第49話 なぜか人が来ない
その日、下校時間になっても俺は女子に一度だって声をかけられることはなかった。
声かけられたらどうしよう、付き合ってとか言われたらどう断ろう、なんてソワソワしてたのがバカみたいだ。
いや、いいんだけどさ。
別にモテたいわけじゃないからいいんだけど……内心めちゃくちゃ複雑だ。
そんなに俺って魅力ないのかよッ!
ちくしょう!
「安達、一緒にクランハウスに行くか?」
「あ、ごめん。今後クランの昇級試験に必要そうな物資を見ようって、一条くんたちと行く約束してるんだ」
「そっか。じゃあ、一条たちには集合時間は守れって伝えといてくれ」
「了解」
安達に手を振り、教室を見回す。
大斗は、先に出たのか? 姿がないな。
仕方ない、一人でクランハウスに行くか。
「そうだ、エルドラ。一度試してみたいことがあるんだが、協力してもらえるか?」
『ワタシに出来ることでしたら、何でもお任せください』
「よし、じゃあクランの訓練室に行くか」
肩に止まったエルドラと話をしている時だった。
「颯、私たちと一緒に出ないか?」
「白河さん、ご一緒しましょう」
「お、おう」
鞄を持ったところで、エマと萌木が話しかけてきた。
一緒にクランハウスに行くことなんて、クランに誘った日以来だから、これは予想外だ。
「どうしたんだ急に?」
「男子がぐいぐい来るようになって困ってるのだ」
「そうなんです。私なんて、一人で席を立っただけで何人も男子が付けてきて、ちょっと怖かったです」
「お、おう……」
エマも萌木も美人だから男子が放っておくはずないとは思っていたが、まさかそんなことにあんってるとは……。
俺とは大違いだな。
…………う、羨ましくなんてないぞ!
「少し怖いから、一緒に下校してくれると助かる」
「そうですね。怖いですからね!」
「そ、そうか」
たしかに俺が傍にいると、他の男子は言い寄りにくいか。
だがな、二人とも。そんなに俺に近づく必要はないと思うぞ?
なんか肘に〝やらかいもの〟が当たってる気がするんですが……。
「嫌か?」
「嫌ですか?」
「別に……」
全然嫌じゃない!
が、言い寄る男子どもがそんなに怖かったのか?
「エルドラの子機を監視と防御に置いたほうがいいか……?」
『マスター、そういう意味ではないと愚考します』
「どういう意味だ?」
「エルドラ?」
「エルちゃん?」
エマと萌木がニコニコ、エルドラを見上げた。
なんだか迫力のあるその笑顔から、
『…………ノーコメントで』
視線を逸らした。
エルドラが負けたッ!?
一体どういう意味なのかは気になるが、まあいいや。
二人に挟まれて一路クランハウスへ。
「颯は何もされなかったか?」
「ああ、幸か不幸か、エマたちみたいなことは起らなかったぞ」
「そうか。私たちが裏で頑張った甲斐が――」
「何を頑張ったんだ?」
「なな、なんでもないのだ! わ、悪い女に捕まらなくて良かったのだなーッ!」
「ですです! 世の中、怖い女の人もいますからねー!」
「たしかに、そんな話を安達から聞いたわ」
今後、他人に出された飲み物が飲めなくなりそうだが……。
「圧をかけておいて良かったのだ」
ん、圧?
「きちんとオハナシしておいて良かったですね」
オハナシ?
なにやら不穏な発言が聞こえるんだが。
「何のことだ?」
「何だろうな」
「何でしょうね」
「ふふふ」
「うふふ」
美女が両隣で笑ってるのに、背筋が寒い……。
不穏当な発言があった気がするが、まるで追及する気が起きん。
下手につつけば、絶対火傷する。間違いない。
「ところで颯。今後の人生設計について、どう考えているのだ?」
「どうしたんだよ、藪から棒に」
「私も聞いてみたいですね。どんな女性が好みか、とか」
「女性の好みか……。まあ同い年で、気心の知れた人がいいよな」
水が怖くなる相手はNGだ、マジで。
なんて考えながら二人を見たら――、
「私は、出来れば男子が一人は欲しいのだ!」
「結婚は素敵な教会で挙げたいですね!」
「う、ん?」
「私はマンションではなく一軒家がいいのだ!」
「子どもやペットと遊べる広いお庭があるといいですね!」
「お、おう」
どうしたんだ二人とも。
なんか自白を迫る刑事みたいに目が怖いんだが……。
俺、なんか悪いことしたっけ?
「そ、それはそうと、週末試験になったが、大丈夫か?」
「はあ……。はい、大丈夫です」
「ふむ……。私も予定は空けてあるぞ」
話題を変えたら、二人のテンションが一気に落下した。
「……なんか、すまん」
「いえ。まさかすぐに昇格試験を受けることになるとは思ってもみませんでした」
「そうだな。だが、Cに上がったらいよいよ深淵討伐の責務を負うことになるな」
「でもそうなると、また男子に言い寄られるかもしれませんね」
「そうだな。だが、颯がいるから大丈夫なのだ!」
「そうですね。白河くん、宜しくお願いします!」
「お、おう」
「ふふ」
「えへへ」
はしゃぐ二人の声をステレオで聞きながら、思う。
こういう日も、悪くはないな。
――めっちゃ雨だけど。




