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ブロル元総長の言葉を思い出し、逸る気持ちを抑えて今後の予定を立てていく。様々な場所で脱獄を手引きした男の魔力の捕捉を始めた。
一日目、二日目と街中を歩き回り、メモを取っていく。
魔力が枯渇するまで繰り返した後、寮に戻って資料を作成する。いくつか怪しい動きをしている魔力を感知した商会があった。
師匠にそのことを報告するとすぐに返事が来た。
『ユリア、助かるよ』
『私の集めた情報はどうするのですか?』
『ああ、別の隊が引き継ぐことになる。手引きした組織の方を引き当てるとはね。ユリアはやはり優秀だな』
魔力も相当消費していたため、今日は休むことになった。
翌日の早朝、師匠から伝言魔法が飛び込んできた。
『ヴェーラの足取りを別の方面から追っていてようやく見つけたようだ。すぐに向かうように』
『わかりました』
私は早速王宮へ行ってみると既に師匠から話が通っていたようで私と一緒に行動する騎士と幌馬車に乗り込み、ヴェーラの元へ向かう事になった。
馬車は王都の街を出て何処へいくのだろう?
御者の話では進んでいる方向はレイン侯爵家の領地のようだ。何か関係あるのかしら?
師匠は今手が離せないようで私が現地に着くころには合流できそうだと言っていたわ。
師匠に王都を出て目的地に向かっていることを報告すると『現地に着いたらすぐに連絡するように。ここからは一人で先走ってはいけない』と指示があった。
確かにそうよね。
組織が関わっているだろう場所に一人考えなく突撃したら全てが水の泡になってしまうもの。
護衛してくれている騎士は私がここまで一人でこれたことを優秀だと褒めてくれたわ。騎士の話では先に現場で待機している騎士たちがいるらしく、見張っているのだとか。そこへ合流する形をとるのだろう。
私が到着したのは出発してから丸一日過ぎた頃。
ここはレイン侯爵家の領地の一番端で侯爵家としても領地外だと言われても仕方がないほどの端の場所にある物置小屋。
人が住むような場所では到底ない。侯爵家が関わっているのか微妙なところだ。
『師匠、ヴェーラがいると思われる物置小屋の付近に到着しました』
『分かった。こちらも手が空いた。今そちらへ向かうからその場で待機しておいて』
伝言が返ってきてほどなく師匠が転移をしてきた。
「ユリア、君が書いた報告書はとても良いものだったよ」
「本当はどうすれば良いか全く分からなくて途方に暮れていたんです。それで、ブロル元総長に相談したらこうすればいいんじゃないかと教えて貰ったんです」
「そうか。ブロル君が教えたか」
師匠は頷いている。良かった。小言は言われないらしい。
「さて、ここからが本番だ。彼らは場所を転々とした後、ここに来て数日は経っているんじゃないかという話だった。連れてきた男たちは誰かと交代したようで、今は別の男たちがいるようだ。状況を確認した騎士の話ではあまり良くないな」
ヴェネジクト家の依頼でヴェーラを潜伏させるにはあまりに小さい小屋だ。どちらかといえばヴェーラは監禁されているのではないかしら?
「ヴェーラが数日間ここに監禁されているということは……」
嫌な予感しかしない。
私がされたような事が起こっているのだろうか?
バクバクと心臓が五月蠅い。
「ユリア、こっちを見ろ。大丈夫、落ち着くんだ」
師匠がグイッと私の顔を自分に向けて目が合うようにする。
「……はい」
師匠の言っている事は充分に理解しているつもりだった。あの時を思い出し、自分の感情が爆発しそうだったことを反省する。感情で動いてはいけない。
あの時の自分とは違う。
あの女は私を貶め、ランドルフ様の心を壊し、令嬢や護衛騎士を殺している。
私は大きく息を吸って落ち着きを取り戻した。
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