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ちょっと軽薄な、でも親切な騎士につれられて、フィーはようやく城門をでることができた。
「俺はクロウっていうんだ。もうわかってるだろうけど、オーストルの騎士さ。お前はなんていうんだ?」
「僕はヒースっていいます」
フィーはさらりと答える。
二週間の間に、偽名についてはちゃんと考えた。
(ううん、偽名じゃない。これがわたしの新しい名前になるんだ)
本当はまったく違った名前にしてみたかったのだけど、呼ばれて反応できなくて不振がられるとこまる。
だからフィーとヒー、ちょっと似た発音の名前にして妥協したのだ。
門をでても入団希望者の列は続いていた。
フィーとしてはもう大丈夫だったが、クロウは列の最後までちゃんと案内してくれるつもりらしい。
一緒に隣を歩く。
「ヒースはどうして騎士になりたいって思ったんだ」
「あの、えっと……」
そういわれてフィーは慌てた。
目的が明確すぎて、逆に建前上の理由をかんがえるのを忘れていた。
正直に、新しい身分と人生が欲しいからなんていえない。
あわててフィーがひねりだした答えは
「か、かっこいいからです!」
我ながらなんていい加減な理由だろう。
フィーの額にまた汗がでてきた。
しかし、クロウの反応はむしろ好感触だったようだ。
「そうだよな。騎士はかっこいいよな。俺もかっこいいだろう?」
「はい、憧れます!」
多少のよいしょもあるが、クロウをかっこいいと思うのは本当だ。
金色の髪に整った顔立ち、すらりとしつつも鍛え上げられた体は、鎧をまとい剣をさしてると本当にさまになってる。
フィーも騎士になりたいと昔は思ってたのだ。それは女として、王女としての責務を負わされるにつれ忘れてしまったことだったけど。
クロウの外見は、そのときフィーの憧れた騎士そのものだった。
「うんうん、そうだろう。騎士はいいぞ。女の子にもてもてだ。
お前も騎士になれたら、どんどん女の子が寄ってくるぞ。彼女だって何人もできる!」
「そういうのはいりません……」
(やっぱり軽薄な人だ……。外見は本当にかっこいいのに)
フィーはクロウをちょっとつめたい目でにらんだ。
そんなフィーの反応をクロウは笑う。
「はっはっは、ヒースはまだまだお子さまだな
そういえばお前ってちょっと聞きなれないなまりだよな。どこからきたんだ?」
なまりを指摘されて、フィーはぎくりとなった。
自分のプロフィールについては、二週間で考えてきていた。
けれど、なまりがあると言われて、そのプロフィールに一気に自信がなくなってしまった。
相手は自分よりこの国のことをたくさん知ってるのだ。どこであやしまれるかわからない。
なまりを説明できるような理由も考えてなかった。
「あのっ……、えっと……、その……」
「ああ、話したくないことだったか。じゃあ、話さなくていいぞ。悪かったな」
目に見えて動揺するフィーに、予想外にクロウはあっさりとひく。
(たぶん、不法移民の子どもなんだろうな……。服もぼろぼろだし……)
そういう子が身分と生活の改善をめざして騎士をめざすのはよくある話だった。
本当は彼らは取り締まらなければいけないのだが、騎士たちも彼らが犯罪者などにならなければ基本的に見逃すようにしている。
そしてこの入団試験はそういう人間たちへも門戸が開かれてるのだ。
取り締まり追い詰めるより、彼らにもチャンスを与え、正の方向に努力させる。
それは国王であるロイが考えた政策だった。




