第32話 決闘だッ!
「おじさんの判断は、少し厳しすぎると思う」
「そう、か。そう言ってくれるだけで気持ちが楽になるよ」
父との面談が終わった翌日。気分が持ち上がらない肇は学校で、友人の畠山に思わず気持ちを吐露してしまった。
本来なら、ハイクランの内部でとどめる話題だ。
だが、あまりに落ち込みすぎて誰かに打ち明けたくなった。
相手は畠山だし、こちらも名家の一員だ。
うっかり外部に漏らすことはないはずだ。
「そもそも、明らかにおかしいのは白河だろう? 16才で単身、深度Ⅴの悪魔を倒すなんて、普通じゃあり得ない」
「そうだよな。でもさ、父上は僕に〝普通じゃあり得ないことが出来るハンター〟になって欲しいのかなって」
亘の発言は、父としてはあり得ないが、【払暁の光剣】のマスターとしての発言と捉えるのなら、理解出来なくもない。
【払暁の光剣】はハンター黎明期から存在する名門中の名門だ。
先人達が苦難を乗り越え、数々の偉業を積み重ねてきた長い歴史がある。
このハンター界のトップに君臨するクランを受け継ぐのなら、先人の顔に泥を塗るような軟弱者ではないけない。
たとえ学生であっても、普通ではありえない功績を残せる人材でなければいけないのだ。
「父上はさ、僕に悪魔を倒して欲しかったわけじゃないと思う。ウツロビトを見抜いたり、ポーターの避難を誘導したり、勇気づけたり、そういう小さな活躍を期待してたのかなって……」
それならば、肇にも出来たはずだ。
後から思い起こせば、出来たことがいくつもあったと後悔している。
出来なかった原因は、白河だ。
あの時、初めは白河の怒声に反応して、冷静さを失った。
もしそこで冷静さを保てていれば、避難誘導くらいは出来たはずなのだ。
「情けない……」
「一条は真面目だな」
「そうでもないさ」
真面目だったならきっとあの日、父の前で白河を悪魔だと疑わなかったに違いない。
あそこで疑ったのは、これまで血のにじむ努力してきた自分よりも、派手な結果を出し続けている白河への嫉妬によるものだ。
他人の結果に嫉妬するような人間が、真面目であるはずがない。
「……駄目だね。ずっと良くないことを考える」
「そういう時は、パッと遊んで忘れるのが一番だ」
「うーん。それなら今日は放課後に新宿ダンジョンにでも行こうかな」
「『遊ぶ』の発想が、ダンジョン行きとは。やはり真面目じゃないか」
「修も一緒にいかないかい?」
「すまないが、今日も実家の仕事が忙しくてね」
「そうか。そういえば、修は入学してからまだダンジョンに行ってないんだよね? そろそろダンジョンデビューしないと不味いんじゃないかな」
「近いうちに仕事の隙を見てダンジョンに行くつもりだから、心配無用さ。おっと、噂の本人が登場のようだ」
教室に白河が現われた。
途端に、クラスが静まりかえる。
先週あたりまでは、その静けさには多くの蔑視が含まれていた。
カースト最底辺の男が調子に乗るなよ、というものだ。
だが今日からはいよいよ、その雰囲気が変化を始めた。
無理もない。
新聞では既に【払暁の光剣】の醜態と、それをカバーし窮地を救った白河の話題が報じられている。
また週末には彼と共に、【ラグナテア】のメンバーがデイリーランキング入りを果たしたとの噂も耳にした。
白河は粋がっている底辺ではなく、本物の実力者なのかもしれない。
そんな空気が、クラスには漂っていた。
「一条、これは小耳に挟んだ噂なんだが……」
「なにかな?」
「白河のクラン【ラグナテア】には、彼の友人男子二人と、西園寺さん、それに朝比奈さんが所属している」
「そう、なのか」
初耳だった。
そもそも、白河のクランなどには全く興味がなかった。
たしかに十六才でクランを立ち上げることは凄い。
だが肇は――【払暁の光剣】は、新規や弱小クランが見えるような場所にはいない。
故に、半ば意識的に無視をしていた。
「その中に、どうやら千葉が加入したそうだよ」
「レオンが!? どうして……」
「さてね。千葉は白河を蛇蝎のごとく嫌っていた。自ら進んで加入したとは考えられないね」
「たしかに僕もそう思うけど……それで?」
「あくまで噂だけどね。西園寺さんといい、朝比奈さんといい、よもや裏で脅されてるんじゃないかって」
「それは……」
たしかに、それならレオンがクランに加入したことにも頷ける。
彼もまた【払暁の光剣】のメンバーを親に持つ仲間だ。
本人が希望すれば【払暁の光剣】に入れるのに、あえて弱小クランに入る意味がない。
レオンが白河のクランに入団したのが、脅迫のせいだとすれば辻褄は合う。
畠山と目が合った。
その黒い瞳に宿る力に、胸がカッと熱くなる。
まるで『親友を取り戻そう!』と言われている気分だった。
父のことで落ち込んでいた気分が、急激に上昇。
体中がみるみる熱くなる。
「といっても、これはあくまで噂だ。本当のことかどうかは――」
畠山の話はもう、耳に入らなかった。
悪は絶対に許さない。
それは、肇が幼い頃からたたき込まれた家訓でもある。
『正義は人類にあり。悪は絶対許すべからず。
我らハンターは闇を払い、人類の払暁を示す光の剣となるべし』
つかつかと白河の席まで歩いて、肇は高圧的に切り出した。
「白河くんは近頃、西園寺さんと朝比奈さん、それにレオンを連れ回しているようだね?」
「つ、連れ回す……?」
「惚けないでもらおうか。君が三人を〝無理矢理〟連れ回しているという噂が流れているよ」
「…………」
呆気にとられたように、口をぽかんと開いている。
まさか、こんなにも早く悪事が露見するとは思っていなかったか。
「どのような脅しをかけているかは知らないが、三人を解放してもらおう!」
「ええと……ちょっと待ってくれ。三人は自分の意思でクランに入ったわけで……」
「そうすることしか出来ないように仕向けたのであれば、三人の意思とは言えない!」
白河颯。
彼が何故、いきなりここまで強くなったのかはわからない。
もし悪魔から力を借りたのだとすれば、今、この場で白日の下にさらしてやる!
「白河颯。三人の所属をかけて、決闘を申し込む!!」




