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滅亡国家のラグナテア ~リアルがゲームに入れ替ったけどデータ引き継ぎで現代無双~  作者: 萩鵜アキ


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第53話 クラン試験その4

 白河颯が堤に連れて行かれた後、一番はじめに異変に気がついたのは畠山修だった。


「……むっ? なにか妙だ」


 深淵内部の魔力が、波立っている。

 その中心はおそらく国技館の建物――白河が連れて行かれた先だ。


「一体何が――」


 疑問を口にしかけた、その時だった。

 国技館を覆う真っ赤な次元層が、突如出現した。


「ん、なんだありゃ」

「まさか深淵の中に、深淵……」

「そんな話、父上からも聞いたことがないけど」

「もしかして、あの中に颯がいるのではないか?」

「どど、どうしましょう!?」


「……全員、落ち着け」


 後に残った試験官の梶原が、皆を見回し口を開く。


「これは明らかに緊急事態だ。クラン昇級試験は即時中止し、ハイクランに協力要請を出す」

「おい、何勝手に決めてんだよ」


 その発言に、千葉が憤った。

 ゆったりとした足取りで梶原に近づき、睨めつける。


「俺たちはまだ負けてねぇぜ」

「状況が変わったんだ。緊急事態ということで、今回の試験料は特別に返納されるだろう」

「そういうことじゃねぇんだよ。今回クリア出来なかったら……」


 千葉が眉尻を下げて、


「地獄の特訓が続くだろうがよ……」

「あれは、辛い修行だよね……うん」

「そ、そろそろ休みが欲しいのだな」

「ひぃっ!」

「十時間ぶっつづけ狩り……」

「休憩は魔物を探す間だけ……」

「と、時々魔物を引き連れてきたこともあったのだ……」

「(ガクガク)」


 千葉の言葉に釣られ、一条に西園寺、朝比奈までもが震えあがった。

 修も、白河流のトレーニングには毎回肝を冷やしたし、ダンジョンに行く道のりは足が重くなったものだ。


「そ、そんなに酷いのか」

「軍隊以上だと思いますよ」


 顔を引きつらせる梶原に、修は苦笑して答えた。


 ただ、毎日辛かったが、辞めたいと思ったことは一度もない。


 それはきっと皆も同じだ。

 毎日毎戦、自分の課題を見つけ、克服し、一歩ずつ強くなっていく実感が得られるトレーニングなど、いままでの人生で一度だって経験したことがない。


 修は、間違いなく自分は恵まれている、と思う。

 皆よりも一ヶ月以上出遅れても、ここまで食らいつくことが出来たのは、白河の厳しいトレーニングがあったからこそだ。


「試験官、このテスト、続行させてください」

「しかし――」

「緊急事態とは、あの赤い次元層ですよね?」

「そうだ」

「では、外側の深淵は先にクリアしてしまいましょう。他のクランに攻略を依頼するにしても、外側の深淵がない方がやりやすいでしょう」

「それは……たしかに君の言う通りだ。ただ、今は白河がいない。無理に攻略を進めるより、万全の体制で挑んだ方がいい」

「梶原さんは勘違しています。僕らは、いまが万全の体制です」


 今日は三浦大斗が参加していないため、〝ほぼ〟万全だが……。


「元々、白河はパーティとしての役割を持っていません。パーティメンバーというより、教官役に近いでしょう」

「きょ、教官? クラスメート、なんだろ?」

「はい。ですが僕らは彼に、このメンバーで戦えるように鍛えられていました」


 彼が役割を持たないのは、すべての役割をカバー出来るから。

 パーティメンバーの頭数として入っていないのは、彼単体ですべてをクリアしてしまえるからだ。


 逆に、自分たちがいることが、彼の足かせになってしまっている。

 悔しいが、それを認めざるを得ない。


 故に、メンバー外。

 白河は、非常に特殊な立ち位置にいる。


 ここで試験を中止にされれば、きっと後から白河に呆れられる。


『悔しくないのか?』

『試験官には、お前らが失敗すると見くびられて、温情をかけられたんだぞ』


「この程度の試験、五人で攻略出来なければあとで白河に笑われます」

「あいつクッソ性格悪ぃから、同じ深淵を一人で攻略した上で『こんな簡単な深淵、五人も居てクリア出来ないの?』とか言うぜ……」

「ああ、すごく言いそう」

「それは、なんというか……」

「悔しいです」


 皆の気持ちが一つになった。


 白河は自ら饒舌に語るタイプではない。

 だが、彼が皆に期待していることは、それとなく感じられる。

 とはいえ期待のレベルは、彼の実力からすれば足の爪ほども低い位置にあることも、気づいている。


 その期待にすら応えられなかったら?

