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79 ロイとフィール

 オーストルの王城の国王夫妻が暮らす部屋。

 中にはいくつも部屋があり、入口がひとつしかないことから、まるでそれだけでひとつの家のようになっていた。


 その一室には、20人以上が座れそうな縦長のテーブルが置かれ、アンバランスなことに椅子は二つしか置かれてなかった。


 その片一方の椅子に座り、少女は俯きながら、手の中のあるものを磨いていた。


 白い無地の小さな陶磁器製のカップ。カップのラインはすべらかで凹凸ひとつなく、とても綺麗な曲線を描いている。

 少女はそのカップを大事そうに手に持ち、綺麗な白い布で、汚れひとつつかないように真剣に磨いていた。


「フィールさま、そろそろロイ陛下がいらっしゃいます」


 リネットがそう言うと、少女が顔をあげる。

 彼女の美しい金糸のような髪がさらりと揺れ、美しい青い瞳がこちらを向く。


 幼いころからずっと見続けているのに、その容姿はリネットすらため息をつかざるをえないような美しさ。

 目、鼻、口、その顔にはすべてのパーツが精緻に配置され美しい。なのに美人にありがちな冷たさなど感じさせることなく、その目のラインは人の心を安らがせるような優しげな印象を与える。

 そんな各国の王族の美姫をならべても、ダントツと言っていような完璧な美貌を持ちながら、彼女の姉も持つどこか幼げな雰囲気が、さらに男性を惹き付けるのだと思われる。

 デーマンの周りにいた王族たちが、みんな彼女にぞっこんになってしまったのも納得である。


 フィールは顔をあげると、リネットにこくりと頷いた。


「わかったわ。私とロイ陛下にお茶をいれてもらえるかしら、リネット」

「はい、いつも通りそのカップでよろしいですか?」

「ええ、お願い」


 フィールの声は少し細く感じるけど、穏やかに優しく響く透明な声だ。

 その声で丁寧にお茶をお願いされ、リネットはいつも通り、彼女の綺麗に磨かれたカップにお茶を入れる。


 白いカップにお茶が注がれていく様子を、フィールはじっと眺めている。

 普通はティーカップも暖めておくのだが、リネットはカップを手放したがらないフィールのために低温でもおいしいお茶を準備していた。

 白磁器の色に、薄い茶色のぬるめのお茶が溜まっていく。


 それからリネットは長いテーブルの横を移動し、この国の王が座る椅子の前にあらかじめ暖めておいたカップを置き、今度は熱い紅茶をそそいだ。


「ありがとう、リネット」


 フィールがいつも通り、お茶をいれてくれたリネットに微笑みかけた。


 それから間もなく、廊下の向こうから足音が聞こえる。

 いつものようにひたすら急ぐような、早足の足音。


 ずっと扉の前に控えていた第一騎士隊の騎士たちが、外の騎士と合図を受け渡し扉を開ける。


「待たせてしまってすまない」


 その向こうから謝罪の声とともに男が現れる。

 黒い髪とブルーグレイの瞳をした怜悧な美貌の男。

 この国の国王であるロイである。


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