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 フィーは一緒に来た見習い騎士たちを置いて、女性用のサウナへと歩いていく。


 見習い騎士用のジャケットは脱いでるので、上は黒いカットソー、下はロングの白いズボンという格好だ。

 その印象は女の子っぽい顔だちをした男の子と、ボーイッシュな格好をした少女、その中間にある。

 まわりから見る人は、女子サウナに向かっていく姿から、その子が女の子だと理解する。誰も疑問には思わない。


 事実、フィーはそんな格好をした少女だった。

 当たり前に自分の性別に合った女子サウナに入ろうとしているだけなのである。


 フィーは当たり前に女子サウナの扉を開けると、当たり前に中に入っていった。

 入ってすぐの場所は料金所で、そこから更衣室に繋がっていた。


 扉の中に足を踏み入れる瞬間に、フィーは少し髪をいじる。

 横髪をさっといじると、毛量は少なめだけど、首もとまである長さのサイドの髪がフィーの白い頬を覆い、顔の印象を変える。

 フィーの顔に少し残ってた少年っぽさが消え、女の子の印象に近づいていく。


 実はフィーのサイドの髪は二段式になっていた。

 普段だしているサイドの髪は、頬の半分程度の長さしかなく、フィーの顔を少年っぽくみせている。それとは別に、細いけど首もとまである長さのサイドの髪をフィーは後ろに流して隠してあるのだった。

 普段は髪を糸みたいにして結んでこれは固定してあるけど、これをほどいて顔の横に流せば、簡易的に印象を変えることができる。

 コンラッドさんのアドバイスと技術で、そういう風にカットしてもらっていたのだ。


 そして少年っぽく荒めにしていた髪も、手櫛で梳きなおして、フィーの見た目の印象は一気に女の子っぽくなった。


料金所の女性も、フィーに対してなんら不審な顔をすることなく、お金を受け取ってタオルなどをくれる。


 更衣所でもフィーのことを見咎めるものは誰もいない。

 それはそうだ。女子サウナに女の子が入っていて文句がある人がいるはずがない。


 フィーは服を脱いで、水で軽く訓練の汗をながしたあと、それからゆっくりとめいいっぱいサウナを楽しんだ。

 誰の目も気にせず入れるサウナ。熱く汗がたっぷりでるけど、ごくらくだった。


 ゆっくりとサウナを楽しんで、最後に汗を水で流し、髪を整えサウナを出ると……。


 もう見習い騎士の少年たちは、外で待っていた。

 髪が濡れていることから、少年たちもサウナに入っていたのだろう。ちょっと気持ちよくて長居しすぎたかもしれない。

 フィーは少し少年たちに申し訳ない気持ちになった。


 少年たちはずっとちらっちらっと、視線を逸らしながら女子サウナの扉の方を確認していた。

 その頬は少し赤い。


「お待たせー」


 フィーは少年たちに足早に近づいていく。


 何事もなかったかのように女子サウナからでてきたフィーの姿を見て、少年たちの目が見開いた。クーイヌだけは事情を知った顔をしていたが、アイコンタクトを送り黙っているように念を押しておいた。

 クーイヌはもちろんとこくこく頷いた。


 少年たちの方まで歩いていきジャケットを受け取ると、少年たちが動揺の混じった声で聞いてきた。


「お、おまえ本当に入ったのか……!?」

「女子サウナに……!」

「うん、ゆっくり堪能させてもらったよ。遅くなってごめんね」


 堪能、という言葉を聞いて少年たちがさらに顔を赤くし、ごくりと唾を飲んだ。

 フィーが堪能したのは、蒸気が出て汗がでるサウナだったのだけど。きっと少年たちが期待した堪能とは違っていただろう。


しばらく、少年たちが目を見合わせ、沈黙が続いた後、一人の少年が我慢できないように聞いてきた。


「それで……どうだったんだ……?ヒース……!その……女子サウナは……!」


 そう聞かれてフィーは少し沈黙して、少年たちの質問の意図を掴むと。

 顎に指をあて、何かものすごく意味ありげな笑みを浮かべると、無言でただふっと少年たちに笑って見せた。


 その瞬間、見習い騎士の少年たちは悟った。

 自分たちの仲間であるヒースが、今日、自分たちのまだ見ぬ高みに達したということを。


 実際のところ、ただ女の子が女子サウナに入っただけで、何も凄いことはしてないのだけど。

 少年たちがおそらく見たかっただろう光景なんてフィーは興味ないし、ただサウナを楽しんだだけだった。


 しかし、まだ歳若い少年たちの中では、フィーは自分たちの知らない世界へ到達した男だった。

 事情を知っているクーイヌだけは、顔を真っ赤にしながらちょっと呆れた顔で顔をそらしてるけど、もう一度、黙っているようにアイコンタクトを送っておいた。


 少年たちのもつ女子サウナへの憧れ。それがそのまま、その場所に入って帰還を果たしたフィーへの尊敬とか畏怖みたいなものに変わる。


「それじゃあ、帰ろうか」


 さわやかにみんなにそういったフィーは、その背中に少年たちの憧憬の視線を一身に受け、サウナも堪能し、気持ちよく王城へと帰っていった。




 後日、サウナにいったメンバーにより、フィーに2000ポイントを越える点数が入れられ、フィーは男らしさランキング3位に一気に駆け上がることになった。

 1位のゼリウスは4000ポイントでまだかなり差があったが、この凄まじい昇格は、北の宿舎全土で話題になる。


 しかし、その点数はすべて理由の欄が白紙であり、誰が聞いても少年たちはポイントを入れた理由を語ることは無かった。


 この事件を受け見習い騎士たちの間では、ヒースがまた汚いことをしたに違いない、と噂になった。


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