表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/205

52

 誰もが固唾を飲んで見守っていたクーイヌとヒースの勝負は、あっさりとヒースによって断られた。

 それからヒースは何事もなかったかのように、スラッドたちとテーブルについてご飯をたべている。


 しばらく、木剣をつきだした格好のまま固まっていたクーイヌは、1分ほど経ってようやく動き出した。

 ヒースのもとにやってくると、焦った顔でもう一度言う。


「しょ、勝負しろ!」

「やだよ。さっき断ったでしょ」

「なぜだ!?」

「なぜもなにも、そんなの受けて僕になんのメリットがあるんだよ」


 その返事を聞いて、食堂のみんなは「ああ、こいつこんな性格だった……」と思い出す。

 一見、小さく可愛い系の容姿でか弱そうに見えるが、それに反して気は強く、誰に対しても物怖じしないし、言いたいことは言ってくる。

 普段はアホっぽく振舞ってるが、根っこの部分ではリアリストだった。


 いきなりやってきた転入者の決闘宣言に、みんなその雰囲気に飲まれかけていたが、妙に冷静になってきた。


 よく考えたら、ヒースが勝負を受けなければ、そもそも話が成立しない。

 そしてヒースの性格からして、あの反応では勝負を受ける確率はゼロだった。


 しかし、少年たちは思う。

 もっとなんか、違う対応があるんじゃないかと……。


 自分たちは見習いとはいえ、騎士のはしくれなのだ。

 騎士ってなんかこう具体的には言えないけど、とにかくかっこいい存在ではないだろうか。

 勝負を挑まれたら受けて立ち、互いに全力を尽くした熱い勝負を繰り広げたりする、そんな存在ではなかっただろうか。

 クーイヌがやって来たとき、確かに少年たちの頭にはそんなビジョンが浮かびあがったのだ。

 それが……。


 メリットがないから戦わない―――確かに正論だ……。正論だけど……。


(なんか俺たちの想像した騎士と違う……)


 ご飯を食べる片手間で、クーイヌの戦いの申し込みを切って捨てるヒースの姿に、騎士のはしくれたる少年たちは額をおさえた。


「メ、メリット……」


 メリットもないのに勝負を受けないといわれて、クーイヌが焦りながら考え出す。


「じゃあ……、明日の晩御飯のおかずを……」

「君、本当にバカなの?」

「うちの家宝であるサーベル―――」

「いらない」

「と、土地……?」

「そんなの僕がもらってどうするのさ」


 クーイヌは必死に考えながらメリットを提示するが、ヒースの答えはにべもなかった。

 ちょっとクーイヌは涙目になっていた。

 でも、ヒースの対応は冷たい。


「メ、メリットがなくても騎士たるものは戦いを挑まれたら、己のプライドにかけて―――!」

「あのねぇ、君さ。

 勝負に負けたら僕は、その肝心の騎士にすらなれる見込みがなくなるんだよ?

 僕を必要としてくれるのなんて、第18騎士隊の人達ぐらいしかいないんだからね。そうなったらプライドもくそもなく、おまんまの食い上げだよ。

 そんな勝負、いちいち受けるわけないでしょ。

 わかったら向こういって、うるさくてご飯がたべられないよ、もう」


 そういって邪険にしっしっと、犬を払うように手を振った。

 それからはクーイヌのことを見向きもしないでご飯を食べる。


 騎士同士の勝負は無かったが、口げんかではヒースの圧勝だった。何もいえなくなったクーイヌは、しばらく無言でその場にたたずむと、完全にもうクーイヌに反応しないヒースを見てとぼとぼとその日は席を離れていった。その目はやっぱりちょっと涙目だった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