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(しまった!?ばれた!?)
「お嬢さん」といわれたとき、フィーの心臓がぎゅーっと縮まった。頬から冷や汗が垂れてくる。
なぜなら、このときフィーは男装してたからだ。
申し訳程度に本国から与えられていた結婚道具のひとつのハサミで髪をショートカットまで切り、離宮の中で倉庫になっていた部屋からボロボロになっていた庭師の服を見つけ、それに着替えた。
フィーとしては男性として、見習い騎士の試験を受けるつもりだった。
別に性別に制限があったわけではないが、少しでも受かる確率をあげたかった。
女の子より少年の方が受かりやすいだろう。単純な理由だ。
なんていったってフィーのこれからの人生がかかっているのだ。少しでも確率をあげたい。
(どうする……どうにかごまかせないかな……)
女だとばれるだけならまだいい。
こんなところにいるのを不審がられて調べられたら、いずれはこの国にやってきた厄介者の側妃だということがばれてまたあの離宮に放り込まれてしまうかもしれない。
今度は見張りもあんなやる気のない奴らのままにはしておかないだろう。
(とにかく、ここをうまく切り抜けないと)
情報が必要だった。
相手がどれだけ、こちらを女だと確信してるのか。それ以外に不審がられてることはないか。
「あのっ、えっとっ、僕はっ」
振り返ると、後ろにいたのは金色の髪をのばした、ヘーゼル色の瞳をした騎士だった。
背が高くすらっとしていて、顔立ちはととのっていて女の子にモテそうだった。
そして。
(なんか軽薄そう)
それが相手にもったフィーの印象だった。
騎士の男はなぜかこちらの顔をみると、面白そうに笑った。
「わりぃわりぃ、そうびっくりした顔するなって。
あんまりにも坊主がかわいい顔してるからからかっただけだ。
どうしたんだ?迷子か?」
その言葉をきいてフィーはほっとする。
どうやらからかわれただけだったらしい。
「あの、僕、列に並ぼうとしてたんですけど」
「あー、もしかして列から追い出されちまったか?おまえ体ちいさいからなぁ」
「は、はい!そうなんです!」
列に並んだことはないのだが、都合よく勘違いしてくれた。
フィーはその勘違いに便乗する。
「悪いけど、この場合は並びなおさなきゃいけないな。俺が最後尾まで案内してやるよ」
そういって騎士はにかっと笑った。
デーマンの侍女たちならその顔を見た瞬間、赤面して気絶してしまうかもしれないかっこいい笑顔だった。
ただフィーとしては、それよりも最後尾まで連れて行ってくれるというのがありがたかった。
(これで不審がられることなく城を出られて、入団試験の列にならべる!)
なんて運がいいんだろうと思う。
「ほら、お前ら道を開けろー。俺はおまえらみたいな図体のでっかい男の体になんてさわりたくないからな。触るならベッドの中で裸になってるかわいい女の子の体だってきめてるんだ」
そういって騎士は、ごった返した入団希望者の列から、通り道を開けていく。
(やっぱり思ったとおりの軽薄な人だった……)
その言動にフィーは、この騎士が第一印象どおりの人物だったことを確信した。
騎士は入団者の列から通り道を作ると、こちらへ振り向いて笑いながら手招きする。
「ほら、坊主。いくぞ」
「はい!」
(でも、意外といい人だよね)
フィーはその背中を微笑みながら追いかけた。




