40
翌日、朝から侍女達は汗を掻きながら私のドレスを着せ、髪の毛を整えて化粧をしていく。
久々に鏡に映った自分の姿を見て過去を思い出した。
「お嬢様、顔色が悪いです。少し休まれますか?」
「……えぇ。大丈夫よ。そろそろ時間でしょう?」
侍女は果実水を渡してくれる。あの時とは違うわ。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせて立ち上がり、玄関へ向かった。
「お待たせしました」
どうやら私が最後だったようだ。
「ユリア様、とても美しい。エスコート役に選んでくれたことを幸せに思います」
「ふふっ。ジャンニーノ先生、今日は宜しくお願いしますね」
「ユリア、良く似合っている」
父が珍しく褒めている。
「お父様、有難う御座います」
ジョナス達は私に口を縫われたくないのか二人とも黙っていた。
母はジャンニーノ先生に褒められて上機嫌のようだ。
馬車は四人乗りなので私とジャンニーノ先生は二台目に乗り込んだ。
もちろん二人きりではなく、父の従者が付いている。
「ユリア様、今日はユリア様に挨拶したい人達が大勢いるでしょうから気を付けて下さいね」
「えぇ、もちろんです。ジャンニーノ先生から離れないようにしますね。そういえば先生、昨日寝る前に魔法の構築方法の勉強をしていたのですが……」
「それは右から魔力を操作した時に……」
先生は私の疑問にさらりと答えてくれる。
さすが先生ね。
馬車はすぐに王宮に到着した。
魔法談義に花を咲かせていた私達には少し不満が残ってしまったわ。
馬車から降りて父達と合流した私達。会場に入ると既に沢山の人で溢れていた。年に一度の王宮の舞踏会ということもあって沢山の人がいるわ。
この舞踏会は年に一度、一週間かけて舞踏会が開催されるの。
一週間の間に国中の貴族が王宮へ訪れることになっているわ。
今日は初日ということもあって混雑している。私は父達の後に続いて歩いて陛下の元へと挨拶に行く。
高位貴族達からの挨拶は既に始まっていて慌てて列に並んだ。
「王国の太陽であらせられる陛下の臣下としてこの舞踏会に参加出来たことを誇りに思います」
「オズボーン伯爵、よく来た。今回のユリア嬢の活躍とても素晴らしいものであった。ユリア嬢は欲がないのだな。
私としては寂しい限りだ。して、ユリア嬢のエスコート役はチスタリティ子爵子息か。彼も我が国が誇る優秀な魔法使い。
伯爵は彼をユリア嬢の婚約者にしたのか? 我が息子が残念がるな。ハハハッ。舞踏会を楽しまれよ」
陛下は父にそう話すと従者はすぐに次の方、と言われてしまった。
父がチクリと釘を刺された感じね。
挨拶が終わった後、父と母はあっさりと私達を残して他の貴族へ挨拶回りを始めた。
「いいか、姉上は黙って壁にいろ。これ以上我が家の足を引っ張るなよ。いいな」
「足を引っ張る、ねぇ。二人とも騒ぎを起こして私を困らせないでちょうだいね」
弟二人は顔を真っ赤にして反論しようとしていたけれど、公衆の面前で兄弟げんかをするのは不味いと二人とも気づいたようだ。
二人は文句を言いながらその場を去っていった。
「家族があれでは先が思いやられるね」
「……えぇ。全く以てその通りです」
「ユリア様、踊りませんか?」
「ジャンニーノ先生は踊れるのですか?」
「一応、貴族の端くれですし、筆頭になってからお誘いは多くあるので。あぁ、それからこの場では先生では駄目ですよ」
「ジャンニーノ様、宜しくお願いします」
二人でダンスしている人達の中に入って礼をした後、ダンスを始める。まだ成長しきっていない分、身長差があって先生とダンスをするのは動きづらい。
けれど、先生は私に合わせて踊ってくれているのでとても踊りやすいわ。
「ジャンニーノ様、お上手なんですね」
「ユリア様も上手ですよ。社交の場に出るのは苦手ですが、こうしてユリア様と踊るのならもう少し出ても良さそうだ。でも、どちらかと言えば魔法談義を楽しんでいたい」
「ふふっ。先生らしいですね。私も先生と魔法の話をしているのは楽しいです」
私達はダンスを踊った後、先生のエスコートでバルコニーに出た。
ダンスホールは熱気に包まれているためダンス後はこうしてバルコニーに涼みにくる人は多い。
「先生、それにしても今日の舞踏会はよく開催されましたね。犯人がまだ捕まっていないというのに」
「そうですね。この舞踏会で問題が起きないようにしているとはいえ、誰もが不安になる」
煌々と魔法灯で照らされているダンスホール。その賑やかさがバルコニーから心地よく聞こえてくる。
私達が雑談をしていると、女性達が近づいてきた。




