第29話 素直に謝れなくて……
「これ以上、俺の顔に泥を塗るな」
「す、すみませんでした」
「白河くん、うちの若いのがすまなかった」
「いえ」
「ウツロビトの素材だけれど、すべて君に返そう」
「いえ。それはそちらで受け取ってください」
「そういう訳にはいかないよ。ハンター協会では、討伐した者に所有権があると決まっているからね」
これ、あからさまに貸しだよなあ。
元々は【払暁の光剣】が担当する深淵だった。
そこに無理矢理ねじ込まれた俺が、成り行きで悪魔を討伐したからって、素材まるごと俺のものになるのは筋が違う。
にも拘わらず俺に受け取れというのは、『今回はこれで収めてあげよう』という譲歩――俺への貸しだ。
ハイクランに貸しを作るのは面倒だなあ。
ハンター協会に、正式に素材の権利放棄を主張するか?
さてどうしよう。
ちらり西園寺のオヤジを伺うと、目だけで頷き首を振る。
受け取れ、断るな……か。
オヤジから見ても、ここは受け取らないと不味いらしい。
「……わかりました。有り難く頂戴いたします」
「納得してくれてよかった」
「それじゃ、俺はこれで失礼します」
「また会える日を楽しみにしているよ。工藤、二人をお送りしなさい」
「はっ!」
工藤に連れられテントの外へ。
ふぅ、外の空気がうまい!
「迎えに来るのが遅れて済まなかったな」
西園寺のおっさんが息を吐いた。
前に会った時より、やけにくたびれて見えるな。
「一条を捕まえるのに時間がかかった」
「いや、おかげで助かった。マスターが来なきゃ俺はあのままずっと拘束されてだろうな」
「そう言ってくれると助かる」
黒塗りの車に乗車する。
うお、これロールスロイスじゃね!?
天井の装飾が星空みたいにキラキラ光ってる。
無駄にすげぇ。
「さて……」
シートベルトを装着した輝元は、頭を必死に働かせる。
深淵の深化は事故だ。誰にも責任はない。
しかし白河を深淵に送り込んだのは輝元だ。
本来なら遭遇せずに済んだ事故に巻き込んでしまった、という意味での責任はある。
そのため、早々に謝罪を切り出そうとしたのだが……、
(あれだけ偉そうにふんぞり返ってた奴が、どんな顔してごめんって言えばいいんだよ!?)
困ったことになった。
エマの父親として、西園寺グループの長として、偉大に見えるよう振る舞ったツケが、大きく跳ね返ってきた。
ここで頭を下げれば、今後白河は輝元を、その程度の男だと思うだろう。
エマと同級生で、かつ大切な愛娘に寄りつく羽虫になる可能性がある奴に、頭を下げるか?
いやいや、トップは頭を下げるのも仕事のうちだ。
ここはぐっと恥を忍んで、頭を下げるべきである。
(しゃーねぇ。一瞬で終わらすか!)
気合いを入れて頭を下げようとした時だった。
「深淵に送り込まれて、なにをさせたがっているのか、ずっと考えていたが……まさか、エマのオヤジがここまで考えていたとは……」
「……む?」
「一体、どうやって深淵が深化することを前もって予知出来たんだ?」
「…………へっ? そ、それは――」
「ああ、言わなくてもいい。特殊スキルは黙秘が基本だからな」
「い、いや、そういう訳じゃ――」
「それと、あえて何も言わなかったことも納得した」
「えっ?」
「わざと情報を伏せていたんだろ? 危険な深淵に送り込み、突発的な出来事にどう対処するかで、クランマスターとしての真価を図ろうとした。そんなところだろ?」
バカなッ!
思わず声を上げそうになる。
(そんなこと微塵も考えてねぇよ!!)
単に、世間知らずの小僧をハイクランに送り込んで、格の違いを見せつけたかっただけだよッ!! ――とは言えない。
そんな情けないことを、言えるはずがなかった。
「実は何の考えもないんじゃないかって思っていたんだが――」
「――ッ!」
ドキッ。
白河の図星に近い台詞に輝元の鼓動が一瞬止まる。
「実際は、全然違った。さすが西園寺グループの長だな。見くびって済まなかった」
「え……あー、うん」
何故か、逆に頭を下げられてしまった。
(まさか、皮肉か?)
自分の浅ましい考えを見抜かれた上で、わざと持ち上げることで揶揄しているのかと思った。
だが、白河の瞳には輝元を蔑むような色は一切ない。
それどころか、尊敬のような、キラキラとした光が見える。
(何故こうなった……)
このまましらばっくれれば、出来る親父としての威厳が保てる。
だが、この勘違いを放置して良いだろうか? とも思う。
もし今後似たような事件が起ったら、あっさり輝元の馬脚が露呈するだろう。
さっさと誤解を解いて頭を下げるに限るのだが……、
(くっ! こんなにキラキラさせた目で見られちゃ、謝るに謝れねぇッ!!)
誤解を解く勇気は、残念ながら持てなかった。
このまま話を続けるのは、いくらなんでもいたたまれない。
輝元はなんとか話題を切り替えるのだった。
「にしても、Cチームが全滅させられる悪魔を相手に、よく生きて帰ってこられたな」
「まあな」
俺も驚いたわ。
ただ、偶然であれ深度Ⅴが経験出来たのは良かった。
武具の性能は高いが、中身が足りていない。
特に魔法の展開が、悪魔の回避速度についていけなかったからなあ。
急ぎ、位階を底上げしたい。
「おい小僧――いや、白河颯」
「ん?」
おっさんがごつい手を差し出してきた。
「手を取れ」
「いきなりどうした?」
「今、お前さんの目の前には西園寺グループの会長の手がある。これはな、クランマスターが、喉から手が出るほど欲しがるもんだ」
おっさんの手が欲しい奴いるか?
なんて思わない。
手は比喩だ。
この男の手には、何十億という価値がある。
「これを繋ぐ意味は、説明しなくてもわかるだろ?」
西園寺グループが正式に、俺のクランの後ろ盾になるってことだ。
正直、後ろ盾なんて必要か? って思ってたが、今回の一件で重要性がよくわかった。
実際このおっさんがいなきゃ、俺はずっとテントに拘束されてた。
積極的に問題を起こすつもりはない。
だがこちらが避けても問題が突っ込んでくることもある。
なにかあったときの保険は、あるにこしたことはない。
「いいのか? お前は俺に反発してただろ」
「これでお前さんを認められねぇなら、即隠居したほうが健全さ」
「ふむ」
「あとは、罪滅ぼしみてぇなもんだ」
「む? どういうことだ?」
「ああ、いや、こっちの台詞だ」
「そうか。エマのことはどうする」
「俺のエマチを名前で呼ぶなクソガキ! ……エマチが所属するから、お前さんのクランに協力してやるんだ。勘違いすんなよ?」
「……な、なるほど」
おおう……。
エマって、西園寺グループの後ろ盾を得るためのキーパーソンだったのか。
SSR萌木だけ手に入れようと、エマを切り捨てなくてよかったぁ!
西園寺輝元の手を握る。
「宜しくな、会長さん」
「っへ。エマチのためにこき使ってやるから覚悟しとけよ」
こうして西園寺グループは、【ラグナテア】の後ろ盾になった。
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TIPS
・この車いくらなんだ?
西園寺輝元専用の社用車
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