 きっと、皆は悔しさのあまり自らの胸を掻きむしりたくなるに違いない。


 修たち五人と、三浦や安達を含めた七人は、彼の圧倒的な強さに魅了されて共にいる。


 彼の圧倒的な強さを、尊敬しているし、その背中を目指してもいる。

 目標――理想と言い換えてもいい。


 故に、彼には決して失望されたくない。

 理想に失望されれば、後に残るのは絶望だ。


「梶原さん、お願いします。試験を続けさせてください!」

「修!」

「シュウ、お前……」


 一条と千葉の二人が目を見開いた。


 修はプライドが高い。

 これまでどんなに自分が悪くとも、親以外に頭を下げたことがない。

 それを知っているからこそ、修が頭を下げる姿に二人は驚いたのだ。


 しかし、と修は思う。

 自分の頭一つで試験が続けられるのなら安いものだ。

 今はそれよりも、試験が続けられない方が嫌だった。


 こうして頭を下げてみると、今まで自分が大切にしてきたものはなんだったのだろう? と思ってしまう。


(きっと、自分を守ることより、もっと大事なものが見つかったのかもしれないな……)


「…………わかった。そこまで言うなら、続行を認める」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし、実力が足りてないと見ればすぐに試験を取りやめる。いいな?」

「はいっ!」


 修は自信満々に頷いた。

 一秒。頭を下げて勝ち取った小さな勝利を喜び、頭を切り替える。


「これから先、エルドラの支援はない。前衛は急襲に注意だ」

「おう!」「了解!」「わかったのだ!」

「後衛は視野を広く保ち、常に索敵を行おう」

「わかりました!」

「それでは、進むぞ!」


 索敵を行いながら前進。

 すぐにシザーキャットを三体見つけた。


 一条が突っ込みヘイトを稼ぎ、横から千葉と西園寺が回り込む。

 戦闘は、一瞬で終了した。

 深淵に入った当初とはまるで別パーティだ。


 悪い緊張がほぐれ、代わりにほどよいプレッシャーがかかっている。

 それが良い動きに繋がっていた。


「次に行こう」


 魔石を抜き取ったらすぐに動く。


 再び三体のシザーキャットが襲来。

 先ほどと同じように囲い込むが、一匹が不規則に動いた。


「あっ!」


 経験不足故の、対応ミス。

 一匹のシザーキャットが西園寺の脇を抜けた。


 だが、


「甘い」


 修は即座に弦を引く。

 なにもない手元に魔法の矢が生まれ、放つ。


「《疾風の穿矢(ウインド・ストライク)》」


 水平に放った魔力の矢が、最速でシザーキャットのこめかみを射貫いた。


 これはアサルト・マジシャンである修の、もっとも得意な魔法だ。


 魔法の発生方法は魔銃士に似ているが、あちらは万能型、こちらは特化型とまるで違う。


 魔法そのものの威力は、正規の魔法士に比べるとどうしても低くなるし、相手の抵抗を受けやすい。

 しかし、相手の意識外からの攻撃に限っては、正規の魔法士よりもダメージが上がる。


 真正面からのガチンコ勝負にはめっぽう弱いが、修はこの職業がとても気に入っている。


(場を掌握し、コントロールする。僕にぴったりだ)


「すまない。素通りさせてしまったのだ」

「カバー出来たから問題ない。それより、次は――」

「対応可能だぞ。一度見た動きは、絶対に忘れないのだ」


 西園寺の強みは、これだ。

 戦闘に特化した記憶力と、それを生かす対応力。


 彼女もそうだし、一条や千葉、朝比奈もそう。

【ラグナテア】には、他のクランならば一人いるだけで躍進が約束されるだろう、とびきりの逸材が揃っている。

 これは運命か、それとも偶然か。


 いずれにしても、それらの逸材を寄せ付けぬ白河は、正真正銘の化け物。

 ――いずれEXに届く逸材だと、修は確信している。


「……みんな、少し殲滅速度を上げよう」

「修、どうしたんだい? 今の調子でも十分だと思うけど」

「いいや」


 修は首を振り、赤い次元層を見る。

 あちらは間違いなく、格上の深淵だ。

 こちらは格下で、かつ五人も揃っている。

 にも拘わらず、


「あちらが先に終わったら?」

「……それは、まずいね」

「絶対ぇ煽られる」

「急ぐのだ」

「頑張りましょう!」


 ――煽られたくない。

 先ほどとは違った意味で、五人は一丸となるのだった。

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