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「すまなかった、ヒース」
集会所にもどってきたフィーを待っていたのは、そういって頭をさげるイオールの姿だった。
思わずフィーの方が焦ってしまう。
「ぼ、僕のほうこそごめんなさい!たいちょーにバカなんていっちゃったし」
慌てて首を振りそういったヒースに、イオールは真剣な表情で言った。
「ならば、許してもらえるか?」
「はい!もちろんです!」
たいちょーに会うのが気まずいと思っていたフィーだが、まさか相手の方から謝られてしまうなんて思わなかった。
フィーはほっとすると共に、たいちょーはやっぱり器が大きいんだなぁ、と思った。
意外にもはやく、イオールと仲直りできたフィーは上機嫌になった。
「それじゃあ、これからは女の子にもっとやさしくしてくれますね?」
「は?何故だ?」
フィーの言葉に、イオールは本気で何をいわれたかわからないという顔で首をかしげた。
その反応に、フィーの頬に汗が流れる。
「だ、だってさっきすまなかったって、謝ってたじゃないですか……」
「うむ、お前の機嫌を損ねてしまったようなのでな。きっとお前の気にさわる態度を俺がとってしまったのだろう。俺はお前とは良好な関係でありたいと思っている。だからとにかく謝ることにした。
お前にも許してもらえたようだ。良かった」
その言葉に、フィーの胸から深い絶望がせり上がる。
(だめだ……、この人。何も反省していない……!)
フィーはようやく気づいた。
イオールはただ謝っただけだったということに。
別に何か悪いことをしたと理解したわけじゃなく、フィーとの関係を継続したいから、自分に謝ってきただけなのだ。
ぜんぜん良くない。
ちゃんと話さなきゃ。
「あのですね。僕が怒ったのは、女の子に酷いことをいったからです!」
「酷いこと?」
「あの侍女の子を泣かせてたじゃないですか」
「しかし、あれは必要なことだ」
「必要なことでも、もっと良い言い方があるでしょ?」
「いや、あれがベストな言い方のはずだ。証拠にあの言い方をしたときは、必ずその女は二度と寄ってこない」
イオールのセリフに、フィーは口をあんぐりと開けた。
「お、女の子にもっとやさしくしようと思わないんですか!?」
「なぜだ。そんなことをしても、何も仕事には進展をうまない。むしろ、余計な手間をとらされ能率がさがっていくばかりだ」
「そんなことばっかりしてると、いつか女の子から痛い目にあわされますよ?」
「それは女たちが反乱を起こそうとした場合の話か?
いいだろう。そのときは俺の全力をもって、それを平定して見せよう!」
女の子についてやさしくしましょうという話をしていたはずなのに、イオールの背中からは謎のオーラが立ち上り、ゴゴゴゴという音まで聞こえてきた。
何故だ。なんでこんな話になる……。
フィーは妙な方向ばっかりに転がっていく話に、頭を抱えたくなった。
しかし、だいたいの主張はわかった。つまり、女の子に優しくすることは自分の仕事に貢献しないので、やる必要がない、むしろ近寄られたら邪魔なので遠ざけたい、ということらしい。
「たいちょーは……」
フィーはちょっと悲しそうに目をふせて、イオールへと尋ねた。
「たいちょーは、僕がたいちょーの役に立たない無能者なら、こんな風に親切にしてくれたりはしないんですか……?」
頷かれたら嫌だな……、そんな想いがフィーの胸をよぎった。




