第47話 微妙な変化
「みんながDランクに上がって、基準を満たしたんだ。次はクランの昇格試験を受けるに決まってるだろ」
「うへぇ。またあの地獄の特訓をやるのか……」
「私のショッピング計画が……」
「大将、テメェは鬼か」
全員がずん、と意気消沈。
涙ぐんでる奴から、恨みがましく俺を睨む奴もいる。
みんなそんなにレベリングが嫌いなのかよ……。
俺は別になんとも思わないんだけどなあ。
VRでレベリングしてた頃とは違って、頭だけ疲れるってことがないし、体もきちんと鍛えられる。健康的だからむしろ有り難いくらいなんだが……。
「ま、まあ、クランのランクアップ試験は、申し込んだらすぐに出来るってわけじゃないから……明日くらいは休めるんじゃない、かな?」
「ケースケ、それマジ?」
「う、うん」
「うっしゃッ!」
安達の言葉で、みんなの雰囲気がぱっと明るくなる。
「安達、どうしてすぐに試験を受けられないんだ?」
「それは試験方法が、深淵クリアだからだね」
「ほお!」
まさか、ホロじゃなくて実地でやるとは思わなかったわ。
少しワクワクしてきたぞ!
「たぶんCランクの試験は深度Ⅲの深淵でやるんだけど、テストを受けられるまでに結構時間がかかるかもね」
「ん、そうなのか?」
「深度Ⅲの深淵は年間5回出るかどうかだだからね」
「えっ、そんなに少ないのか」
「うん。深度EXランクの深淵が出た時は、一気に深淵が活性化したこともあったけど、今はそれくらいだよ」
「……なるほどな」
たしかに、ゲーム初期に攻略出来る深淵は、ⅠとかⅡばっかだったわ。
けどまさか年に五回しか出ないとは思わなかったな。
たしか高校三年生くらいになると、深淵の出現頻度が少しずつ増えるんだよな。
高校卒業時に魔王出現イベントがあるからだ。
「そうか……年五回か」
「ま、まあ、二・三ヶ月に一回くらいは出る計算だから、そこまで長く待たないんじゃないかな」
「安達くん、それはぼくらがすぐにテストを受けられるという前提の話だよね。テスト受験の順番待ちがいたら、かなり待たされる可能性もあるんじゃないかな?」
「あー、うん。そうだね」
「ぐっ……」
さっさとランクを上げて普通に深淵に挑戦したいのに。
まさか敵はテストの難易度じゃなく、俺の能力でもなく、深淵の出現頻度だったとは……。
もうすぐC級クランだって思ってただけに、めちゃくちゃショックだ。
「よっしゃ。この隙におれ、彼女作るんだッ!」
「無駄な足掻きはやめておけ」
「ふっ。無駄かどうかは、死ぬまでわからないぜ? おれは、最後の瞬間まで足掻くんだ!」
「大斗……」
そんな台詞を言うなら、せめて鼻眼鏡は外せ。
「ひとまず明日ハンター協会にいって、申し込みだけでもしてくるか」
どうせすぐに挑戦出来ないだろうけどな……。
○
「すぐに挑戦いたしますか?」
「なぬッ!?」
ハンター協会で申し込んだら、いきなりそんなことを言われたんだが?
安達と一条の話はなんだったんだ。
「順番待ちはないんですか?」
「はい。今のところお申し込みのクランは【ラグナテア】様のみです」
「はあ。正直、時間がかかると思っていたので驚きました」
「あー、たしかに少し前まではお待ちいただいておりましたけど。最近、試験に利用出来る深淵が立て続けに発生いたしまして――」
深淵の出現頻度が上がってるのか?
たしか、二年後半までは低空飛行を続けたと思ってたんだが……。
「――この後も二・三発生する予測が出ています」
「予測?」
「ハンター協会では、深淵の発生予測も行っております。百パーセントではないですが、かなりの高確率で出現を予測出来ております」
「へえ」
これはゲームにはなかった技術だな。
リアルだと一般人が深淵に巻き込まれたら命に関わる。
予測出来たら事前に危険を回避出来るし、予測技術が生まれるのも当然か。
「深淵を予約していかれますか?」
「お願いします」
週末に出現するだろう深淵を抑えておく。
それにしても深淵を予約するって表現、すごいな……。
「――ってわけで、週末に昇格試験を受けられることになった」
「それは運が良いね」
「学校が終わったら、ダンジョンで連携のトレーニングをしないとだな」
「ははは。ほどほどにね。みんな疲れが溜まってるみたいだから」
「あー。少し考えとくか」
ゲームじゃ疲労度なんてパラメーターなかったから、うっかりしてた。
ここのところ学校終わりに三時間、休日は八時間ダンジョンに潜ってて、完全休日なんてなかったな。
なるほど。だからみんな不満顔だったのか。
「それにしても、深淵の出現率が上がってるって、少し不気味だね」
「ああ」
二年後半から徐々に上がるはずの深淵出現率が、一年の六月段階で既に上がってる兆候があるってのは、嫌な感じだ。
ゲームと同じように進行なら、弱い深淵ばっかで物足りないけど、安心は出来る。
だが深淵が多くなってくるとゲームのルートから外れる。
なにが起るかわからなくなるから、嫌だ。
最悪、すぐに魔王級が出現する可能性もある。
俺が深度EXに参戦出来るかは別として、万一魔王級を抑えられなかったらこの世界は再び『滅亡国家』になる。
嫌だぞ、魔王が暴れたせいで電気なし水なし生活とか……。
サバイバルには興味ないから、出来れば文明はこのまま維持していてほしい。
「話は変わるが、なんか空気が変じゃないか?」




