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Cランクの魔獣五体を倒している最中、父から伝言魔法が届いた。
『ユリア、今何処にいるんだ?』
『あら、お父様。おはようございます。今はケルンの街から出た所です』
『はぁ? ケルン?? 邸にいないと思ったら……。早く帰って来なさい』
『無理ですわ。今週一杯旅行を楽しむので帰れません。すぐに帰れる距離じゃないことはお分かりでしょう?』
『……王宮からの呼び出しだ。すぐに帰って来なさい』
『何度言っても無理な物は無理ですわ。私は学生ですから転移魔法は使えないですし、ジャンニーノ先生でも二人で帰るには距離がありますもの』
だからわざわざ遠い所まで夜通し飛んできたのだ。
『……仕方がない。王宮には知らせを出しておく。王都に戻り次第すぐ家に戻りなさい』
『わかりました。早めに帰れるように頑張りますわ』
そう言って会話を終わらせた私。
もちろん言われたからといってすぐに帰る気はない。学院が始まるまでの残り僅かな余暇を精一杯楽しむつもりなの。
雑音が無くなり、気ままに依頼をこなしていく。
「依頼完了のサインをお願いします」
「本当に助かったよ。ありがとう」
ケルンの街の依頼は終わった。次はノトの村。さすがに移動で疲れたので今日はこのまま宿を取り、明日移動することにした。
翌日は歩いてノトの村へ向かい、半日ほどで到着。その後、すぐに依頼をこなし完了のサインを貰ったわ。
Cランクともなるとそこそこ強い魔獣討伐が出てくるので長期間残っている依頼も結構あるの。
王都から遠い村や街は特にそうだ。気分は上々!
こうして四日間移動と依頼をこなして泣く泣く帰路に就いた。
王都に着くと門の前で止められ、門番が何処かに連絡しているようだ。
すぐにジャンニーノ先生が飛んで来たのには驚いたわ。
「おかえり。旅行は楽しめましたか?」
「えぇ! とっても! このまま王都に帰らなくてもいいかなって……」
「そうなれば大問題ですよ。陛下がお待ちです」
「先生、待って。ギルドに報告していないから先に依頼完了してきます」
「……まさか討伐の旅に?」
「えぇ!」
ジャンニーノ先生は呆れている。その間に私は走ってギルドへ向かった。
「すぐに戻ります」
どうやら目を離しては駄目な子扱いで先生はすぐに追いかけてきた。
私は依頼完了してお金を受け取った。
「ふふっ。いい稼ぎ!」
この貯まった金貨で何買おう? と妄想の国に出掛けようとしていたのに先生に呼び止められる。
「さぁ、王宮に向かいますよ」と。
がっかりしながら王宮に向かった私。旅装のままでいいのか聞いたけれど、あちらは随分待っているのでこのままでいいらしい。
チッ。私は魔獣の頭蓋骨を寮に魔法で送った。さすがにあの格好で陛下に会うのは不味いもの。
先生に連れられ向かった先は陛下の執務室だった。
「ユリア・オズボーン伯爵令嬢をお連れしました」
「うむ。オズボーン伯爵令嬢、先週の舞踏会でランドルフや令嬢達を守ってくれたと聞いた。改めて礼をいう」
「いえ、ランドルフ殿下を守るのは臣下の役目ですから。当然の事をしたまでですわ」
「褒美は何がいいかの?」
「……褒美、ですか? 私、旅行が好きで今回も舞踏会後から旅行で王都を離れていました。他国へも旅行にいきたいと思っています。自由に国外へ移動できる許可をお願いしたいですわ」
「ふむ、そうじゃの。許可したいが、例の件、実はまだ犯人が捕まっておらんのだ。またランドルフが狙われるやもしれん。犯人が捕まり、王宮内が平和になれば許可してもよい。それまでの間、ランドルフの警護にあたってくれんかの?」
「申し訳ありません。ランドルフ殿下の警護は私には難しいと思います。陛下の元に報告が上がっていると思いますが、前回陛下からの褒賞の件で呼ばれた時、私は王宮で倒れております。
いつ発作を起こすかも分からない状況では殿下の足を引っ張りかねないのです。どうか、ご容赦下さい」
ずっと側にいると考えたら精神が持たないわ。倒れる事間違いなし。本来断ってはいけないのだけれど、こればかりは駄目でも断り続けるしかない。
「そうか。同じ学年であるから良いと思ったのだが病気なら仕方がない。
王宮の医師達の報告では精神的な負担が掛かり倒れたとあったが、実のところどうなのだ? 幼少期から精神的なものということは伯爵が原因なのか?」
「いえ、家族に問題はありません……」
「ではその他の原因、とは何だ?」
「そ、それは……」




