第19話 希望はありますか?
ダンジョンに行く前にここに寄ったのは、二人を勧誘するためだ。
順番的にダンジョンから帰ってきてから誘ってもいい。
だがどうせ二人を『育成』するなら、クランに加入させてからのほうがモチベが上がる。
「ええと……待遇を明記した契約書はあるか?」
「契約についての細かい部分は丁度今、安達が詰めてるところだ。逆にいえば『今加入するなら、契約に希望を盛り込みやすい』ぞ」
「なるほど。クランの方針の草案は?」
「ざっくりだが、方針は『より多くの深淵をクリアする』ことだな。報酬は一度の狩りの売り上げ6割を、ハンターのランクや役割によって按分する。残りの4割は、クラン維持費と福利厚生に使う」
「そういえば安達さんや三浦くんは? 一緒に魔物と戦うのか?」
「いいや、事務要員だ。二人の給料は、維持費から出す」
安達は無理として、三浦もぶっちゃけ見込みないからな。
無理に連れ回して怪我させたら俺のメンタルが病みそうだし。
「安達は事務処理で、大斗は護衛になってもらおうかと思ってる」
「なるほどな」
「すごい、いろんなことを考えてるんですね」
エマは大財閥の令嬢らしく、真面目な顔で何度か頷いた。
萌木は目を丸くして感嘆するも、たぶん何もわかってないな。
「私は是非、クランに所属したいです!」
「おっけー。朝比奈さん、これからよろしくな」
よっしゃ!
SSRヒーラーゲット!!
「私も加入したい! し、しかし……」
「どうした?」
「い、いや、なんとかするのだ。加入、認めてくれるな?」
「おう。エマも宜しくな」
「宜しく頼む」
エマもゲットだ。
こいつはゲームには登場しないが、センスは高そうだったし、鍛えたら案外良い線行くかもしれない。
「加入を決めていただいたお二人には、さっそく契約内容の要望を聞いておこう」
「おい白河、オレは要望を聞かれた覚えがないんだが?」
「……聞く必要あるか?」
「テメェッ」
レオンのこめかみがビキビキしてる。
怖い怖い。
「お前どうせ『強くなるために協力しろ』とかそんなことしか言わないだろ?」
「……うっ、いや……あー、他にも、いろいろ、だな……その……」
「ほらな。だから聞かなかったんだよ」
当然ながら、レオンは最重要強化ハンターだ。
これからダンジョンや深淵を引きずり回すつもりだ。
安心しろレオン。
泣いても叫んでも地獄に連れて行くぞ。
よかったな。
「私の要望は……」
「やっぱり、アレがいいんじゃないですか?」
「ああ、たしかにそうだな」
「ん、アレ?」
「もう少し、クランハウスらしい家具を用意するべきなのだ!」
「シャワー付きの更衣室も欲しいです」
「お、おう……」
「家具はきちんと一流どころで揃えないと、来客に舐められるぞ!」
「冷蔵庫や電子レンジも用意してください」
「そもそも客が来ているのに茶も菓子も出ないとは何事なのだ!」
「洋菓子和菓子、それぞれ取りそろえておいた方が――」
「茶葉はフォートナムメイソンと相場が決まって――」
「ソーサーやコースターは――」「銘々皿や菓子盆は――」
出るわ出るわ。
二人の口から要望の雨あられ。
でも確かに、二人に言われて気がついた。
クランハウスって、みんなの共同事務所なんだな。
完全に柔道とか剣道とかの、稽古部屋をイメージしてたわ。
こういう部分は、ほんと女子が強い。
いや、俺が弱すぎるだけか?
一応資金はあるし、内装面はある程度二人に任せても良いかもしれないな。
『マスター、マスター。ワタシはドローンを所望します!』
エルドラが、どさくさに紛れておねだりしてきた。
こいつも欲しいものとかあるのか。
「あっ、エルちゃんだ、こんにちは」
「この前の深淵以来だな」
『朝比奈さんに西園寺さんですね。お久しぶりです』
エ、エルちゃん?
鉄の塊がそう呼ばれると、違和感すごいな。
「……ドローンなんて買ってどうするんだよ」
「颯は知らないのか? ダンジョンや深淵では、偵察用ドローンを利用するのだぞ」
「そうなのか」
「万が一奇襲を受けても、命を落とさずに済むからな」
「なるほど、たしかに」
デバイスでドローンを検索。
ハンター専門店にアクセスして、ドローンページにアクセス。
安い順にソートする。
「うげっ。一番安くて一機一千万……」
アホか。
いくらなんでも高すぎるわ!
「ハンター向けなら大体それくらいするぞ。魔物素材も使用しているし。それでも一千万なら、出来ることは少ないだろうし、帰還率も低そうだな」
「オレも親父から聞いたことがあるが、一億超えのドローンを十機飛ばすらしい。それくらいの価格じゃねぇと、魔物に追いつかれるか、カメラが欺かれて意味ねぇんだとさ」
「お、おう……」
下手したら戻ってこない可能性もあるんだろ?
それを一回の戦闘で、10個飛ばすとか……。
すげぇなハイクラン。
「一番安いものでも、さすがに予算オーバーだ。今後、深淵を定期的に攻略出来るようになったら考えてもいいが、今はまだ――」
むっ……。
そういえば、手元にまだ使ってないペットアイテムがあったな。
エルドラよりレア度は下がるが、一応課金クジから出てくるレアアイテムだ。
その中で、エルドラと同じマシン系を三つ取り出す。
「エルドラ。これ使えるか?」
『少々お待ちください』
エルドラが体から管を出し、俺の手のひらにある丸い玉にそれぞれ差し込んだ。
HDDが動作するようなカリカリ音が二十秒ほど聞こえた後、エルドラが管を引いた。
『掌握完了いたしました。マスター、素敵なプレゼントをありがとうございます!』
すると、三体の玉が浮かび上がり、喜ぶようにクルクルと回る。
「お、おう。ところでそのドローンはどう使うつもりなんだ?」
『監視の範囲を広げようかと思っています』
「監視なら、いまでも十分じゃないのか?」
『いいえ。マスターを護衛する都合上、ワタシの〝視野〟には制限が生じます。ですので、より広範囲を監視出来る〝目〟が欲しいと思っておりました』
「ふむ、そうか……」
たしかにレオンをクランに勧誘した日、エルドラでも俺を監視してた人物の居場所特定までは出来なかったもんな。
今後、ただのハンターじゃなくクランとして活動する以上、何らかの探りや邪魔が入る可能性は否定出来ない。
出る杭は打たれる運命だからな。
安全・防衛対策は万全にしておいたほうがいいだろう。
「それじゃあ、監視のほうはエルドラに任せる。なにかあったら適宜対応・報告してくれ」
『承知しました』
「さて、それじゃあダンジョンに行くか」
「了解なのだ」
「はい!」
勧誘が無事済んでほっと一安心。
これでメンバー育成にやる気が出るってもんだ。




