第34話 副委員長の……
「ふっ。案外テメェに愛想尽かしたのかもしれないぜ?」
「今日いきなりか? ありえんだろ」
「よく言うぜ。週末に鬼狩りやったろ。あれでテメェに付いていけねぇってなった可能性あんだろ」
「あの程度でか?」
「あの程度じゃねぇよッ! テメェはオレたちを何時間モンスターと戦わせたと思ってんだ!!」
「たった十時間ちょっとだろ」
「ちょっとじゃねぇよッ! テメェには常識ってもんがねぇのか?」
「休憩時間はたっぷりあげたはずだが……もっと欲しかったのか?」
「そうじゃねぇよ!」
「おかげでデイリーランク1位に二度も入れただろ?」
「た、たしかに……。いや、そうじゃなくてよ、あれだけの狩りをさせられて、もう付いていけねぇってなったかもしれねぇって言いたいんだよ」
「ふぅん。……お前はついて行けないなんて思ったのか?」
「いや、オレは特に。魔物をあれだけ倒せるようになったんだ。逆に充実してるくらいだ」
「だったら、他の二人も同じだよ」
じゃなきゃ、深淵に巻き込まれた後すぐ、二人揃って俺に師事しようなんて思わない。
あの一件で、どうしようもない理不尽をはね除けられる力が欲しいと思ったから、俺に声をかけたんだ。
多少訓練で辛い目にあったからって、逃げるような二人じゃない。
「仲間を舐めんな」
「……そうだな。すまんかった」
「そんじゃ、これからどうするかだな――ん?」
話がいったん落ち着いたところで携帯に着信。
メールか。ん? 見覚えのないアドレスだな。
「二人から連絡でも来たのか?」
「いいや。二人じゃない」
そう言って、俺は画面をレオンに向ける。
『決闘は本日十七時~訓練室で行う。時間までに現われなければ僕の勝利とし、西園寺さんと朝比奈さん、そしてレオンを【払暁の光剣】に入団させる。
君が悪行を素直に謝罪すれば、こちらも穏便にことを収めることを約束しよう。もしそうでなければ、この一件は学校長に直接上奏し、僕が自ら君への処罰を願い出る。
賢明な判断を期待しているよ。 一条肇』
「……はは、なるほどな。こりゃ傑作だ」
届いたメールを読むレオンの目に、みるみる炎が灯っていく。
「たしかにこりゃ、一条じゃねぇな。オレは小学に上がる前から一条とダチだが、あいつはどちらかってぇと奥手な奴だ。こんな自分勝手なこと言うような奴じゃねぇよ」
「なるほど」
「一体誰が裏について――こんなクソったれたことさせてんのか、確かめてぇなあ」
レオンが拳をボキボキと鳴らす。
少し前から、こいつは一条とほんのり疎遠になってた。
それでてっきり関係が途切れたのかと思ったが、案外友達思いの奴なんだな。
ってことは、むしろ一条側が離れて行ったのか?
……ん、もしかして離れさせようと画策した奴がいる?
「なあレオン。いいことを思いついたんだが、試してみないか?」
○
朝比奈萌木は西園寺エマと共に、とある部屋に押し込められた。
扉には外から鍵がかかっており、窓も鉄格子が填められている。
「この部屋はなんなんでしょう?」
「所謂反省部屋という場所だな。希に問題を起こす生徒を、ここに押し込めて反省を促すと聞いたことがある」
「まるで牢屋ですね……」
素手ではここから出られまい。
武器が入ったインベントリ・デバイスは、先ほど取り上げられてしまった。
この部屋に連行される時もそうだったが、力任せに抵抗すれば逃れられただろう。
それは萌木も、おそらくエマも理解していた。
しかし、実際には出来なかった。
というのも、二人は先日の驚異的なダンジョンハントで、位階がⅡからⅢへと上昇したばかりだった。
位階昇華して間もない頃は、身体能力が急激に上昇するため力をコントロールしづらい。
萌木は昨晩、ぼやっとしながら水を飲もうとして、うっかりコップを割ってしまったばかりだ。
幸い、コップは木製だったため(位階昇華したばかりなので、念のため変更しておいた)大事には至らなかったが、これが対人で起る可能性が非常に高い。
うっかり骨折させる程度なら、まだ良い方だ。
相手はまだ位階がⅠと思われるクラスメート。
万一妙な力の加わり方をすれば、あっさり命を奪ってしまう。
Ⅲになった萌木から見て、位階Ⅰはそれほどまでに弱く見えた。
故に、強く抵抗することが出来ず、この牢屋のような部屋に押し込められたのだった。
「これから、どうしましょう」
「なんとか颯と連絡が取れれば良いのだが」
「白河くん、決闘を申し込まれてましたけど、大丈夫でしょうか」
「深淵Ⅴを単独クリア出来る力があるのだ。颯は大丈夫だろう。それよりも……」
「私たち、ですね」
自分が足を引っ張る可能性がある。
二人の表情に、苦いものが浮かんだ。
「私だけなら良いのだがな。捕らわれたせいで、颯に迷惑をかけるとなれば……」
「悔しいですね」
白河は萌木を引き上げてくれた。
ほぼ全面的にバックアップして、最高の状態でダンジョンハントを行わせてくれた。
深淵に巻き込まれて助かったのも、位階が上がったのも、デイリーランク一位になったのも、全部白河のおかげだ。
今はまだ、貰ってばかりでなんの活躍も見せられていない。
にも拘わらず、彼の手を煩わせる状態に陥ってしまった。
「このままじゃ、悔しくて眠れなくなりそうです」
「同感だな。なにか出来ないか、部屋を探ってみるか――」
二人が動き出そうとした、その時だった。
「失礼いたしますわ」
金髪縦ロールの女子が入室した。
部屋に備え付けられた椅子を引き、扉の前で腰を下ろす。
スカートの中が見えるのも厭わぬほど、腿を持ち上げ足を組んだ。
「ふふふ。無様ですわね、西園寺委員長」
「…………誰ですか?」
萌木が首を傾げると、
「――ぶッ!」
「…………」
エマが吹き出し、縦ロールの顔面が引きつった。
「あ、朝比奈さんは転校されてきたばかりでしたわね。わたくしの名は阿――」
「うちのクラスの副委員長だな」
「なるほど、副委員長さんでしたか」
萌木は転校初日に(幸か不幸か)白河と関わってしまったため、クラスメートとの交流がほぼ断絶している。
そのため、副委員長の顔すらも覚えていなかった。
「わたくしは副委員長の阿――」
「それで副委員長。何しに来たのだ?」
「ぐ……、お、お二人の目を覚ますように仰せつかったんですわ」
「仰せつかる?」
「よろしくって? お二人は今、白河颯というケダモノに騙されているんですわ」
「けだもの……」
副委員長がポケットから、紫色の宝石を取り出した。




