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「それじゃあ、ルールを説明するぞ」
どうやら男らしさを競うのにはルールがあるらしい。
フィーは休憩室の椅子に座って、ルール説明を受けた。
「男らしさを競う期間は約1ヶ月。まず参加者は全員500ポイントを持っている。これをその期間、男らしいことをした奴に与えていって、ポイントが高かった奴が最も男らしい男になる」
「なるほど~」
基本的なルールは単純明快だった。
つまり各自男らしさを競いながら、みんなでその男らしさを評価しあうとうわけだ。
説明をしてくれていた見習い騎士の少年は、フィーになにやら新しい紙を手渡した。
さっきのランキングが乗っていたのとは別の紙だ。
そこには定規で綺麗に線が引かれ、二つの名前欄と理由という項目があってすでにいろいろ書かれていた。
「ポイントを渡したいときは、この紙に書くんだ。理由は書かなくてもいいが、基本的には書いたほうがいい」
「なんで?」
「ポイントを与えるって行為もまた男らしいんだ。だから男らしい理由なら、逆に自分がみんなからポイントを集めることができる」
なるほど、とフィーは感心した。ポイントを与えることも戦略のひとつになるらしい。
フィーは少年に疑問に思ったことを聞いた。
「自分にポイントを入れるのはいいの?」
これができるなら罰ゲームの回避はものすごく簡単になってしまう。
「別に禁止されちゃいない。でも、それは男らしくない行為だからな。ほかの人から点数はもらえなくなってしまう。上位は決して狙えないってことさ」
「罰ゲームを怖れて自分に点数入れるようじゃ、男らしさからは程遠い」
「罰ゲームの可能性があるとしても、相手にポイントを入れる行為。それがまた男らしいんだ」
「なるほどー」
説明してくれていた少年とその隣の少年が、男らしさを誇った顔でそういった。
正直、穴だらけのルールだとフィーは思うけど、男らしい少年たちには何も問題ないらしい。
「さらに自分がもらったポイントは他人に譲渡することもできる」
「譲渡?それはさすがにする人はいないんじゃないの?」
自分がもらったポイントを相手に渡してしまうなんて、何のメリットもないと思う。
「いや、他人にポイントを譲渡するのはかなり男らしい。今期は沈んでも、来期にいい成績が期待できる」
「ポイントを全部誰かに譲渡し、最下位に落ちてからの来期に挑む。かなり男らしいぜ!」
「そうなんだ……」
(それはただの馬鹿な気がする……)
ただ男の子たち的にはアリな戦略と考えているようだった。
「さすがにやる人はいなくて、いまのところ僕が最下位だけどね……」
しかし、レーミエが肩を落として現実を語った。
さすがにやってみたいだけで、実際にやる男はいなかったらしい。
「いやいや、3期連続で最下位に甘んじるなんてある意味男らしいぞ。10ポイントやるよ」
「うん、絶望的な状況で保身に走らなかったのは偉い。俺もレーミエに10ポイント」
そういって嘆くレーミエに何人かの少年たちが、第四回用の用紙にレーミエの名前を書いていった。
「あ、ありがとうぅ……」
レーミエは感動で瞳を潤ませながら、少年たちにお礼を言う。
今回こそ最下位を脱出できるのだろうか……。
「ちなみにトップの方は3期連続でゼリウスが1位だ」
「この第四回も現在1位であいつが大本命だと言われている」
少年たちの口から出てきた名は、侍女たちの話題にもよく出る少年のことだが、いま休憩室にはいなかった。
「あいつの男らしさはとにかくハンパないからな」
また別の見習い騎士の少年が、腕を組み頷きながら噛み締めるようにしみじみと言った。
「ああ、あいつの男らしさは俺でも認めざる得ないぜ」
ゴルムスも腕をくんで、神妙な顔でうんうんと頷いた。
「あいつ、ただ牛乳を飲んでるときですら男らしくて、びっくりしちまったぜ……」
「あいつにだけは勝てる気がしねぇ」
「ずっとあいつが1位になりそうだから、実質的には2位を1位にしようと言われはじめてる」
「男らしさの化身のような男だ」
少年たちから口々にゼリウスの男らしさを賞賛する声があがる。
フィーにも渡された用紙の一番上に燦然と輝く名。
フィーとも顔見知りの見習い騎士ゼリウスは、どうやら男らしさランキングでは絶対的な王者というべき存在だったらしい。
まあ、わからなくもない、とフィーも思った。それほど男らしいのだ。ゼリウスという少年は。
間違いなく上位を狙うフィーの壁となるだろう。
ついでにランキングを見ていくと、ゴルムスが5位でかなりの上位、ギースも次点で6位につけている。スラッドも12位でそこそこ高い。
そしてフィーはランキングの中にある名前を見つけた。
「クーイヌ……」
その名前を呼ぶと、フィーの後ろにいたひとりの少年がびくっと震える。
「なんで僕に黙ってひとりだけ参加してるの?」
男らしさ第三期のランキング表には、しっかりとクーイヌの名前があった。順位は22位ぐらい。
ポイントが入った理由には「バカなところがある意味、男らしい」「ヒースの尻にしかれてるさまが父親を思い出す」「強い」などがあった。
フィーよりあとから転入してきたくせに、ちゃっかりとランキングに参加していたのだ。
しかもフィーには秘密にして。
褐色の肌の少年は、小さな少年―――中身は少女―――ににらまれ、焦りながら言った。
「い、いやだって……、ヒースには関係ないかと思って……だって……」
危うく口がすべりそうになったクーイヌを、フィーがにらんで言葉を止めさせる。
クーイヌの中ではヒースは当然ながら女の子。まさか男らしさランキングに参加したがるとは思わなかったのだ。
しかし、クーイヌの心フィー知らず。
フィーはクーイヌをじろっと睨むと。
「あとでお仕置き」
ときっぱり宣言した。
「はい……」
それにクーイヌが肩を落としうなずいた。
何も考えてない作者のために、お仕置き案を募集いたします。
軽くできて、あんまり痛くなさそうなのがいいです(・ω・)ノ




