第17話 得意な武器だから
「……なあ白河。どういうことなんだ?」
「どう、とは?」
「俺がここまで戦えるなんて、あり得ない。手を抜いたのか?」
「そう見えたか?」
白河の表情にはさきほどまでの余裕が見られない。
これで実は手を抜いていたのなら、天性の役者に違いない。
大剣でまともに戦えたのは、相手がギアを下げたからではない。
自分のギアが大きく上がったからだ。
とはいえ未だ彼我の差は大きい。
おそらく命のやり取りであれば――白河は魔法弾しか使っていない!――一瞬で片がつくだろう。
しかし、鉄拳を扱っていた時ほどの絶望は感じなかった。
「この大剣が特別製なのか?」
「いや、その辺で売ってる普通の大剣だ」
「マ、マジかよ。オレの鉄拳、一流の技術者に作ってもらった一点物だぞ。バフだってかなり盛り込まれてるはずなんだが……」
「それくらい、お前と鉄拳の相性が悪いんだよ。お前には、大剣使いとしてのずば抜けた才能がある」
相性程度のことで、ここまでの差が生じるなどレオンには考えられない。
ただ、これほどの能力の変化を説明出来るのは〝相性〟しかないのも事実だ。
「……親父が鉄拳使いだから、オレも鉄拳に才能があるとばかり思ってたんだけど、まさか大剣だったなんて」
「今まで誰にも指摘されなかったのか?」
「ああ。大剣が合うなんて聞いたこともないな」
「親に鉄拳を推奨されたか?」
「いや。あー、そういや、家庭教師はオレに鉄拳を薦めた気がする。親父が鉄拳使いだから、息子のオレも才能があるはずだ、とかなんとか」
「ふむ……」
「……そうか。オレにもちゃんと、才能があったんだな」
まだ、大剣の感覚がじんわり残る手を、強く握りしめる。
ここまで出来るなら、学校を辞めるのはやめにしようか。
「千葉。今後の鍛錬だが、念のため家で大剣を使うのは辞めたほうがいい」
「それはテメェに指摘されるようなことじゃねぇだろ」
「そういうなら、止めないがな。どうなっても知らんぞ」
「……なんだよそれ?」
尋ねるが、白河はなにも口にしない。
その様子には、レオンの才能を見抜いた見返りや、常に上に立ちたい願望のようなものはない。
怒り、あるいは憎しみのような気配を感じ、レオンの背筋がぶるりと震えた。
「テ……テメェの言うように家で大剣を使わないとして、だ。じゃあオレはどこで稽古すりゃいいんだよ?」
「それなら、いい場所があるぞ。最近立ち上がったばかりのクランなんだが、メンバーを募集中でな。クランハウスには訓練出来るスペースが一応ある。メンバーはお前と同じ年齢で、気を遣うこともない」
「お、おい、まさかそれって――」
白河がこちらの目をまっすぐ見て、ニッと笑った。
その顔はレオンが初めて見る――嫌味はなく、挑発もなく――学友としての素直な笑顔だった。
「どうだ、俺のクランに入らないか?」
○
千葉の家を出たあと、俺は足早に右、左へと道を適当に曲がりながら進む。
来たこともない繁華街に出て、人混みに紛れたところで、そっとエルドラに尋ねる。
「誰も付いてきてないか?」
『はい。こちらに意識を向ける生体反応はありません』
「……よし」
そこでやっと緊張を解く。
制服の内側に隠していたレギオンも、インベントリに収納した。
「ふぅ。めっちゃ緊張したわ」
千葉の家、監視がすごすぎて胃が爛れそうだった。
監視カメラだけじゃなくて、結構強そうなハンターも常駐してる気配があった。
さすがはハイクラン、サブマスターの家だけはある。
きっと家の中に、とびっきりのお宝があるんだろうな。
別に興味ないけど。
千葉の家に乗り込めたのは、その手の監視が緩んだからじゃない。
エルドラの力でごり押ししたからだ。
もしエルドラに光学迷彩機能や、監視カメラへのハッキング能力がなかったら、間違いなくお縄だった。
『マスターは、何故あの千葉というヤカラに手を差し伸べたのですか?』
ヤカラ言うなよ。
たしかに、アイツからは喧嘩を売られた記憶しかないが……。
「手を差し伸べるつもりはなかったんだけどな。なんかいろいろ腹立って、気づいたらクランに誘ってた」
初めは、単純にプリントを届ける役目に抜擢されたから、仕方なく家に行っただけだ。
担任から様子を見に行けって言われても、一条も畠山も手を上げなかったのは、可哀想だなとは思ったが……。
プリントを届けるついでに、生きてるか様子を見るか程度の気持ちだった。
でも、レオンが鉄拳を取り出した時、違和感を感じた。
キャラクターには必ず、武器の相性がある。
得意武器を使えばステータスが大幅に上がり、不得意武器を使うと逆にステータスが大幅に下がる。
ゲームじゃ、レオンははじめから大剣使いだった。
大剣以外の武器を装備するとマイナス補正がエグくて、位階が育ちきってても大剣以外を使うと、深淵Ⅰですら負けるレベルだった。
なのに、鉄拳を使っていたのは明らかにおかしい。
授業で戦った時も弱すぎたし、鉄拳を装備してからはもっと弱くなってた。
試しに大剣を持たせてみたら、もはや別人ってくらい強くなった。
正直、肝が冷えた。
いや、実力的には大差が付いてんだけどな。
ただあの時は、五十キロのゆるゆるボールしか投げられない奴が、突如百五十キロの球を投げてきたみたいなもんで、急激に動きが良くなったからめちゃくちゃ焦った。
これほどの才能があるのに、周りの誰もが気づかなかった――なんてことはあり得ない。
おそらく意図的に、レオンの才能を潰しにきた奴がいる。
それが、すごく腹立たしい。
俺が使い込んだSSRキャラが、クズハンターのまま不当にこの世から抹消されそうになってるなんて、絶対に許せない。
ほんと、なんでこんなことするかね?
まっすぐ育てば、間違いなく日本の未来に資するハンターになるのに。
似非教師が深淵を生み出したことといい、レオンに不得意武器を使わせてたことといい、ここはゲームのイベントとは違うなにかが起ってる。
「面倒な問題が起らなきゃいいんだが……」
もしくは、俺に面倒ごとが降りかからなければオッケーだ。
クラン立ち上げたばっかりだし、使えるSSRキャラもゲットした。
このまま誰にも邪魔されず位階を上げて、魔王に挑戦したい。
そんな俺の願いは、残念ながら神様に聞き届けられない。
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TIPS
・得意武器、不得意武器
キャラクターには武器種によって、得意・不得意がある。
得意武器を持つとステータスが上昇し、不得意武器を持つとステータスが低下する。
得意不得意による補正は、キャラクターのレアリティによって変化する。
SSRキャラだと大幅な補正がかかるが、Nキャラだと小幅な補正に留まる。
この設定を利用して、Nキャラにあえて不得意武器を持たせ、通常とは違う役割(職業)を担当させる方法がある。
本職よりは劣るが、装備や位階によっては一線で十分活躍出来る。これは強キャラが揃わない無課金プレイヤーへの救済システムになっている。




