくて、何度も逃げられたことがある。
瀕死でも状態異常にかかってても逃亡に成功するって、マジでクソな設定だと思う。
『マスター、お疲れ様でした』
「おう。エルドラもな。加勢してくれて助かった」
俺がシャドウの背後に回り込む間、俺の分身の操作を頼んでいた。
分身――分身創造はオートモードで敵を攻撃する。
ぱっと見は強い魔法なんだけどな……。
魔法は一切使えないし、耐久力も攻撃力も低いし、簡単な攻撃すら避けられない。
正直、ゲームじゃ一切使えない魔法だった――はずなんだが、
『――エルドラ。一度試してみたいことがあるんだが、協力してもらえるか?』
『ワタシに出来ることでしたら、何でもお任せください!』
週の初めに、実験でエルドラに弄らせてみたら、何故かエルドラが《デュアル》を操作できるようになった。
っていっても、結局魔法は使えなくて魔力弾だけの攻撃になったけどな。
ペットが操れるとか、そんなフレーバーテキストは一切なかったはずなんだが……。
「なんでエルドラは《デュアル》を操作できるんだろうな?」
『マスターの魔力と同化していたからではないでしょうか』
「同化?」
『ハイ。ワタシは普段からマスターの魔力を体に補充しておりますので』
「……それ、初耳なんだが?」
『アッ……ごご、ご安心ください! マスターの活動に支障が出ない程度に控えております!』
こいつ、しまった! って言わんばかりにどもったな。
口を滑らせなきゃずっと言わないつもりだったのか?
「なるほどなるほどぉ。時々エルドラが俺の肩に乗ると思ったら、そういうことだったのか」
俺はアイボのハウスかよ……。
『エ、エネルギーが切れると動けなくなるので、どうかご堪忍ください……』
「いいけどさ。今後はそういう隠し事は無しだぞ」
『承知いたしました』
「……ん?」
直下にいたシャドウが灰になって消えると同時に、アロガントの宝玉がにわかに輝きを増した。
よく見ると、宝玉に灰が吸い込まれてる。
「なんだ、どういうことだ?」
Tips
『アロガントの宝玉』
傲慢の魔王シャドウ・アロガントを討伐するとドロップする貴重品。
所持していると、敵の逃亡を阻害する効果がある。
ハヤテメモ:【滅亡国家のラグナテア】にははぐれメタルみたいな経験値MOBがいないから、ぶっちゃけ逃亡阻害にうま味はない。




