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「ユリア様! 試験の結果が張り出されてあったわ。見にいきましょう?」
私はリーズと一緒に校舎の入り口に向かった。
結果が張り出されている掲示板には多くの生徒がいて賑わいを見せていたわ。
私は少しドキドキしながらリーズと一緒にその人混みをかき分けて掲示板を覗く。
一位はヨランド様。二位はランドルフ殿下。マーク様は十位だったわ。流石優秀な方達は違うわね。ランドルフ殿下の婚約者候補の令嬢達はマーク様の後ろに続いている。
「ユリア様! 私の名前がありましたっ」
なんとリーズの名前が六位に書かれていた。
「凄いじゃない。頑張っていたものね」
私の順位は三十位。リーズがとても驚いているわ。予想とは大きく外れてしまったけれど、Sクラスが二十人強なので丁度いい場所に位置している。
リーズには申し訳ないけれど内心浮かれっぱなしだ。
流石自分! 丁度良い位置にいるわ。
この調子で次も頑張ろうと心に決める。
試験結果を見終わった後、いつものように中庭で仲良く食事をする。言いにくいのか少しモジモジしながらリーズは試験結果の話題にする。
「ゆ、ユリア様、三十位。Aクラスでは、上位ですねっ」
リーズが気を遣って声を掛けてくれる。
「リーズ、気を遣わなくて結構よ? 領地で全く勉強してこなかったから十分高い方だわ」
「そ、そうですよねっ。え? 全然勉強してこなかったのですか?」
「えぇ。学院に入る半年前から家庭教師が付いて文字を教わる所からでしたから。そう思えば十分ですわ」
「!!? むしろそれでAクラスの上位だなんて凄いですねっ。尊敬します」
「私は親から期待もされていないからこれで十分なの。リーズは王宮の文官目指すのならSクラスに入れるように頑張らないといけないわね」
「ユリア様は王宮魔法使いを目指さないのですか?」
「まだ、未定、という所ね。自分に何が合っているか考えている所よ?」
「そうなんですね。私も目標に向かって頑張らないと!」
そう話していると、ランドルフ殿下が側近を連れてこちらへと歩いてきた。
それを見た私とリーズは驚いたわ。
二人でスッと立ち上がり、臣下の礼を執り、定型文となっている賛辞の言葉を口にする。
「王国の星であらせられるランドルフ殿下にお会い出来た事を嬉しく思います」
リーズは平民なので知らなかったようだけれど、私に合わせてぎこちない礼をする。多少なりとも王子と一介の令嬢とは立場が違う事をきっちりと意識してもらいたいわ。
「堅苦しい挨拶はいいよ。リーズ嬢、今回のテストでSクラスの者達より成績が良かったね。おめでとう。オズボーン伯爵令嬢も三十位と大健闘だったね。……素晴らしい。おめでとう」
「「ありがとうございます」」
殿下達は何しにきたの?
一瞬何か殿下の顔色が悪かったように見えたけれど、気のせいかしら。
「ランドルフ殿下や側近の皆様の足元にはおよびませんわ。それにしても今日はどういったご用件でしょうか?」
失礼がないように、でも用がないならさっさと帰れと雰囲気を少し出しながら聞いてみる。
「いつも令嬢達に追いかけられて昼食もゆっくりと食べられなくてね。ゆっくりと食べられる場所を探していたんだ。……一緒に食事でもどうだろうか?」
なんで避けているのに寄ってくるの!?
リーズは動揺しながらも断れないと判断したようで私の隣に座り「どうぞ」と一言。
私達の向かいの席に三人が座った。
「いやー良かったよ。いっつもあの四人に纏わりつかれているからなぁ」
「マーク様それは彼女達が可哀そうですわ。彼女達にとっては将来が掛かっておりますもの。必死になるのは当然だと思います」
微笑みながら彼女達のフォローは忘れない。殿下が早く婚約者を決めないからこうなるのだからね。暗にそう言ってみる。
「ユリア嬢はどうなんだい?」
どう、とは? ヨランド様の言い方はどうとでも取れる言い方をしているわ。
何にも考えていない振りで通すしかないのかしら。
一瞬だったけれど、様々な考えが過る。
「……私、ですか? 将来はまだ決めていませんわ。やりたい事が沢山ありますから。魔法使いとなって様々な国を渡り歩くのも楽しいかもしれませんね」
「ランドルフ殿下の婚約者候補に名乗りを上げる事は考えないのですか?」
私は顔に出かかった嫌悪感をグッと堪えて不思議そうな顔をする。
「ふふっ、可笑しなことを。我が家の爵位はギリギリ伯爵位ですし、王家の後ろ盾になるほどの裕福さはありませんわ。
私自身幼い頃から最近まで領地で療養しておりましたし、病気持ちの令嬢が立候補なんて恐れ多すぎますわ。
残念ながら下に跡継ぎもおりますから家族からも期待されていませんし、瑕疵のある令嬢を娶りたくないらしく釣書は届いていないのです。私は気ままに過ごすだけですわ」
ふふっ馬鹿ね、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。
流石にヨランド様も言葉に困ったようだ。
前回の時はお茶会で話したのを切っ掛けに婚約者になった。
そこにはオズボーン伯爵家の働きかけもあっただろうけれど、殿下の一言で決まったのだと思う。
でも、謎よね。
婚約者になってから忙しいながらも時間を合わせてはお互い顔を真っ赤にしてお茶をしていたの。お互いが相手のことを思い合っていたと思っていた。
学院に入ってから殿下はヴェーラ・ヴェネジクト侯爵令嬢と仲良くなり、私の事などパタリと見向きもしなくなったもの。
最初から彼女を婚約者にしておけば良かったのよ。
そう思うと前回の事とはいえ、気持ちはキンッと固く尖り穏やかではいられない。自分の気持ちを隠すようにさっと食事を終えて立ち上がる。
リーズも食べ終わったみたいで私と一緒に席を立った。
「さて、私達は先に失礼します。ご令嬢避けでしたらこれからも私達を気にせず中庭でお食事をお取りくださいね」
私達は礼をした後、立ち去ろうとした時、ランドルフ殿下から声を掛けられた。
「……ユ、ユリア嬢は、この後、何か用事があるのかな?」
「? えぇ。残念ながら用事がありますの。では失礼します」
今から治療院に行かなくてはいけないの。リーズと『何だったのかしら?』と話しながら寮に帰る。
私の後ろ姿を追う視線に気づかずに。




