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クーイヌの突然の勝負しろ宣言に、みんながざわついた。
「おいおい、勝負だってよ……」
「ヒースとか?」
「あいつめちゃめちゃ強いんだろ?ヒースの奴、大丈夫かよ」
「まさかヒースの第18騎士隊の座をねらって、こっちに転入してきたのか?」
クーイヌとフィーの視線がぶつかりある。
金色の前髪からのぞく、灰色のまなざしがフィーを見ていた。
「お前も騎士なら、逃げたりはしないだろ」
「おい、ちょっとまてや」
そんなクーイヌのセリフを、遮ったのはゴルムスの声だった。
「いきなり来てずいぶん勝手なこと言ってくれるじゃねーか」
「お前はザルシック道場のゴルムスか」
「へえ、知ってやがったか」
名前を言われ、ゴルムスがにやついた視線でクーイヌを見下ろす。
「これはお前には関係ない話だ。口をださないでもらおうか」
「そういうわけにはいかねぇな」
ゴルムスは後ろにいるフィーを親指でさした。
「こいつは俺の舎弟みたいなもんだ」
(舎弟……!)
フィーはゴルムスのそんなものになったつもりはなかったが。
「そいつが喧嘩をうられてるのにだまっちゃいられねぇ」
「なら、どうするというんだ」
ふたりは言葉を交わしたあと、にらみ合う。
そんな二人を見ていたフィーも声をだした。
「ゴルムス!友達って平等なものだよね!上下関係があるなんておかしいよ!断固抗議するよ!」
ゴルムスの舎弟宣言に腕をあげて断固抗議することにする。
「スラッド、このアホを黙らせてくれ」
余計なツッコミを入れたフィーは、ゴルムスによって会話から排除させられることになった。
「うん、今は黙ってたほうがいいと思うよ、ヒース」
「そうだぞ。ちょっと今は話さないほうがいい」
「その通りだ。話さないほうがいい……」
三人も同意し、スラッドの手が伸びてフィーはお口チャックされた。
「ふーふーもごもご!」
まだ何か言ってるが、以降はいないものとして扱う取り決めが暗黙のうちに完了した。
空気が読めてないヒースにみんなで適切な処置をほどこすと、ゴルムスは再びクーイヌと向き合った。
「こいつ……まあ今はいない扱いだが、ヒースと勝負したいっていうなら、まずは俺を倒してからにしてもらおうか」
そういうとゴルムスはにやりと笑って木剣をクーイヌへと向けた。
その挑発にまったく動じることなく、真剣な表情で返すと、クーイヌはゴルムスの言葉に頷いた。
「その勝負受けて立とう」
「おいこら、おまえたち。いまは訓練中だぞ!」
ゴルムスとクーイヌの勝負が今にもはじまるかと思えたが、それはヒスロの言葉によって止められた。
でも、勝負を受け終わるまで注意しなかったということは、しっかりヒスロも空気を読んでいたということだった。
「わかりました。ゴルムス、勝負は訓練のあとだ」
「おうよ。びびって逃げ出したりするんじゃねーぞ」
「そんなことあるはずがない」
そういって視線を交わしあう少年二人を、もう大人になったヒスロが「仕方ない奴らだ……」とあきれたような、でもどこか懐かしむようなため息を吐いて見ている。
そして午後の訓練がはじまった。




