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発売日記念!連続投稿です。
「すみません、取り乱してしまいました。もう大丈夫です」
「仕方がないさ。理解はするよ。さて、これからヴェーラの確保をするとしよう」
師匠の言葉に私や周りにいた騎士が軽く頷く。師匠の指示で小屋の周りを取り囲み、合図と共に扉が蹴り破られる。
「王宮騎士団だ! 大人しくしろ!」
「ちっ、違う! 俺たちは、何もしてねえ!!!」
ヴェーラの状態はというと、簡素なワンピース姿だがあちこちに痣の痕がある。長かった髪も切られたのか右側だけが歪に短くなっていた。そして私たちを見つけた途端に声を張り上げた。
「お前たち! 早く助けなさいよっ!! 私が誰だか分かっているんでしょう? 早く」
行方不明になって日が経っているというのに彼女の癇癪は留まることを知らないようだ。
私はそのことに違和感を覚えた。
騎士たちは元気なヴェーラより先に監禁していた男たちを取り囲んだ。
無抵抗の男たちが手を挙げて騎士たちに引っ張り出されたその時。
パチッと何かがヴェーラの近くで光った。
「……ああああぁっ。痛いっ。痛いっ。痛いわ!! グッ」
傷だらけのヴェーラの首元から勢いよく魔力が吹き出している。
「チッ。魔獣になる。離れろ! 全員退避だ」
師匠が叫んだ。
騎士たちは男たちを引っ張り、小屋から全力で走り、距離を取る。私も巻き込まれないように全速力で走る。
「グォォォ!!!」
雄たけびをあげたと同時に小屋が吹き飛んだ。
爆音に振り向いた私は自分と騎士たちの周りシールドを張り、寸前で小屋がぶつかってくるのを回避できた。
瞬時に判断出来た私は偉いと自画自賛しておくわ。
「師匠! ヴェーラが魔獣に」
「ああ。一足遅かったな。もう人間には戻らないだろう。全員攻撃準備に入れ! これより魔獣討伐に切り替える」
「ハッ!」
流石本業。
騎士たちは剣を抜き、魔獣へと攻撃を始めた。私は魔獣に魔法攻撃をするけれど、元ヴェーラは魔力が高いため魔法耐性は高い。
どうやら前回私が倒した時よりも強化された魔獣のようで魔法攻撃は殆ど効果がないようだ。
攻撃している騎士たちもブロル元総長のように一刀両断とはいかないようで何度も斬りつけている。
私は攻撃を諦め、騎士たちに攻撃力の強化や防御力の強化などの補助魔法を中心に魔法を掛けている。
さっきまでの頼もしさは何だったのか、師匠は座って報告書を読んでいる。
「師匠も手伝ってく…」
ださいと言おうとした瞬間。
ドォンという爆音と共に言葉を失った。
爆音と共に現れたのは過去に見覚えのある三人の男。
そしてこと切れた魔獣の姿がある。
……あの男たちは。
私は立ち上がった師匠の後ろに飛び込むように隠れた。一瞬にして魔獣を葬り去ったあの男たち。
「遅かったね」
「リツィード様が無茶なことを言うからですよ」
「暇を持て余している君たちにはちょうど良かっただろう?」
「おかげでこちらも死にかけましたよ」
「大丈夫だ。生きているだろう?」
「全く、貴方という人は。ここにサインを」
師匠がサインをすると彼らは会釈をした後、暴風のようにまた飛び去っていった。
「し、師匠。あれはワズルガード、ですよね」
「ああ。君とランドルフの心の敵だ。彼らは職務に忠実だがね。君たちの気が少しでも晴れるように彼らには重い任務に当たってもらっていたんだ」
「そうなのですね」
師匠なりに私たちに気を配ってくれていることがジワリと心に浸みてくる。
「彼らは何をしていたのですか?」
「ワズルガードには君の報告書を元にして脱獄をさせた男が所属している組織の壊滅。全ての組員の生け捕りだ」
「……凄い」
「本来なら陛下の命令しか聞かないんだけど、今回は特別にね? さ、帰ろうか」
「はい!」




